各球団のクローザーを務める12人のなかで、今季、新たにその任務を負った日本人投手が1人いる。楽天の大型右腕・森原康平だ…
各球団のクローザーを務める12人のなかで、今季、新たにその任務を負った日本人投手が1人いる。楽天の大型右腕・森原康平だ。
パ・リーグで首位を快走する楽天は現在、12球団で最も高い得点力を誇り、森原にセーブシチュエーションで出番が回ってくる機会は決して多くない。チームは15試合終了時点で11勝を挙げたなか、森原が投げたのは5試合(1勝3セーブ、防御率0.00)。貴重な登板機会を目にしたファンは幸運と言える。投げている球の質が、抜群に高いからだ。

今季から楽天のクローザーとなった4年目の森原康平
185センチ、88キロの体躯から140キロ台後半の速球を両コーナーに制球よく投げ込み、打者を力で圧倒していく。フォーク、スラッター(スライダーとカットボールの中間のような球種)はいずれも鋭い切れ味だ。昨季セットアッパーを任された右腕は、まさに”守護神”に変貌した。
「今年は急ピッチの開幕なので、7月中旬までは『焦らず』がテーマです。まだまだよくなりますよ」
そう語るのは、森原の個人トレーナーを務める高島誠氏だ。同氏はオリックスやMLBのナショナルズで活動したのち、現在は広島でトレーニングジム「Mac’s Trainer Room」を運営している。オリックスの山岡泰輔やソフトバンクの高橋礼、アマチュアでは昨年春夏連続で甲子園に出場した米子東高校(鳥取)、フィジカル革命で注目を集める武田高校(広島)などが教えを受け、メキメキと成長している。
広島出身の森原が共通の知人に紹介され、高島氏を初めて訪れたのは、2016年ドラフト5位で楽天に指名されたシーズンオフだった。
「体が強いし、伸びしろをすごく感じました。当時は股関節の使い方がまだまだだった割に、スピードも出るし。そのあたりは年々改善されていますね」
山陽高校から近畿大学工学部、新日鉄住金広畑を経て25歳でルーキーイヤーを迎えた森原だが、放送関係者によると、楽天は伸びしろを評価しての指名だった。球団の読みは見事にあたり、年々、森原はレベルアップした姿を見せている。
とりわけ飛躍したのが、プロ入り3年目の昨季だった。開幕前に初めて侍ジャパンに選出されると、ペナントレースではリーグ6位の64試合に登板し、29ホールド、防御率1.97という好成績を残した。
森原の最大の武器と言えるのが、2500回転以上とも言われる質の高いフォーシームだ(プロ野球の平均は2200~2300回転)。近年、トラックマンやラプソードという測定機器が普及し、回転数や回転軸が注目されるなか、森原の速球の質は球界トップクラスにある。
「この4年間で球質がかなり上がっています。リリースをかなり前でできるようになっている感じはありますね」
高島氏がそう言うように、投手にとってボールを前で離せるメリットは大きい。単純に打者に対してより近い距離でリリースできるだけでなく、身体を合理的に使えている証であるからだ。
キーワードは、「股関節」である。高島氏が続ける。
「股関節の外旋が硬いと、体が前にいけません。だからストライクゾーンに強い球がいかないんです。よく学生の投手でいるのが、捕手が立っているときにはいい球を放るけれど、座ると同じ質の球を投げられなくなるタイプ。そもそも体が、指にかかっていい球が投げられる位置までいけてないんです。レベルは違えど、プロでもそういうことがありますね」
もう少し前方に体重移動できれば、身体で生み出した力を効果的にボールに伝達し、もっと質の高い球を投げられる投手がいる。身体動作の観点から、高島氏はそう指摘する。
プロに到達した投手は総じて高いレベルにある一方、長いペナントレースを戦う上で重要になるのが「継続性」だ。首脳陣にとって、安定感の高い選手は起用しやすい。その意味で股関節に柔軟性のある投手は、同じフォームで投げてボールの再現性を高めることができる。昨季、森原が1年間安定した投球を続けた背景には、そうした土台があった。
プロ入り前から4年間かけて股関節のトレーニングをしてきたことで、クローザーになった今季、森原はさらなる飛躍を果たそうとしている。高島氏が説明する。
「これまでの流れでやっているトレーニングもあるし、新たに取り入れたメニューもあります。開脚をしても以前より開くようになっているので、ウエイトでのスクワットも深くできるようになっていますね。動きのレベルが上がるなか、今年はハムストリングをしっかり強化しました」
そうして身体が進化を遂げるなか、必然的に鋭さを増した球種がある。スラッターだ。
山岡や山本由伸(オリックス)、千賀滉大(ソフトバンク)など、スラッターやカットボールを高レベルで操る投手には共通点がある。速球と同じ軌道で投げ、ピッチトンネルを形成して打者を打ち取っていくのだ。そうした投球を実践するには、股関節の柔らかさが必要になると高島氏は解説する。
「スラッターやカットボールは前で離せないと、いい球を投げられません。うしろで離せば離すほど、(発射角度が大きくなって)ある意味、ホップするじゃないですか。うしろで離すとボールが浮いてしまうので、いかにリリースポイントを前に持っていけるかの勝負。ということは、そもそも体のコンディションが悪い投手は投げにくいボールなんです」
森原が質の高い速球やスラッターを投げている陰には、股関節などのトレーニングを積み重ねてきた努力があるのだ。
くわえて、今季のハイパフォーマンスにつながっている外的要因もある。サウナだ。近年、『サ道』という漫画やテレビドラマが制作されるなど、サウナブームが密かに盛り上がっている。高島氏は自身のジムに機器を設置するほどの信奉者だ。冬の自主トレ期間中、森原を含め選手たちと近所の施設に出かけていたという。
「リカバリーに使いたいという目的です。プロ野球選手はみんなプレッシャーがかかるなか、サウナにはリラックス効果もあるので。試合が終わって、自分でボーッと考える時間をつくるのも大事かなと。サウナに入ると、その後の疲労感もかなり違いますからね」
今季は新型コロナウイルスの感染拡大により、選手たちは遠征先で外出の自粛を求められている。そんななか、宿泊先のホテルにサウナの設備があれば、心と体を整えることができる。今後パンデミックの状況が改善されていけば、遠征先の各地でサウナに出かけて心身のリフレッシュを図ることもできるだろう。
球団初の日本一に輝いた2013年以来の優勝を目指す楽天は今季、好スタートを切った。最速154キロを誇るクローザーの森原がいま以上にコンディションを上げてくれば、7年ぶりのリーグ制覇に向けて強烈な追い風となる。