メジャーへの移籍希望をすでに球団に伝えているDeNA・山崎康晃投手

 永遠に続くのではないかと思えたMLBと選手会の交渉が終わり、今季のメジャーリーグは現地時間の7月23、または24日の開幕が決まった。依然として新型コロナウイルスによるパンデミック下であり、さまざまな制約が設けられる異例のシーズンになる。それでも7月1日のキャンプ再開を前に、胸をときめかせているファンは少なくないだろう。

 もっとも、ここに至るまでの長い話し合いの末、リーグと選手会が結局、ほとんど何も合意できなかったという事実は見過ごせない。交渉の争点は、新型コロナウイルスによる健康問題ではなく、「カネ」。無観客ゲームを余儀なくされるがゆえに選手の年俸を削減したいオーナーと、健康を危険にさらしてプレーするのだから大幅減俸を飲みたくない選手側が真っ向から対立した。互いの利益を主張し合うのは、ビジネスでは当然とはいえ、全米で多くの失業者が出ている中での「銭闘」はやはり印象が悪かった。

 最後まで議論が噛み合わなかったのには、両者の不信感が大きく影響したのだろう。選手会側は、オーナーが交渉を引き伸ばしている理由は、試合数を減らして年俸削減したいからだと考えた。一方、リーグ側は、選手会の優先事項は試合数の増加よりも異議申し立ての権利を保持することだと考えた。

 結局、6月23日に両サイド痛み分けの形でシーズン開催こそ決まったが、最終的に同意がなされたわけではない。泥仕合の末に、残ったのはわずか60試合の短いシーズン。一時は導入が提案されたポストシーズンの枠拡大なども採用されず、莫大な収入減は確実な状況で、必要以上の遺恨を残す結果となってしまった感は否めない。

 2019年、MLBの収益は史上最高の107億ドル(約1兆1500億円)で、一見すると栄華を極めているように見える。観客動員こそ下落傾向にあるが、テレビ放映権料の高騰、動画配信などを手がける「MLBアドバンスト・メディア」の成功などで、莫大な利益を生み出すようになった。

 その一方で、選手のサラリーは頭打ち。平均年俸は過去2年連続でダウンしており、年俸総額47億ドル(約5000億円)は総収入の44%だ(NBAは51%)。ぜいたく税の対象ラインが事実上のサラリーキャップ(年俸総額の上限)のような役割を果たし、意図的に順位を落としてドラフト上位指名権を狙うタンキングも横行。即座の勝利を目指さないチーム作りも目立つなど、財布のひもを締めたがるオーナーが増えている流れに不満を感じている選手は後を絶たない。

 特に今季はコロナによって、リーグ全体の大幅減収は間違いなく、オフのマーケットへの打撃も大きいだろう。各チームの収入もガタ落ちで、その影響はFA戦線に出る選手たちを直撃するはずだ。

「これから3年間のFA戦線は厳しいものになる。私の好きな選手であるムーキー・ベッツ(ドジャース)は、FAになれば3億5000万ドルから4億ドルの契約を受け取るんじゃないかと思っていた。ただ、今オフは2億5000万ドルを得られたらラッキーなんじゃないか。それが経済の現実なんだ」

 5月下旬、「670 The Score」のラジオ番組に出演した際、大ベテラン記者のピーター・ギャモンはそう述べていた。ベッツ、JT・リアルミュート(フィリーズ)のような大物はそれでも好契約を得るだろうが、金額の低下は避けられまい。

 その他、コーリー・クルーバー(レンジャース)、ジェームズ・パクストン(ヤンキース)のような故障上がりの投手たち、マーカス・ストローマン(メッツ)、田中将大(ヤンキース)といった実績あるベテラン投手たち、さらに1年後をにらんで1年契約を受け入れたディディ・グレゴリアス(フィリーズ)、ジェイク・オドリッジ(ツインズ)、マーセル・オズナ(ブレーブス)のような野手たちまで含め、今オフのFA選手たちが受ける影響は計り知れまい。

 また、その打撃はこれからメジャーを目指す日本人選手たちにも波及することは必至とみられる。19年オフには千賀滉大(ソフトバンク)、西川遥輝(日本ハム)、有原航平(日本ハム)、山崎康晃(DeNA)、石川歩(ロッテ)といった複数の選手が近未来のメジャー志望を表明し、「(メジャー挑戦の)ブーム再到来か」などと言われた。

 ただ、資金が厳しくなる各チームが、ポスティングにまわせる金額があるかどうかは微妙だろう。アメリカで活動するある代理人に尋ねると、「日本人選手たちへのネガティブな影響はもちろんあるはずだ」との返事だった。

 ギャモン記者は「今後3年間は厳しい」と述べていたが、実際にコロナショックの影響が今オフだけにとどまるとは考え難い。今季開幕に向けた交渉が揉めに揉めたことが暗い影を落とす。近年もともと良くなかったリーグと選手会の関係が悪化し、次の労使交渉に早くも暗雲が立ち込めたとみられている。

 現在の労使協定は21年12月1日で満了。その後、リーグ全体の収益増にも関わらず年俸を抑えられがちだった選手会が反発すれば、激しい衝突は必至ではないか。だとすれば、21年を前に、1995年以来となるストライキは避けられないのか……。

 悲観的なことばかりを記したが、パンデミックの中で、すでに銭闘が繰り広げられたことを振り返ると、なかなかポジティブに考えるのが難しいというのが正直なところだ。コロナが奪っていったものをすべて推し量るのは現状では難しく、「ナショナル・パスタイム」(国民的娯楽)と呼ばれたメジャーリーグが巨大な危機を迎えているのは間違いない。

 今はただ7月下旬に予定される開幕まで無事にこぎ着け、可能な限り安全に、エキサイティングなシーズンが展開されてほしいもの。せめてそこから少しでもポジティブな流れが生まれていくことを願わずにはいられない。