福島良一「MLBコアサイド」 1973年の初渡米から47年にわたってメジャーリーグへの造詣を深めてきた福島良一氏に、…

福島良一「MLBコアサイド」

 1973年の初渡米から47年にわたってメジャーリーグへの造詣を深めてきた福島良一氏に、さまざまな魅力を伝えてもらう「MLBコアサイド」。今回はメジャーで激減している「完封勝利」について語ってもらいました。



日本人最多9度の完封勝利を記録している野茂英雄

 2020年シーズンのメジャーリーグ開催がついに正式決定しました。開幕日は現地時間7月23日もしくは24日。今季のレギュラーシーズンは60試合制で行なわれ、選手たちは7月1日に各球団のスプリングトレーニング地に集合したのち、全体練習を再開する予定です。

 この正式決定の発表があった6月24日からさかのぼること25年前、日本人にとってうれしい出来事がありました。日本人メジャーリーガーのパイオニアであるロサンゼルス・ドジャースの野茂英雄投手が、日本人投手として初めて完封勝利を記録したのです。

 1995年6月24日、本拠地ドジャースタジアム。その日のサンフランシスコ・ジャイアンツ戦はシーズン一番の大入りとなりました。5万3551人の大観衆が見守るなか、先発した野茂投手は強力打線を相手に9回2安打無失点。主砲バリー・ボンズなどから13個の三振を奪う快投を見せたのです。

 デビュー以来11先発目で初の完封勝利を飾った瞬間、場内はファンの歓声と拍手に包まれました。「ヒデオコール」が鳴り響くなか、本人は「完封よりも最後まで投げ切れたのが本当にうれしい」とコメント。ネット裏で観戦していた私にとっても、生涯忘れられない試合のひとつとなりました。

 その記念すべき初完封勝利から四半世紀。メジャーリーガーとなった日本人投手は、現在まで44人誕生しています。しかし、先発投手として9回を完投した経験があるのは12人だけ。

 また、9回無失点で完封を記録したのは10人。25年間でわずか27度しかありません。そしてその27度のうち、野茂投手は全体の3分の1にあたる9度も完封を記録しているのです。

 1996年9月17日、「バッターの天国」と呼ばれるデンバーのクアーズフィールドで行なわれたコロラド・ロッキーズ戦で日本人初となるノーヒットノーランを達成。そして2001年4月4日、ボストン・レッドソックス時代にもボルティモア・オリオールズ戦で自身2度目のノーヒッターを成し遂げました。

 それ以外にも、1安打の完封勝利は2度。さらに2003年のドジャース時代、2度目の開幕投手を務めた試合ではアリゾナ・ダイヤモンドバックスの最強左腕ランディ・ジョンソンに投げ勝ち、9回4安打無失点の完封勝利という快投も見せてくれました。

 野茂投手の完封劇を振り返ると、日本人最多という記録だけでなく、内容的にも記憶に残るものばかりだったように思います。ちなみに、完封数2位は黒田博樹投手の5度、3位はニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手の4度、4位は伊良部秀輝投手と石井一久投手の2度と続きます。

 意外なのは、松坂大輔投手(現西武ライオンズ)の名前がないことです。2007年にレッドソックスと超大型契約を結び、メジャーで日本人歴代6位の通算56勝をマーク。ワールドシリーズで日本人初の勝利投手にもなった実績がありながら、8年間でわずか1完投しかなく、完封勝利は1度もありません。

 たしかに現代のメジャーリーグでは、完封勝利が難しくなってきました。なぜならば、先発・中継ぎ・抑えの分業制がこの25年間でさらに進んだからです。

 それに加えて、先発投手の球数もケガの防止で制限されるようになりました。極端に言えば、ノーヒットノーラン級の快投を続けていても、球数の問題だけで交代させられることも珍しくありません。

 それには、時速100マイルを誇る剛腕リリーバーの存在も関係しています。先発投手がスタミナと球速を保ちながら好投していても、ブルペンにはそれ以上にボールが速く、三振を奪える投手たちが控えているからです。リスクを回避するため、リリーバーと交代させられるケースも増えてきました。

 また、近年の傾向であるホームラン数の増加も影響しているでしょう。すばらしいピッチングをしていたのに、たった1球の失投によって完封のチャンスを逃してしまったゲームも多く見られます。

 42年前の1978年は1034完投のうち、完封数は238もありました。しかし、球団数の増加に伴い試合数が増えているにもかかわらず、完投数、完封数はともに年々減少。1995年に野茂投手がデビューしたシーズンは275完投、88完封まで減りました。

 最近はその傾向がさらに加速し、昨年はわずか45完投しかなく、そのうち完封は26。つまり、完封する投手は1シーズン各30球団にひとり出るか出ないかの割合なのです。いまや完封投手は絶滅危惧種と言えるでしょう。

 このような状況だけに、日本人投手が今のメジャーで完封するのは非常に高い壁だと言わざるを得ません。しかしながら、ヤンキースの田中投手には野茂投手の記録を抜く可能性を感じています。

 前述のとおり、現在は野茂投手の半分にも満たない4完封。ただし、田中投手は2017年から3年連続で完封勝利を挙げているのです。

 とくに強烈なインパクトを残したのは、2017年4月27日に敵地フェンウェイ・パークで行なわれたレッドソックス戦。宿敵の強力打線を相手に、わずか97球での完封劇は圧巻でした。

 近年のメジャーは各チームとも強力なリリーフ陣を揃える傾向が強いので、先発投手は球数を抑えないとすぐに交代させられます。今のメジャーで完封勝利を挙げるためには、すばらしいピッチングをすればいいだけでなく、少ない球数で相手を打ち取るという新たなミッションも加わりました。

 100級未満での完封勝利は、メジャー通算355勝を誇る殿堂入り名投手にちなんで「マダックス」と呼ばれています。そのマダックスを成し遂げるためには、制球力がカギとなるのは間違いありません。

 昨シーズン、田中投手の球数は1イニングあたり15.3球。これはア・リーグ2位の好記録です。メジャー6年間の通算でも15.1球しか要しておらず、まさに田中投手のピッチングは完封投手向きと言えます。

 現在31歳の田中投手が今後も毎年1度のペースで完封勝利を挙げれば、30代後半で野茂投手の記録を追い越す可能性は十分にあります。今年は60試合しかありませんが、田中投手が限られた登板でどんなピッチングを見せてくれるのか、シーズン開幕が待ち遠しいです。