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 野球観戦にかかせないもののひとつに「生ビール」がある。日本全国どこの野球場でも、プロ野球開催日には内外野を問わず、売り子さんたちが10キロ以上の樽を背負い販売を行っている。生ビールを飲むことができない未成年の方も、その光景を一度は目にしたことがあるだろう。

 明治神宮野球場(以下、神宮球場)でも多くの売り子さんたちが、笑顔でファンを出迎えてくれる。そんな売り子さんたちは、どのような想いや考えをもって球場内を駆け回っているのだろうか。今回は神宮球場でキリンビールの販売を行っている璃里子さんに話を伺ってみた。

笑顔を見せる瑠里子さん

 見るからに大変そうなビールの売り子さんになったきっかけは、どのようなものだったのだろか。多くの野球ファンが気になる疑問を単刀直入にぶつけてみた。

 これまでにも多くの人から聞かれているであろう質問に、璃里子さんは「子どもの頃、球場に来たときに売り子さんがキラキラしてるな。かわいいな。いつかやりたいなって思えたんです」ととびっきりの笑顔で語ってくれた。

 男の子がプロ野球選手に憧れるのと同じように、璃里子さんは売り子さんに憧れたわけだ。

 小さい頃の夢や憧れは、時とともに忘れてしまうことも多い。しかし、璃里子さんはその憧れを忘れることなかった。大学生になってから自分で求人情報を探し、神宮球場での売り子のバイトに辿り着いたという。「売り子さんになる」という子どもの頃からの夢を叶えたのである。

インタビューに答えてくれた璃里子さんの仕事の様子

 そんな璃里子さんもすでに販売歴は3年目に突入した。この2年間で嬉しいこと、苦しいことにはどのようなものがあったのだろうか。

 嬉しかったことは、自分から買ってくれるお客様が作れたときだという。あたりまえではあるが、初めて買ってくれたお客様が毎日来ているのか、その日だけ来ているのかはわからない。次の機会に買ってくれて初めて「私から買ってくれるんだ!」と認識するようだ。

 とは言うものの、毎日何万人ものファンが足を運ぶ球場である。購入者だけとはいえ、ひとりひとりの顔を認識するのは大変なことだろう。しかし、人の顔を憶えるのが得意な璃里子さんは、自分から買ってくれたお客様の多くを記憶しているという。ビールの売り子さんにとって大事であろう能力を璃里子さんは兼ね備えていたのである。

 一方で苦しいのは雨の日など天気の悪い日だ。そういった日はお客様の入りも悪く、どこを歩いても売れず堪えることもあったそう。

 たしかにそうだろう。雨風で寒い日に冷えた生ビールを飲むのはなかなか酷なものだ。神宮球場は屋外ということもあり、雨がコップの中に入ることだってある。そういった状況のときに販売するのは苦労するのは当然の結果かもしれない。

 そんななかでも、顔見知りのお客様から「頑張ってるね!」と声をかけられ、買ってくれると嬉しくなるという。辛いときにかけられる激励の声というのは、パワーの源になるということを再認識させてくれた。

仕事中の瑠里子さん

 販売するにあたっては、ただ球場内を闇雲に歩いているわけではない。内野を主戦場としている璃里子さんだが、場合によっては外野にも足を運んでいる。内野で売れなくなってきたとき、外野にいる顔見知りのところへと出向くのである。

 また、時間も気にかけている。1杯目は早く飲み終わるから30分後に同じところを歩く、といった具合にだ。このように多くのお客様から買ってもらうために、創意工夫をおこなっているのである。

 これらは先輩から教えてもらったわけではないという。先輩たちの動きを見ながら自分で売り方を考えたそう。あたりまえではあるが、100%ビールが売れる方程式など存在しない。売り子さんそれぞれの売り方があるのである。プロ野球選手で例えるなら、「先輩の技を見て自分流にアレンジする」といったところだろうか。

最後は笑顔でメッセージを送った璃里子さん

 インタビューの最後に「雨の日も天気の悪い日も球場スタッフのひとりとして、笑顔で待ってます」とファンに向けてのメッセージを残してくれた璃里子さん。その笑顔に癒されるファンも多いことだろう。

 かつて璃里子さんが「キラキラしている」と感じた売り子さんたちと同じように、この日の璃里子さんも輝いていた。

ポーズをとる瑠里子さん

(記事:勝田聡)