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 中日ドラゴンズの本拠地・ナゴヤドーム。ここでも選手たちがフィールドで汗を流しているのと同じように、ビールの売り子さんたちも汗を流しながら笑顔で歩き回っている。

 選手たちがプレーを通して学びを得ているのと同じように、ビールの売り子さんにも「学び」がある。

 そんな「学び」を今年で3年目のシーズンを迎える谷口さんに話を聞いてみた。

【インタビューに答えてくださった谷口さん】

 谷口さんが売り子になろうと思ったきっかけは、小学校1年生の頃に遡る。野球が好きだったお父さんに連れられて遊びに来ていた野球場。そこで、ひときわ輝いていたのがビールの売り子さんだったのだ。

 ビール好きだったお父さんが、ビールを買っているときに売り子さんが見せる笑顔。その姿をとなりで毎日のように見てきた谷口さんは、「キラキラしてる! 私もなりたいな! 」と感じたという。きっと、これは一目惚れのようなものだろう。

 しかし、当時はまだ小学生。当然ながら売り子さんのアルバイトをすることはできない。思いを心の中で温め続けた谷口さんは、高校を卒業と同時にアルバイトに応募する。9年越しに念願叶って売り子さんとなったのだ。

【ポーズをとってくれた谷口さん】

 そんな谷口さんも1年目は売れなかったという。しかし、売り子さんは接客業のため、売れていなかったとしても常に笑顔でスタンドを歩き回らなくてはならない。心の中は辛い、でも笑顔を作らなくてはいけない、そのギャップに苦しさを感じたこともあったという。

 その苦しさを乗り越えたのは2年目の後半だった。「出勤時間が早くなって、売る時間が長くなったんです。それで気持ちに余裕が生まれたのかコミュニケーションをうまく取れるようになったんです」と谷口さんは笑顔で教えてくれた。

 コミュニケーションの重要性──あたりまえのことではあるが、自分で気がつくのはなかなか難しかったりもする。谷口さんはそこに気がついたのである。

【笑顔で仕事をしている谷口さん】

 谷口さんの接客には自分自身の「決めごと」がある。それはビールをコップに注いでいる約1分の間、お客さんに話しかけるという単純なことだ。簡単なようだが、意外にこれは難しい。

 谷口さんは中日ファンで埋まるホーム側ではなく主にビジター側で販売していることもあり、会話をするための知識が単純に6倍必要になってくるからだ。

 そのために出勤前には順位表を調べるなど、コミュニケーションの準備をしっかりしているという。その準備の甲斐もあってか、多くのお客様と会話が続いているそうだ。

 コミュニケーションの重要性、そして準備。社会に出るうえで重要なことを谷口さんはビールの売り子さんという仕事を通して自分で気づき、ものにしているのである。

【カップを片手にポーズをとる谷口さん】

 ビールの売り子さんとして学んだことで、すでに社会人としてのスキルを身に着けつつある谷口さんは、「野球を見に球場へ足を運んでいるファンの方と接するのは、時間にすると1分くらいかもしれません。そのわずかな時間でも『プラスアルファ』の楽しさを提供します」ととびっきりの笑顔でこれから来場するお客様への思いを教えてくれた。

 彼女の笑顔は人を惹きつける。谷口さんが子どもの頃に憧れたのと同じように、きっと今の子どもたちから憧れられる存在となっていることだろう。

 インタビューはわずかな時間だった。そのなかでも「プラスアルファ」の楽しさを受け取らせてもらった気がする。

記事:勝田聡