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写真提供=戸嶋ルミ


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『世界の野球人』をテーマにお送りする本連載。今回は前回に引き続き、元プロ野球選手で、現在は野球解説者を務める薮田安彦さんのインタビューの後編をお伝えする。インタビュー前半では、ご自身のメジャー挑戦経験から感じた日本とアメリカの野球の違い、言葉の壁に苦しんだご経験などを伺った。後半では、国による野球の違いと指導者としての現在からの視点からの意見をご紹介したい。

薮田安彦氏インタビュー前半はこちら

――日本のプロ野球とメジャーリーグ両方を経験され、移動や練習内容から試合中の時間の使い方まで様々な違いを感じられたようですが、一番の大きな違いは何だったのでしょうか

薮田安彦氏(以下、敬称略)「一番はパワーですよね。体つきも全然違いますし。あとONとOFFでの切り替えもしっかりしています。練習内容も全然違いますね。まずキャンプからして違いがあります。投手が先にキャンプに入って、野手は遅れてスタートします。投手は2週間位したら試合に出始めて、野手も1週間練習したら(試合に)参加してきます。練習時間も朝から昼まででした。向こうには40人枠というシステムがあるので、選手たちは開幕でその枠に入るために調整をします。開幕後も”試合でベストな状態にもっていく”調整をするので、チームとしての練習で振り込んだり投げ込んだりすることもないですね。個々に出てきて自分なりに調整して、という感じです。一方で、日本のキャンプでは”鍛える”ことを重視していますよね。朝から夕方まで練習をして、鍛えながら調整をしていきます」


写真提供=共同通信


薮田「一番いい例が、『ナイター翌日のデーゲーム』ですね。日本の場合、ホームチームは朝早くから来て午前中からバッティング練習を始めますが、メジャーはナイター開けのデーゲームのときは(チームでの)バッティング練習は基本的にやりません。いかに試合にベストな状態に持っていけるかは、個人で考えて調整になります」

 日本の練習の中には「鍛える要素」が暗に含まれていることが多いが、メジャーでは基本的に、時間も内容も個々の裁量に大きく委ねられている。日本より試合数も試合時間も多く、移動距離も長いため、身体的負担を考慮していることも理由に考えられる。

 また、薮田さんは、日本の野球は「全体的に細かい」と言う。アメリカは自分のスイングをして一番から九番までが打っていくが、日本は置かれた打順や状況に応じて求められたバッティングをしていくという点が決定的な違いだ、とのこと。また、一人ひとりの打者のバッティングの特徴や、自分自身のを特性を理解してプレーをする点が他国にはない綿密さを生み出しているという。

 パワーのアメリカに綿密さの日本――「国によっての野球の違いがあること」は、文化や国民性、体型・体格の違いなども影響している。メジャーリーグは野球界における世界最高峰であることには間違いないが、日本の野球の良さというものも当然存在しているので、それぞれの良さを尊重しあっていけばいいと、両方を経験した薮田さんは語った。


写真提供=戸嶋ルミ


薮田「今は大学生を指導しているんですが、みんな知識は豊富ですよね。自分が現役だった頃と違って今は圧倒的に情報量が多いじゃないですか。インターネットを通じて世界中の野球の動画を見ることができるし、トレーニング方法も簡単に調べることができますから。ただ、今の学生たちや若い人たちに言えることは、”自分をわからないと情報を活かしきれない”ということです。自分の特性をしっかり理解した上で得るべき情報を取捨選択しないと、頭でっかちになってしまって、せっかくの情報も活かしきれません。まず自分を知って、その上で得た知識をうまく利用してほしいですね」

 平成の時代のほとんどをプロ野球選手として活躍された薮田さん。日本とアメリカの野球の違いだけでなく、時代の移り変わりと共に変遷する野球のトレンドを、現在は解説者として見守っている。今の野球を見ていて、「楽しいですよ、自分がやってないからプレッシャーがないってこともありますけどね」と語っていた。これから始まる令和時代の野球は、薮田さんの目にどう映るか。いつかまたお話を伺ってみたいところである。

文・写真/戸嶋ルミ