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 中南米といってもそれぞれの国に個性があるということを以前執筆したが、アジアも同様だ。アジア圏と言ってもそれぞれの国ごとに文化の違いがある。その中でも特に韓国に強い興味を持ち、韓国プロ野球の伝え手として活躍されている室井昌也さんのお話を伺った。

 元々野球好きだった室井さんは、学生時代からモノを伝える活動を始めたという。韓国については以前から興味があり、26歳のときから韓国語を独学で学び始めたそうだ。29歳のときには、テレビの高校野球のレポーターの仕事を受けることに。元来の「野球好き」と「伝え手」としての両輪が噛み合った形でのことだった。さらに同じ年、母親が亡くなるなど私生活でも様々な転機が訪れた結果、室井さんは韓国に留学することを決意。留学先の現地では韓国プロ野球球団の方と知り合うことができ、「もっと日本の人に韓国の野球のことを伝えたい!」という気持ちが湧き上がったそうだ。

 現在は、現地取材やレポートを続ける傍ら『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑(論創社)』などを出版している。野球のみならず韓国の文化や国民性も熟知されている、まさに韓国のエキスパート的存在だ。

■知れば知るほど面白い韓国プロ野球

 韓国について、少し前までは「近くて遠い国」という表現をすることもあった。しかし近年では韓国の芸能人やコスメ・ファッション、韓国料理は日本でも大変人気があり、ある意味市民権を得たと言っても過言ではない。では、野球はどうだろうか? 

「韓国のプロ野球については、実際にプレーしている選手たちは”日本とアメリカの中間”と表現することが多いです。韓国の野球選手はアジア人の中でもパワーがある方ですが、すべてがパワー頼みではなく、当然緻密な戦略を立てた戦いもします。韓国の選手は、同じアジアの日本球界よりも、アメリカ・メジャーリーグ思考が強いです。日本野球との共通点を挙げようとするとすると難しいかもしれません。強いて挙げるなら”選手別の応援歌がある”という点は日本と同じです」


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――球場などはどうでしょうか?

「最近では日本の球場もボールパーク化が進んでグループ席やテーブル席を導入していますが、韓国では15年位前からありました。というのも、韓国の人たちはグループ行動をすることが多いからというのが理由としてあります。韓国では、良いと思ったらすぐ導入するスピード感があります。スピード感はあるけれど、導入当初のシステムは万全でないことが多く、やりながら改善していくという感じです。日本では熟考して導入するので開始時からクオリティが高いですが、導入に至るまでが長いですよね」


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「日本同様に応援を熱心にする人もいれば、グループ単位で飲食を楽しんでいる人もいて、それぞれ楽しんでいます。ファンの人のリアクションはとても良くて、体全体で喜怒哀楽を表現しているように見えます。これには国民性の違いもあると思いますが、一喜一憂しているところが中継に映ることを理解しているのかもしれませんね。特に女性は、テレビ映りを意識した感じで振る舞ってるように思えます。韓国の球場は若いファン、特に女性客が多く、カップルなども多く見かけます。彼らは”映画を観に行くような感覚”で気軽に試合を観に行っているんですよ」

■韓国プロ野球選手と「兵役」について

 
 日本になくて韓国にあるものはたくさんあるが、その一つに「兵役」がある。韓国人野球選手と兵役について伺った。

「韓国では現在、すべての成人男子(韓国では満19歳で成人)に約1年9ヶ月の兵役義務があります。家庭経済の事情や身体的理由など特別な事情がない限り、みんな30歳までに兵役に行きます。これはプロ野球選手も例外ではありません。野球によって肘や腰などの故障歴がある人は、それが理由で免除になるケースもあります。一般的には大学を2年休学して兵役に行って、復学して卒業後に就職することが多いですが、野球選手の場合はチームによって事情が異なっています。


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 たとえば高卒で入団した投手がいたとして、チームでは中堅の投手が活躍していて若手はあまり試合に出られないとなればすぐに兵役に行かせてしまいます。帰ってきたときには年長の投手との新陳代謝が行える、などの見込みもあってのことです。逆に、入団したチームが人材不足ですぐに出場機会が見込めるようであれば、先に実戦経験を積ませてから兵役に行かせるということもあります」

――入隊したら野球は出来ないのでしょうか?

「軍隊でも野球をする方法があって、大韓民国国軍体育部隊・尚武(サンム、상무)という、野球のほかサッカーなどスポーツ専門の部隊があるんです。尚武はプロ野球の2軍リーグに所属しているんですよ。毎年秋に入団テストを行っていて、兵役に行く予定のプロ選手や大学生が受験します。受かればそこに入隊出来るので兵役中も野球ができます。今までは警察野球団というものもあったんですが、2019年いっぱいで廃止になるので、兵役中に野球を続けたければ尚武に行くほかなくなってしまいました」

■韓国代表チームの強さ

写真提供=共同通信


 2015年に行われた、プレミア12第一回大会。日本は準決勝で韓国と対戦し、終盤に大逆転を許し、まさかの敗戦に終わった。韓国チームの強さと、国際大会の怖さを見せつけられた出来事だった。2019年11月に行われる第二回大会でも、韓国ナショナルチームは間違いなく連覇を狙っている。

「野球で兵役免除の恩恵を得るには、『オリンピックでメダルを獲得する』か、『アジア大会で金メダルを獲得する』の2つがあります。2020年の東京オリンピックは野球種目が復活しましたが、その次のオリンピックでは野球が行われないのでラストチャンスです。プレミア12は、オリンピック出場権をかけた戦いになるので、韓国代表チームは本気で戦いに来るでしょう」

 室井さんが日々韓国野球の情報を発信している理由として、文化や特性の違いを知ることで相互理解を深め、アジア圏の野球文化を盛り上げたいというものがある。韓国野球の面白さや日本との違いを知ることで、次の対戦がより一層楽しめることだろう。

文/戸嶋ルミ