【写真:戸嶋ルミ】-Global Baseball Bizの記事一覧はこちら- 野球の試合進行で欠かせない存在、審判員。しかし、どうやってなるのか? 普段は何をしているのか? 実態はあまりよく知られていない。”試合中目立ってはいけない存在”…

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 野球の試合進行で欠かせない存在、審判員。しかし、どうやってなるのか? 普段は何をしているのか? 実態はあまりよく知られていない。”試合中目立ってはいけない存在”ではあるとはいえ、絶対に必要な割に謎の多いポジションなのではないだろうか。

今回は日本人として初のWBC球審を務めた経験がある、日本野球機構(NPB)所属の森健次郎審判員にお話を伺った。

■選手ではなく審判員として野球の道へ

 森さんは、学生時代は野球部で選手としてプレイしていたのだが、本人曰く「選手としてはさっぱり上手くなかった」のだという。リトルシニアで審判員をやっていたという森さんの父親はそんな息子に対し、「審判員で甲子園を目指してみろ」と声を掛けた。これをきっかけに、選手ではなく審判員として野球に携わる道を歩み始めることになる。

 大学卒業後、森さんはアマチュア(学生)野球で6年間審判員を務めた。東京都高校野球連盟から始まり、キャリア後半では東都大学野球連盟審判員も兼任していた。その後、1988年にセントラル・リーグ審判部(当時)に入局する。

当時プロの審判員になるには「プロ野球選手からの審判員転向」、「アマチュア審判員からの転向」、「一般公募(必ずしも毎回公募されない)」からとされ、身長や裸眼視力などの応募要項を満たしていなくてはいけなかった。なお現在は、2013年から開始した「NPBアンパイア・スクール」を受講し、適性判断後に研修審判員として契約しキャリアをスタートさせるという流れになっている。

森さんは1991年10月10日に横浜スタジアムで行われた大洋ホエールズ対阪神タイガース戦にて三塁塁審として”一軍デビュー”を果たし、2185試合に出場(2018年度終了時点)。現在もクルーチーフとして活躍中だ。

■審判員の一日、一年

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 ところで審判員は、試合がある日はどのような時間の過ごし方をしているのだろうか。ペナントレース中の一日の流れについて伺った。

「私は試合開始の大体2時間前くらいに球場入りします。試合前は当日審判員を務める人同士でミーティングをしたり、自分たちが直接携わらなかった試合についての意見交換のほか、食事を摂ったりします」

審判員の人たちも、地方遠征先では選手同様に宿舎のホテルから球場へ向かう。人によっては球場へ行く前にジムに行ったり、ジョギングなどをする人もいるという。

「審判員はとにかく『待つ仕事』です。球審は、一試合あたり平均で300回くらい投球を見ているのですが、それもある種『待つ』ことなので、気力に加え体力が必要になりますね」

余談だが、審判員は試合中雨に濡れても選手のような着替えは用意されていない。選手のように攻守交代がないため、着替える時間もないのだ。しかし、公正・公平で的確なジャッジのためには体調不良の状態で試合に臨むわけにはいかない。心身ともにハードである。

 シーズン中はこのような生活が続き、ペナントレース終了後にはプレイオフが始まる。森さんは過去何度もクライマックスシリーズや日本シリーズでの審判員を担当しているが、プレイオフに関してはペナントレースとは異なり「選出されたら赴く」という。重要な局面こそ気力と体力を使いそうだが、そんな重要な試合こそ「選出されたことに感謝して臨む」のだそうだ。

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日本シリーズが終了しても、勉強会や、年によっては国際大会があり、さらには年末に先述のNPBアンパイア・スクールが待っている。そして年が明けたらすぐに春季キャンプがスタートし、開幕を迎える。

 審判員は球団と契約する選手やコーチと異なり、NPBと契約している。1月1日から12月31日までの単年契約のため、ほぼ一年中休みがない生活が続くのだという。森さんは一年の流れについて触れながら、「年末まで休みがなくて年賀状が書けないこともあるよ」と笑っていた。

次回のインタビュー後編では、審判員としての心構えや、日本人として初となるWBC球審を経験して実感した「これからの審判員に必要なもの」などをお伝えしたい。

<後編はこちら>
審判員も世界を目指せ 野球の次世代を担う審判員にこそ必要な「語学力」【Global Baseball Biz vol.29】

文:戸嶋ルミ