【写真:戸嶋ルミ】

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 前回に引き続き、日本野球機構(NPB)所属の現役審判員、森健次郎さんのお話を紹介したい。森審判員は1991年に一軍公式戦デビューを果たし、2017年には2000戦試合出場を達成。2019年日本シリーズにおいては第1戦で球審を務めるなど活躍している。

前編では、審判員を志したきっかけや、どのようにして審判員になったのか、また担当試合日の過ごし方などを伺った。

後編では、仕事をする上での心構えや、森さんがWBC(World Baseball Classic)で球審を務めた際に感じた「これからの審判員に必要なもの」について記していく。

<前編はこちら>
日本人初のWBC球審を務めた「元球児」 審判員として世界へ【Global Baseball Biz vol.28】

■審判員というお仕事 その心構え

 知られざる審判員という”お仕事”、その実情は話を聞けば聞くほどハードな職業だ。その上で、森さんが普段から心掛けていることは何か。

「『見られていることを意識する』ことでしょうか。お客さんは自分を見に来ているわけではないですが、球場という場に自分が違和感なく溶け込めるような立ち居振る舞いを心掛けています。

試合中に説明をする際、簡潔にわかりやすく喋れるよう日頃からシュミレーションは欠かしません。お風呂で湯船に浸かりながらイメトレしたり……国会中継の答弁で、わかりやすい説明をする議員がいたら参考にしたりしますよ」

【写真提供:共同通信】「日本シリーズ」 ソフトバンク―巨人第1戦  6回ソフトバンク1死満塁、中村晃の中犠飛で生還する三走牧原。捕手小林=ヤフオクドーム

「あと、息抜きが上手な人は審判員として長く務められると思いますよ。遠征なんかも『普段行けない場所に行ける』というくらいの気持ちで行ったほうがいいんです」

ちなみにシーズン中に気持ちが休まる瞬間は「試合が終わってグラウンドを離れるとき」だけなのだそう。グラウンドを去ったらすぐに次の試合へ向けての準備や気持ちの切り替えに入ってしまう。良くも悪くも何かを引きずったりするような、消化不良な状態ではいられない。

試合は始まれば終わり、終わればまた始まる。審判員はショウ・マスト・ゴー・オンの世界で生きているのだ。

■国際舞台で痛感した「これからの審判員に必要なこと」

 2019年のシーズンオフ、11月にはWBSCプレミア12が開催される。日本からも審判員が派遣されることも想定されるが、国際大会で審判員を務めるというのはどのような経験だったのか。

「私は2013年に行われたWBCの台湾対オーストラリア戦(2013年3月2日)で球審を務めさせていただきました。その前の練習試合(2013年2月26日に行われたB組出場国の練習試合)でも球審を務めたのですが、そのときに痛感したのは語学力――英語の必要性です」

【写真提供:共同通信】「2013WBC」 WBCが開幕  WBCが開幕し、初戦となるブラジル戦の試合前セレモニーで、君が代を斉唱する日本代表の山本浩二監督(右端)とナイン=2日夜、福岡市のヤフオクドーム

「審判員としてやることに関しては『いつもどおりのこと』をすればよいので、NPBの試合と変わりません。ですが、試合中に何か説明が必要な局面が訪れたときには、(国際大会では)まず英語で話すことになります。審判員には日本語の通訳がつかないんです。コミュニケーションをする上でも、トラブル処理のためにも、英語でスムーズに説明できなくてはいけないと思いました」

森さんが球審を務めたこの試合では、幸運にもこれといったトラブルや説明を求められるようなことは起きなかった。試合後に「何事もなく無事に終わってくれてよかった」と、胸を撫で下ろしたと同時に「このままではいけない」と痛感したそうだ。

実際に世界の舞台に立って語学の重要性を学べたことは、紛れもなく大きな収穫だった。日本人の審判員の技術が国際大会でも通用すると証明するためにも、語学力の向上は急務であると森さんは言う。

 たしかに、審判員は目立ってしまってはいけない。試合の主役はあくまで選手である。しかし、『選手でなくてもグラウンドに上がれる職業のひとつ』として、審判員も脚光を浴びてもいいのではないだろうか。世界大会の大舞台で日本人審判員が活躍する場面が訪れることを期待して、これからも見守っていきたい。

文:戸嶋ルミ