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 プロ、アマを問わず野球界にかかわるさまざまな人々にスポットを当てる連載。今回は、野球用具の製作・販売を行なっているアップセット社を訪問。2015年に野球業界に参入し、プロ選手との契約を結ぶなど近年、注目を集める存在となったスポーツメーカーの今、そしてこだわりを、小野章吾社長に聞いた。

■名工たちによるハンドメイド

――2015年に野球道具を作り始めてから4年が経ちました。現在、作っている野球道具の種類にはどんなものがあるのですか?

小野 グローブ、シューズ、バットに防具、アンダーシャツからユニフォーム、ウェア系全般とあります。ウェアは海外で作っていますけど、グローブを筆頭に、野球用具は全部、国内の名工と呼ばれる方々にお願いして作ってもらっています。

 一個一個ハンドメイドで、選手の要望に応えながら手作りで作っているので、出来上がるモノに対しての自信はあります。必ず気に入っていただけるはずです。

――いろいろとある野球道具の中で一番作るのが大変なものは何ですか?

小野 やっぱりグローブですね。グローブは未だに苦労はしています。良い皮、悪い皮がありますし、個人個人の好みもある。それに昭和の名工という方も、製品に対するこだわりも非常に強いです。

 いいものが出来上がる分、納期がズレてしまうケースもあります。安定供給というのがなかなかできない。そこは苦労していますね。

――名工と言われる職人の方々が一つ一つ作っているのですね?

小野 はい。本来でしたら私たちがなかなかお付き合いできないような、腕のある職人の方に頼んで作ってもらっています。最近は何でもオートメーション化されて、海外で作ったりするようにもなって、昔からの職人の方々が早期リタイアしていた流れがあったんですけど、我々はその方々を「もう一回、作ってくれませんか?」と口説いて、一緒に、本当にいいものを作れるようにしています。

■「安いと売れない」という中で何をするか

――野球用品を作るようになって驚いたことはありますか?

小野 まず、野球用具の種類が多いということですね。作るものがたくさんあって大変でした。でもその分、売るものがたくさんある。そこは嬉しい誤算でしたね。それにグローブ一つだけじゃなくて、グローブを買えばスパイクもウェアも、リストバンドも全て揃えたいという方も多くいて、ゴルフに近い感覚が野球にあるのかなと思いました。

 そして高い値段の方が喜ばれるということも驚きましたね。例えば2万円、3万円するグローブを5000円で売ろうとすると、「じゃあ、ボロだね」って言われて喜ばれない。値段が安いイコール安物っていう考えがあるので、価格設定が安過ぎると逆に売れない。

――なるほど(笑)。安いと売れないということがあるんですね?

小野 はい。でも値段が高い分、仕様を変えたり、生地を変えたりと、いろいろと細部にこだわることができる。単価を高く設定できるというのは、商品開発をする上では良いものを作れる。その意味では、未来のある、可能性のある業界と思っています。

 そういうことも含めて改めて感じたのは、日本のプロスポーツの中で野球というのは本当に特別だということですね。選手の年俸もそうですし、選手の扱いも他の競技とは違う。本当、最初は野球に関しては素人同然のところからスタートしましたから、いろいろと驚きも苦労もありました。

――でも、素人だからこそできることもある?

小野 そうですね。最初はバットを持って営業に言っても、「材は何ですか?」って聞かれても答えられなかった。でもそれが逆に良かった部分もあって、先入観がなく話をすることができますし、職人の方と直接打ち合わせをしてもらったりして、我々があまり口を出し過ぎないことで、いいものができるという面もある。

 素人だからこそ、選手の要望には極力応えますし、大手のメーカーさんではできないような細かいところ、手間がかかるところを敢えてやる。そこがアップセットの強み、こだわりだと思っています。

■今後へ向けて「楽しみながら」

――これからやってみたいこと、今後の展開は?

小野 野球に関して言うと、今は用具を選手に供給しているだけですけど、将来的にはプロ球団をチーム単位でサポートできるようにしたいですね。ファンの方が弊社のユニフォームを着て球場に応援に行く。子供達も着て喜ぶ。そういう場面を増やしたい。

 プロだけでなく、社会人チームであったり、少年野球チームだったり、子供たちが最初に手にする道具がアップセットのものだったら嬉しいです。トップカテゴリーもやりつつ、野球の入り口となる部分にも携わっていければと思っています。

 具体的に何か、というよりも、このままコツコツと積み上げて行って、将来的にプロ球団のユニフォームを作れるようになれるといいなと思っています。あとは全国展開ですね。各都道府県に1店舗ずつぐらいはアップセット用品を扱ってくれる店ができて、より多くの人の目に触れられるようにしたいと思っています。

――新しい素材を使った用具もあるとか?

小野 コーデュラですね。リュックとか登山用シューズなどに使われている素材です。軽くて、この世にある布の中で一番丈夫というものです。そして、この生地のもう一つの特徴が、生地そのものを染めることができるということ。ですので、迷彩柄、柄物のシューズを作ることができたりする。

 これを縫うのがかなり難しくて、職人さんにも「こんなもん縫えるか!」って怒られたんですけど、今までにないものを作りたいという想いもあって、実際に作ってもらったら「面白いかも知れない」と言ってくれた。今、いろんなものを試しているところです。

――今後も、いろいろと新しいことにチャンレンジしていきたい?

小野 はい。もちろん商売なので売り上げは大事ですけど、「売れなかったらしょうがない!」と開き直って、楽しみながら良いもの、喜んでいただけるものを作っていきたいと思います。

▼プロフィール
小野章吾(おの・しょうご)/1977年1月24日生まれ。東京都出身。
小学校までサッカー、中学、高校、大学、社会人とバスケットボールの選手として活躍。
ポジションはガード。bjリーグ初年度の合同トライアウトに参加。
故障もあって競技者から退き、事業家へ転身。

2008年に「eMERGE」を開業。
2012年に「株式会社アップセット」(http://upset-jpn.com
アップセット社オーダー専用サイト(http://www.upset-emg.com)を設立。
野球を始め、バスケ、サッカー、フットサルなどのフルオーダーユニフォーム、各競技のウェア、用具の製作・販売を行なっている。

文・写真=三和直樹