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 野球界にかかわるさまざまな人々にスポットを当てる連載。今回は、スポーツ専門情報サイト「スポーツナビ」を運営するワイズ・スポーツ株式会社で現在、編集部編集チームの野球担当として活躍している加賀一輝氏に、野球に携わる仕事の「やりがい」と、野球とともに過ごしてきた「人生」を聞いた。

■野球観戦スタイルの変化の中で

――今や多くの野球ファンが、インターネットを通じて情報を入手する時代になっています。その中で「スポーツナビ」(略:スポナビ)のメインコンテンツである「野球」を担当されていますが、普段の仕事内容はどのようなものなのですか?

加賀 編集部は今、大きく3つのチームに分かれていまして、僕が所属している編集チームの他に、アプリのプロモーションに特化したチームと、編成のチームがあります。編集チームは僕も含めて5、6人いるのですが、その中でも競技毎に担当が分かれていて、僕は野球をメインに、他にボクシング、パラリンピック競技の担当・窓口も務めています。

 野球だけを考えると、僕ともう一人の担当の2人でやっている状況ですね。また、競技横断ものの連載も担当しています。スポナビのページ上には、自社で作ったコンテンツと他社提供のニュースが混在していますが、記事としては主にスポナビ名義でのコラムなどを作るのが編集チームの仕事です。

――実感として、ほとんどの野球ファンが今、野球のニュースをスポーツナビ経由で見ているかと思いますが?

加賀 たくさんのユーザーの方がいるということは日々感じています。実際にPV数がケタ違いで、アプリだけでも1日で何百万人の方が訪問して、SNSのフォロワーの数も個人ではあり得ない数字の規模感ですから…。

 もう少しミクロな視点で見ても、僕が普通にプライベートで野球観戦に球場へ行ったりすると、至る所でスポナビのアプリを開いているのを見かけます。そういう時は、素直に嬉しいですね。

――球場にいると、ひと昔前までは他球場の試合経過は5回終了時の電光掲示板を見るぐらいでした。インターネットの登場、スマートフォンの普及とともに野球観戦の方法も随分と変わりました。

加賀 そうですね。ここ数年、十数年の間に、大きくライフスタイルが変わりましたから、それに伴って野球を取り巻く環境も変わったと思います。その中でスポーツナビが多くの方に見られて、改革の一端を担うことができているというのは、仕事としてやり甲斐がありますし、ある種の責任も感じます。

■愛知で生まれ、アナウンサー、ライターの経験を経て

――生まれは愛知県、生粋のドラゴンズファンだとお聞きしましたが?

加賀 はい。名古屋市の郊外にある東郷町というところで生まれて、小2から高校卒業まで野球をしていました。僕がドラゴンズファンだと自覚したのが小1だった1994年の「10・8」でしたから、ファン歴は25年になりますね。父も母もドラゴンズファンで、「10・8」の時は家の中がお葬式みたいな雰囲気になったことを覚えています(苦笑)

――当時から将来は野球関連の仕事をしたいと思っていたのですか?

加賀 どうでしょう…。ただ、父が放送関係の仕事をしていたので、マスコミなどは身近に感じていましたし、テレビなどを通じて野球をはじめ、いろんなスポーツを見る機会というのは他の家庭と比べると多かったのかなとは思います。

 そういう環境の中で育って、中学生になった頃には、「野球選手になりたい」という夢と同じぐらい、「野球のアナウンサーや記者になりたい」と思っていましたね。

――大学で上京して、卒業後はすぐに野球関係の仕事に就いたのですか?

加賀 いえ、それが違うんです。最初は不動産系の会社に就職したんです。それでいきなり福岡に行ったんです…。首都圏で働くだろうと思っていたら、80人ぐらいいた内定者の中で3人ぐらいが地方に行って、そのうちの一人が僕でした(苦笑)。

 仕事は自分なりに向き合おうとして、仲間もできたんですけど、結局は1年半で辞めました。今でも覚えています。ちょうど落合(博満)監督の退任発表と同じタイミングでした。落合監督と同じ日に辞表を出したんです。偶然ですけど(笑)。

――野球に携わる仕事をしたいと思って辞表を出したのですか?

加賀 はい。改めて目指そうと思いました。やっぱり野球が好きで、その野球に携わりたい、野球のことを伝えたいという欲が自分の中にあって、大学の時に目指していたアナウンサーに、もう一回チャレンジしようと思いました。

 それで2012年の春にもう一度上京して、アナウンススクールに通ったり、いろんな方にお会いしたりして、お金に困りながらもいろいろな活動をして、その中で少しずつアナウンサー関連の仕事をいただけるようになりました。

――最初はあくまでもアナウンサーを目指していた?

加賀 そうですね。でも他にいろいろと野球関連のアルバイトもしていたんです。そうしたら、その伝手で「野球のコラムを書いてみないか?」という話をいただいて、そこで書いているうちに、気づいたら喋ることよりも書くことの方が多くなったんです。

 形としてはフリーライターですね。JSPORTS(ジェイスポーツ)のオリックス担当として取材に入らせてもらったり、2015年のシーズン前には大谷翔平選手のムック本で原稿を書かせてもらったりしました。そして16年の1月下旬頃、ある方に「スポナビが募集しているぞ!お前はもう一回ちゃんと会社員をやった方がいいんじゃないの?」と言われて、「わかりました」と…。そして、今に至ります。

■これからも「野球バカ」でいたい

――これまでいろいろと経験してきたことは、今の会社でも生かせるのではと思いますが?

加賀 それはあると思います。特に書いたものというのは形として残りますし、スポナビの編集チームの中でも「書ける人」っていうのは、案外限られているんです。実際に自分で取材に行って自分で書くというような仕事を任されることも多かったですし、その部分でこれまでの経験というのは自分の中での一つのアドバンテージにはなっているかなと思います。

――今後、どんなことをやってみたいですか?

加賀 これが難しいんですよね…(苦笑)。野球の仕事をする前やフリーでやっていた時は、「野球をもっと日本の文化にしたいです!」というようなことを思っていたんですけど、いざ今の仕事を始めると「世界って広いな」と…。

 スポナビの中の世界も広くて、自分に足りないこと、自分ができないことっていうのがたくさんあると感じています。先のことを考えなくちゃいけないんですけど、今はそこまでの余裕がまだないというのが正直なところかもしれません。

――目の前の仕事をさばきながら先のことを考えるのが難しいというのはよく分かります。特にシーズン中は一気に時間が過ぎてしまう感じだろうかと思いますが?

加賀 はい(苦笑)。でもようやく今年ぐらいから、少しだけ先のことを見始められるようになったかなと思います。これまで日々コンテンツは出していたんですけど、僕自身が「会社に貢献した」と言える出来事がそれほどなかったのですが、今年の夏は佐々木(朗希)投手を擁する大船渡高校のテキスト速報を初戦から実施することができました。

 実はスポーツナビとして高校野球の現場取材に入ったのは今回が初めてだったんですが、今までできなかったこと、そこの壁を突破できたのは一つの成果かなと思います。自分が「やりましょう!」って言ったことを実現できた嬉しさがありましたし、佐々木投手の注目度も想像以上に高くて反響も大きかったですからね。

――「スポーツナビ」としての今後の展望、展開は?

加賀 元々、スポナビのユーザーは30代、40代の男性の方が多いんですが、そこの層もスマホを持つようになって、やはり数年前からスマホ経由で見られる人の数の方が多くなってきています。もちろんまだまだPC経由で見られる方が多いのもスポナビの特徴ではあるんですが、スマホ、そしてアプリへと移行して行くという流れは今後も続くのだろうと思います。

 その中で僕たちは、コンテンツの見え方をリッチにしたり、今までやったことのないようなことをしたりしていきたい。個人的には、僕が今31歳なんですけど、自分よりも若い人たちと一緒に、いろんな新しいものを作っていけたらと思っています。

――野球の仕事をする上で多くの人の課題が、自分自身の「ファン心理」をどう処理するかだろうと思うのですが、普段、ドラゴンズファンの気持ちは抑えていますか?

加賀 野球の仕事をするようになって冷静にはなりましたね。だけど、スポナビに入ってからは現場の取材に行くことが少なくなったので、その分、ファンの気持ちを出すようにはなりました。

 でも普段はおそらく、社内と社外でキャラクターを変えているんだと思います。会社の中では冷静ですけど、会社を出て電車に乗れば中日の試合速報を見ますし、家にいる時はテレビで中日の試合を見て、休みの日は球場に応援しにも行きます。気の置けない友人たちと毎日のように情報交換もします。「結局は野球バカなんだね」って、妻に2日に1回は言われています(笑)。

――なるほど(笑)。野球関連の仕事を続ける上で、やはり「野球バカ」というのが一つのキーワードかもしれませんね?

加賀 ですね。野球バカで、野球に携わりたいと思ってここまでやって来たので、僕自身はこれからも野球バカでいたいなと思います。10年後、今の仕事を続けているかは分からないですけど、野球バカなのは変わらず、野球の近くで仕事をしていたいなと思います。

加賀一輝/1988年3月6日生まれ。愛知県出身。名古屋市立向陽高−成蹊大。
大学卒業後に一般企業に就職し、フリーランスのアナウンサー、ライターとして活動後、2016年にワイズ・スポーツ株式会社に入社。
現在、編集部編集チームの野球担当として日々のコンテンツ制作に励む。ドラゴンズファン歴25年。