-Future Heroes 一覧はこちら- 昨夏の甲子園準々決勝で金足農業に劇的な逆転サヨナラ負けを喫した近江。その瞬間のマウンドにいたのが当時2年生の林優樹だった。あの敗戦から1年、リベンジを果たすべく聖地に戻ってきた。 2年夏までは先…

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 昨夏の甲子園準々決勝で金足農業に劇的な逆転サヨナラ負けを喫した近江。その瞬間のマウンドにいたのが当時2年生の林優樹だった。あの敗戦から1年、リベンジを果たすべく聖地に戻ってきた。

 2年夏までは先輩投手との継投で勝ち上がってきたが、新チームとなってからは絶対的エースとなった。「林がマウンドから降りる時はチームが負ける時」と多賀章仁監督に発破をかけられ、重要な試合はほぼ一人で投げてきた。今夏の滋賀大会も準決勝と決勝を完投してチームを優勝に導いている。

 最近では高校球児の球数制限などが話題に上がることが多いが、そのことに関して林はこう持論を述べている。

「考え方は人それぞれで自分が言える立場ではないですが、自分はこの夏も一人で投げ切ると決めているので、それに関して周りから投げすぎだと言われるのは嫌です。自分がマウンドに上がらずにチームが負けたら悔いが残るので、何も言わないでほしいですね」

 エースとしての自覚が芽生えた林には投球スタイルにも変化が見られた。林といえば「魔球」とも称されるチェンジアップが代名詞だが、変化球に頼り切った配球をしてしまったことで秋の近畿大会は初戦敗退。その反省から冬以降はストレートを磨くことを課題として練習に取り組んできた。

 この夏はストレートの質が上がり、空振りを奪う場面が以前より多く見られた。バッテリーを組む有馬諒も「ストレートのキレ、精度は数段レベルアップしていると思います」と林の成長ぶりを認めている。

 林にとって甲子園はもう憧れの場所ではなく、「戻るべき場所」となっていた。だが、滋賀県のライバルは「打倒・近江」を掲げて全力でぶつかってくる。それに加えて夏の大会前は絶不調に陥り、多賀監督を心配させた。

 それでも不安とプレッシャーが襲ってくる中で「自分が投げ抜いて甲子園を決める」と決意し意地を見せた。滋賀大会では5試合中4試合に登板して26回無失点と圧巻の成績。重圧から解き放たれ、決勝戦後にスタンドへの挨拶を終えるとその場から動けず、大粒の涙を流した。

 ついに戻るべき場所に戻ってきた。「金足農業戦があったからこそ今の近江高校があると言われたい」と、この夏は1年間の成長を見せる舞台だ。野球日誌の表紙に有馬とともに書き込んだタイトルは「日本一のバッテリー」。その言葉を実現させるために林は甲子園のマウンドに立つ。

文・写真=馬場遼