【連載】チームを変えるコーチの言葉~大家友和(3) コーチ就任1年目、大家友和はまず選手を見て、選手から話を聞くことに徹した。いきなり自分の考えを持ち込むつもりは毛頭なかった。ただ、担当するファームの若手と接して気づかされたのが、「振り…

【連載】チームを変えるコーチの言葉~大家友和(3)

 コーチ就任1年目、大家友和はまず選手を見て、選手から話を聞くことに徹した。いきなり自分の考えを持ち込むつもりは毛頭なかった。ただ、担当するファームの若手と接して気づかされたのが、「振り返りが欠けている」ということだった。前回の試合や練習の内容を振り返って、問題点や課題を明らかにし、次回以降に生かす作業。その意図は何なのか、大家に聞く。



「10分ブルペン」も貴重な振り返りの場だと語る大家コーチ

「試合や練習、シーズンの振り返りもそうです。彼らに圧倒的に欠けていたことのひとつだったので、いろんなところで振り返りをしようと取り組んできました。一昨年の秋ぐらいからその取り組みにトライして、去年ようやく形になってきたので、よかったなと思っています」

 たとえば、イースタン・リーグの試合で登板した投手の場合、振り返りはどの時点で行なわれ、どういう形で実践されるのか。

「よほどの理由がない限り、試合の振り返りは翌日ですね。マンツーマンの時もあれば、みんなで行なう時もあり、それぞれで話の聞き方を変えたりします。ただ、みんなで行なう場合、振り返る選手自身もそうですし、立ち会う選手にしても、話の内容の理解度が低い場合があると思うんです。なので、続けていくうちにいろいろ工夫していけたらいいかなと」

 選手の成長とともに、理解度も高まっていくことだろう。その変化を把握する方法として、振り返りの内容自体、つまり選手の言葉を文字にして、記録するコーチもいる。これも工夫の一環になりそうだが、大家はどう感じているのだろうか。

「大事なものはもちろん文字にして残します。それにゲーム中は僕もメモを取ります。ほかのコーチとも情報を共有しないといけないわけですから。でも、大体は覚えているものですよ。もしもの時に記録が必要になるぐらいで……」

 そこまで厳密に文字に残しておかなくても、選手の変化というのは把握できるようだ。実際、成長の度合いは結果となって表れるわけだが、一方で話す言葉が変わってきた時、結果以上に選手の成長を感じることもあるのではないだろうか。

「そうですね。”言葉が変わる”というよりは、”自分自身を分析する能力が変わる”ですかね。あるいは、”振り返る能力”と言ったほうがわかりやすいかもしれませんが、そういったところはやはり成長とともに変わりますね」

 つまり、しっかり振り返りができるということは、自分自身をわかってきた証と言えそうだ。

「わかってきたというか、わかろうとすること自体ですかね。もう少し掘り下げていこうとする姿勢であったり、掘り下げる方法を模索したり……。そういった選手に関しては、自身の振り返りのなかで『よくできたこと』『うまくできなかったこと』をちゃんと探っていけると思うんです」

 その点、大家の発案で採り入れられた”10分限定ブルペン”も、振り返りと結びついている。

 10分間の投球練習のあと、さらに10分プラスして投げたい場合。選手がその理由をコーチに説明する時に、前回の試合や前回の投球練習を振り返る内容が入っていれば、コーチとして納得できるとのことだった。

「たとえば、球数をたくさん投げたいというのなら、振り返ったうえでしっかりスケジュールを立てて、投球練習をひとつのゲームと同じものと仮定してやるのであれば、それはいいんじゃないかなと思います。でも、そこまでの選手はまだ出てきていません!(笑)」

 いずれにせよ、「振り返りなしに成長はない」と思えるが、振り返る時に表面的な言葉だけをツラツラと並べる選手もいるという。理解度が低いというよりは、「なぜできたのか」「なぜうまくできなかったのか」を探ろうとしていないのだ。

「言葉が表面的な選手は、行動も表面的なことが多くて、いつも反省が変わらないんですね。反省の仕方が一緒で、また同じ失敗をしてしまう。もちろん、野球は失敗のスポーツですから、『失敗ばかりを突いても……』とは思いますよ。3回のうち1回打った人がすごく高い給料をもらえるんですから(笑)。

 そういう意味では、野球において失敗を突いてもしょうがない。それは僕もわかっています。ただ、失敗に対しての向き合い方が変わってくれないと難しい……そういうところはありますよね」

 向き合い方を変えるのは簡単なことではないだろう。コーチとして、変わるために仕向けていくような方法はあるのだろうか。

「仕向けるってことはないですけど、気づいてほしいですし、いろんな資料を見せながら話はします。ただ、それでも変わらない人を変えていくテクニックは、僕にはありません。本人が変わろうと思った時が、その時だと思うので。

 じゃあ、変わるまで待つかといえば、待ってもしょうがないと思います。待てども変わらない時は、たぶん結果がいちばん効くんじゃないですかね。選手全員を助けられるということは、まずあり得ないと思います。この仕事をやっている以上、結果によっていろんなことが決まっていきますから」

 大家の言葉にハッとさせられる。ファームの現場で結果が出ない──その状態が続いた選手はどうなるのか、リアルに想像できたからだ。選手にとっては厳しい言葉かもしれないが、コーチの仕事は担当の選手全員を助けることではない。あくまで選手が自分自身で向上できるようにサポートするのが仕事なのだ。

「より精度が高い何かを求めていって、普通に、苦労せずに結果が出る人がいるならば、その人はたぶん僕と付き合ってないですね(笑)」

 選手へのサポートを、大家は「付き合う」と言い換えた。付き合ってもなかなか成長できずに目の前から消えていく選手がいれば、付き合うことで成長し、結果を出して一軍に昇格する選手もいる。

「それは両方あるでしょうね。そういう世界ですから……」

つづく

(=敬称略)