無観客試合とはいえ、約2カ月という長い中断期間を経てドイツのブンデスリーガが再開したことは、他のヨーロッパ各国リーグに大きな自信と勇気を与えたようだ。それは、年間約4180億円という世界一高額な放映権料を手にするイングランドのプレミアリー…

 無観客試合とはいえ、約2カ月という長い中断期間を経てドイツのブンデスリーガが再開したことは、他のヨーロッパ各国リーグに大きな自信と勇気を与えたようだ。それは、年間約4180億円という世界一高額な放映権料を手にするイングランドのプレミアリーグにも言える。



コロナを懸念するフランス代表MFエンゴロ・カンテ

 さっそく予定されていた各クラブによる5月18日のテレビ会議では、ソーシャルディスタンスを守りながら行なう少人数のグループ練習が許可されるなど、各クラブが作成したリーグ戦再開への「プロジェクト・リスタート」が一歩前進。新たなフェースに入ったことで、目標とする6月12日の再開に向けて、その勢いが加速した印象だ。

 実際、4人のグループに対してひとりのコーチがついて練習したというマンチェスター・ユナイテッドのハリー・マグワイアは、クラブの公式ウェブサイトで「(実際に練習を再開してみて)とても安全な環境にいると感じている」とコメント。そのほか、大多数の選手やコーチングスタッフも、これまでのシーズン再開までのプロトコルに不満を漏らすことなく、ポジティブな反応を見せている。

 もちろん、選手たちの安全を担保するため、詳細なルールが定められている。

 たとえば、自宅でトレーニングウェアを着用してから自家用車で練習場に向かい、自分専用のタオルやウォーターボトルを持参すること。あるいは、練習場に到着してからは必ず検温をして、マスク着用のもとでグラウンドに入ること。その間、練習中も含めて終始、ソーシャルディスタンスを保つことも必須となっている。

 また、選手やスタッフのウイルス感染を確認するため、PCR検査も頻繁に行なっている。そのためにプレミアリーグは約4万セットもの検査キットを約400万ポンド(約5億3000万円)で購入。検査により陽性反応が検出された場合は7日間の隔離となるほか、その濃厚接触者も14日間の隔離がそれぞれ義務づけられている。

 グループ練習再開前の17日、18日に計748人の選手とスタッフに行なわれた検査では、残念ながら3クラブ計6人の陽性反応者が出て、彼らは7日間の隔離措置となってしまった。しかし、それによってリーグ再開の動きが減速することはなく、現状で言えば「プロジェクト・リスタート」は順調に前進していると言えそうだ。

 ただし、ここまでのシーズン再開の動きにすべての足並みが揃っているわけではない。まだ乗り越えなければならないハードルが残されているのも事実だ。

 そのひとつが、プレミアリーグが目標に設定した6月12日というスケジュールである。

「(試合をできるだけのフィットネスが)1週間半や2週間そこらで戻るわけがない。勝敗がかかったコンペティションを戦うには、最低でも丸4、5週間のチーム練習が必要だ」と主張するのは、マンチェスター・シティのラヒーム・スターリングだ。

 ニューカッスル・ユナイテッドのスティーブ・ブルース監督も「少なくとも6週間は必要だ。8週間もチーム練習を休んだことなど、選手たちのキャリアでも初めてのことだということを忘れないでほしい」とコメントし、6月12日の再開は時期尚早だと訴えている。

 たしかに、少人数でのグループ練習がスタートしたものの、プレミアリーグのクラブが練習場で個別トレーニングを開始したのは、つい先週のこと。3月9日に行なわれたレスター・シティ対アストンビラ戦を最後に、彼らはロックダウン下で約2カ月にわたって自宅での個別トレーニングを続けていた。

 一方、4月上旬に少人数のグループ練習を再開させたブンデスリーガは、シーズン再開までに1カ月以上の準備期間を設けていた。それと比較すると、プレミアリーグのそれはあまりにも短すぎる。

 また、準備期間以外に、プレミアリーグでは試合会場の問題も解決していない。

 英国政府が6月1日以降のスポーツイベントを無観客で開催することを許可した際、試合は8〜10の中立地で行なうことをリーグ側に要請していた。だが、前回行なわれた20クラブによるテレビ会議では、12クラブがその案に反対している。

 とくに、残留争いを強いられている下位チームは、ホームアドバンテージを失われることに強い反発を示した。承認に必要な14クラブの賛成を得るには程遠い状態にある。

 しかも、そんななかで降って沸いてきたのが、テレビ放映権料の払い戻し問題だ。

 ライツホルダー側は、無事にリーグ戦が再開してシーズンを終えられた場合でも約450億円の払い戻しをリーグ側に要求しており、仮にそうなれば、残留争いに巻き込まれているクラブにとっては泣きっ面に蜂。せっかくリーグを再開できたとしても、その先には経営破綻につながる地獄が待ち受けている可能性もあるのだ。

 スポーツの公平性や経済的問題を考慮した場合、やはり中立地開催でのリーグ戦再開は非現実的と言わざるを得ない。

 足並みが揃わないといえば、幾人かの選手が今週から始まったグループトレーニングへの参加を拒否したことも報じられている。

 たとえば、生後5カ月の息子が呼吸器系の問題を抱えているワトフォードのトロイ・ディーニーがそのひとり。チェルシーのエンゴロ・カンテも、かつて自身が心臓の問題を起こしたことがあるうえ、心臓発作で兄を亡くしているという事実を危惧し、自宅での個別トレーニングを継続することを決めている。

 このような特殊な事情を抱えた選手については、FIFPro(国際プロサッカー選手協会連盟)のヨナス・バエル・ホフマン事務局長も「もしこのような選手が圧力を加えられたり、クラブから処分を科されたりするなら、絶対に受け入れられない」と主張。選手や家族の健康を優先する立場をあらためて表明している。

 健康面を優先する選手や、検査で陽性反応を示した選手やチームスタッフなど、今後も何らかの事情により足並みを揃えられず、リーグ戦再開に立ち会えない者が出てくることは確実だろう。

 いずれにしても、プレミアリーグ再開までの道筋となる「プロジェクト・リスタート」はまだ道半ば。今後は、政府が間もなく決断すると見られているコンタクトプレーが許可されれば、チーム練習が本格的にスタートする予定だ。そうなれば、リーグ戦再開に向けてさらに一歩、前進することになる。

 そして、プレミアリーグは現在UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)が期限としている5月25日までに、シーズン再開と完了までの最終結論を提出する予定だ。