オランダリーグは4月21日、マルク・ルッテ首相の「8月31日まで大規模イベントの開催を禁じる」という演説によって、今シーズンの打ち切りが決まった。彼の「あとになって悔やまないよう、今は用心して過ごしましょう」という訴えが心に響いた。



菅原由勢の所属するAZは若くて勢いのあるチームだった

 その後、オランダサッカー協会は今シーズンの優勝チームを決めず、1部・2部の昇降格も行なわないことを発表。2部リーグの首位カンブール、2位デ・フラーフスハップは当然のことながら怒り、オランダサッカー協会相手に裁判で決着をつけようとした。だが、結果は敗訴。その判決に「これは二審で争っても無駄だ」と悟り、来シーズンも2部リーグで戦うことを受け入れた。

 オランダ1部リーグの5位ウィレムⅡと、6位のユトレヒトは勝ち点3差。ユトレヒトは消化試合がひとつ少ないうえ、得失点差でウィレムⅡより有利に立っている。さらに中止になったオランダカップ決勝にも進出しているということもあり、オランダサッカー協会とまだ揉めている。

 しかし、カンブールとデ・フラーフスハップがサッカー協会と金銭で妥協しようとしていることから、2020−21シーズンの1部・2部リーグの参加チームは固まった。こうして今、オランダリーグは新シーズンに向けて気持ちを切り替えている。

 ただ、下記の議論はこれから何十年も続くだろう。

「2019−20シーズンのオランダリーグが最後まで開催されていたら、優勝チームはアヤックスだったのだろうか。それともAZだったのだろうか」

 オランダリーグの打ち切りが決まった時点で、アヤックスとAZはともに勝ち点56。得失点差ではアヤックスに分があるが(アヤックス=+45、AZ=+37)、AZは”トラディッショナル・トップ3”と呼ばれるビッグクラブのアヤックス、フェイエノールト、PSV相手に4戦全勝・得点10失点0と、堂々たる結果を残していた。

 オランダのサッカー専門誌『フットボール・インターナショナル』の5月6日発売号では、アヤックスのドニー・ファン・デ・ベークとAZのダニ・デ・ウィトが空中戦を競り合うシーンを表紙にし、その横に優勝盾が縦に裂けるコラージュを載せた。

 しかし、こういう声も聞こえてくる。

「首位と勝ち点6差で3位につけるフェイエノールトを忘れちゃいけないぜ」

 今シーズンのフェイエノールトは、スタートダッシュに失敗。第11節のアヤックスとの伝統の一戦では0−4と完敗し、一時は12位まで落ちた。

 ところが、ヤープ・スタム監督がフェイエノールトを去り、超ベテランのディック・アドフォカート監督が引き継ぐと、その後リーグ中断まで11勝無敗3分と快進撃。チームは見事に蘇り、アヤックスとAZの背中が見えてきた。

 リーグが再開していたら、3月22日にはホームでアヤックス戦、4月8日にはアウェーでAZ戦が控えていた。一方、アヤックスは相性の悪い鬼門、ユトレヒトとのアウェーマッチを残していた。これらの結果次第では、フェイエノールトの奇跡の大逆転優勝が実現していたかもしれない。

 対して、AZの菅原由勢は自ら所属するクラブの優勝を信じていた。3月1日に行なわれた第27節のアヤックス戦を2−0で勝ち、勝ち点でライバルに並ぶと、「この順位にいることは当然の結果だと思います」と胸を張った。

「ベンチから試合を見ていても、アヤックスはキレがないし、確実によくなかった。アヤックスが攻めていたとしても、”個”でサッカーをしているのは感じていた。そのツケが回って、簡単な一本のロングボールでやられたりする。だからこそ、AZがいくチャンスだと思っています」

 AZはビッグクラブに強くても、取りこぼしが多いという弱点があった。昨年12月、AZがアヤックスを1−0で下して称賛を浴びた翌週、彼らはスパルタ・ロッテルダムに0−3の完敗を喫した。

 そういう意味で、私はアヤックスに2度目の勝利を果たした翌節、ADOデン・ハーグとの戦いぶりに注目していた。結果は4−0。実に危なげのない内容でAZは完勝した。

 アヤックス戦の直後に大敗したAZと、完勝したAZ--。この3カ月の差は何なのだろうか?

「本気でチームが優勝を目指したい、という思いがプレーに出ているというか……。メンタル的なところのレベルがひとつ、上がったのかなと思います」

 菅原は以前から「優勝」の二文字を口にしていたが、その本気度が菅原個人としてもチームとしても増してきたのだろう。そのきっかけは「アヤックスにホームとアウェー、ダブルで勝ったことじゃないですかね」と菅原は言う。

「12月のアヤックス戦で勝ったあとは、少し過信していたかなと思います。だけど(3月のアヤックス戦の勝利で)しっかり自信がついたな、というイメージを僕は持ちました。自分のサッカー人生において優勝争いは初めてのことなので、楽しみながら自信をつけていきたいです」

 菅原の本職は右サイドバックだが、しばしばウインガーとして起用されることもあった。とりわけ、攻撃的な左サイドバックが必ずいる「トラディショナル・トップ3」が相手となった時、菅原はウインガーとして重宝された。

 菅原がウインガーとしてハマった試合のひとつが、アウェーで行なわれた第4節フェイエノールト戦だった。菅原はリチアーノ・ハプスというAZ出身の攻撃的左サイドバックと対峙。その試合で菅原はアシストを記録し、3−0の勝利に貢献した。

 また、同じくアウェーでの第11節PSV戦でも、菅原はウインガーとして67分プレーして4−0の大勝に寄与する。ビッグチームを相手にした時に菅原のウイングは効くと、AZのアルネ・スロット監督は見切っていた。

 オランダリーグ中断直前の試合後、菅原はこう語っていた。

「これからのPSV戦とフェイエノールト戦を勝ち点6で乗り切れば、確実に2位以上が見えてくる。あと9試合、すごい楽しみですね」

 選手層の厚いアヤックス、若くて勢いがあってビッグゲームに強いAZ、アドフォカートの魔法にかかったフェイエノールト……。三者三様のキャラクターを持った激しい優勝争いの続きを見ることができず、コロナを恨むしかない

 私は菅原の言葉を反芻しながら、「やはり2019−20シーズンのオランダリーグは面白かった」と振り返る。5月23日にFOXスポーツで放映されるオランダリーグの総集編が今から楽しみだ。