写真:加藤杏華(十六銀行)/撮影:ハヤシマコリオ五輪開催年の2016年、全日本卓球選手権で福原愛を下す金星を挙げ、ノーシードから一気に3位まで駆け上がった選手がいる。十六銀行卓球部所属の加藤杏華(かとうきょうか・23歳)だ。入社1年目の全日…

写真:加藤杏華(十六銀行)/撮影:ハヤシマコ

リオ五輪開催年の2016年、全日本卓球選手権で福原愛を下す金星を挙げ、ノーシードから一気に3位まで駆け上がった選手がいる。

十六銀行卓球部所属の加藤杏華(かとうきょうか・23歳)だ。

入社1年目の全日本5回戦で福原さんにゲームカウント0-3から大逆転勝利を収め、勢いそのままにベスト4まで駒を進めた。

岐阜商業高校2年でも全日本8強入りを果たしている加藤杏華は「高2での全日本ランクが実業団入りのきっかけ」と笑顔を見せながらも、卓球人生の最大の転機となったのは別の大会だと語る。加藤杏華があげたのは「高校1年のベトナムの大会での優勝」という意外な答えだった。

ベトナムの小さな大会で得た大きな自信

加藤杏華は、1つ上の姉・知秋と同時期に卓球を始め、追いかけるように岐阜商業高に進学した。高校1年時にはインターハイ団体戦でベスト4に入ったが、個人戦ではシングルスベスト16と納得いく結果を残せなかった。

「全中もインターハイも自分は個人戦で目立った成績がなかった。十六銀行は憧れでしたが、入れると思ってませんでした」と懐かしそうに思い返す。




写真:加藤杏華(十六銀行)/撮影:ハヤシマコ

高校1年の3月、全国から同世代の実力者が集う春季強化合宿のリーグ戦で結果を出し、夏のベトナム遠征に選出されたことで、加藤杏華の卓球人生が動き始める。

加藤杏華は、遠征先のベトナム・ホーチミンで開催された大会で、リン・イエ(現・シンガポール代表、トップおとめピンポンズ名古屋所属)を決勝で下し、優勝を飾ったのだ。

「ベトナムの大会で初めて個人戦で優勝することができました。そこが自分にとって大きなきっかけになりました。『自分もできるんだ』って」。ワールドツアーでもない小さな大会の優勝で大きな自信が芽生えた。




写真:加藤杏華(十六銀行)/撮影:ハヤシマコ

「今までは自分は実力が下だと思っていたから、勝ちたいと向かっていくしかなかった。でも、『私、こんなこともできるんだ』と思えてからは、勝っていこ!くらいの感じになりました。それがよかったのかもしれないです」。

自信を持ってどっしり構える戦い方を覚えた加藤杏華は、高校2年の全日本シングルスで見事ベスト8とランク入りし、大きな舞台で結果を残した。

自信に経験と練習量が加わり快進撃へ

全日本ランカーとなったことで、自らの手で「憧れの実業団・十六銀行」への進路を切り拓いた。姉の背を追うようにして入社すると、1年目からチームのレギュラーとして起用された。実業団選手としての生活は加藤杏華を大きく成長させた。

「高校時代と比べると練習量が増えたし、団体戦に使っていただいたので、実業団の上のレベルの選手とたくさん試合ができた。試合を通して私もこれを取り入れようなど収穫があった1年目でした」。




写真:加藤杏華(十六銀行)/撮影:ハヤシマコ

社会人1年目の全日本では、ノーシードから前田美優、福原愛、早田ひなを連破し、3位に入賞した。

「ビックリでした(笑)」と照れながらも「その年は十六銀行から全日本のシングルスに出る人が2人だけだったので、トレーナーさんも付きっきりで自分を見てくれた。高校上がってすぐで、調子も含めて自分で全てをコントロールできなかったので、言葉をかけてもらえるのがすごくありがたかったです」と周りのサポートを快進撃の一要因として挙げた。




写真:加藤杏華(十六銀行)/撮影:ハヤシマコ

ベトナムで得た自信に経験と練習量が組み合わさり、加藤杏華には確かな実力が身についていた。

2度目の全日本ランク入りがまぐれでないことを証明するかの如く、翌年の入社2年目には全日本社会人で3位、3年目には後期日本リーグシングルス6勝1敗の成績で優秀選手賞を受賞した。

切磋琢磨して十六銀行を支える加藤姉妹

この大ブレイクに刺激を受けた選手がいる。姉の加藤知秋だ。

「(全日本3位と)負けても当たり前ぐらいの結果を妹が出したので、自分がやれることをやらなきゃなと気持ちが変わった」と姉・知秋は自身の卓球を改革し、2019年に全日本シングルスで初のランク入りを掴み取った。

一方、加藤杏華も姉の存在は大きいと語る。「進路は、姉が決まったらそこに行くみたいな感じでした。いつも姉の練習量の多さにはびっくりします。私には真似できないです。本当にすごいなって」と尊敬の眼差しを向ける。




写真:加藤杏華(十六銀行)/撮影:ハヤシマコ

2019年は、姉・加藤知秋が前期日本リーグの優勝を決める勝利をあげ、前期優勝で出場権を得たファイナル4は妹・加藤杏華が貴重な1勝をもぎ取り、チームを年間王者に導いた。

加藤姉妹の力はチームに欠かせないものとなっている。

だが、加藤杏華は「もう少し勝ってチームに貢献したかった」と満足はしていない。「ファイナル4を2連覇できるように頑張っていきたいです」と次のシーズンに向け意気込む。

姉が先を行く時期もあれば、妹が引っ張るときもある。

加藤姉妹の活躍がエンジンとなる来季の十六銀行から、ますます目が離せない。

取材・文:山下大志(ラリーズ編集部)