「選抜は考えても仕方のないこと。我々は大会の主催者に従うだけです。無観客か中止かに左右されるのではなく、準備をするだけ。…

「選抜は考えても仕方のないこと。我々は大会の主催者に従うだけです。無観客か中止かに左右されるのではなく、準備をするだけ。個々の選手のモチベーションまではわかりませんが、予想よりも落ち込みは少なかった。強がってるような感じで、気丈に振舞っていたと思います」

 3月12日、選抜中止発表翌日のミーティングを高橋監督はそう振り返る。指揮官は多くを語らなかったが、その思いを知ってか知らずか、選手はその場ですぐさまスコアボードに記された「選抜まであと7日」の文言を「夏まであと114日」に書き換えたという。しばらくは朝夕のラッシュを避け時間を短縮しての練習を行っていたが、愛知県が独自に緊急事態宣言を出す直前の4月10日から全体を完全自粛。現在は特に指示を出すこともなく、練習メニューも選手の自主性に一任している。

「今は何もしていません。解散の前にもあまり細かいことは指示せず、できることを考えてやるようにと伝えました。あれをしろ、これをしろとは言えるような状況じゃないですから。私がしたことといえば主将と一度連絡をとったくらい。チームにとって今自分に何ができるのか。ある程度任せることも選手を伸ばすことにつながるので」

 今も全体練習を継続中の学校、リモート練習など様々な取り組みで夏へ向け調整する学校も多い。また、各地で大会が中止に追い込まれることで選手の進路に悩む指導者もいる。高校野球界屈指の名門といえど、前例のない状況のなかで不安はないのか。

「(不安が)ないと言ったら嘘になりますが、どれも今は考えても仕方のないことですから。選手たちは昨秋全国で勝って、それぞれに将来的な目標もある。大会がなくなって将来に不安な思いがあっても、そこでじゃあどうするかと今進路の話はできない。夏にしてもそれ(開催や中止)はそのとき考える。高校野球ファンの方は開催を心待ちにしてくれていますが、現実は野球野球と言ってられるような状況ではない。考える時間はあるので、今は自分の家庭や人生を見つめなおす時間に当てています」

 春夏通算11回と全国最多の優勝回数を誇る中京大中京。戦前から続く伝統の野球部だからこそ、本質を見失わず、今はじっと雌伏の時を過ごしている。(佐藤佑輔 / Yusuke Sato)