中断している今季F1。再開はいつになるのか不透明なままだ 新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、このパンデミックが経済に与える影響もまた、大きな焦点になりつつある。世界各地で国や都市の「ロックダウン」が続き、多くの産業が停止状態に陥り…



中断している今季F1。再開はいつになるのか不透明なままだ

 新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、このパンデミックが経済に与える影響もまた、大きな焦点になりつつある。世界各地で国や都市の「ロックダウン」が続き、多くの産業が停止状態に陥り、世界経済は急速に減速しているからだ。

 このウイルスが与える経済的な影響は、すでにF1を始め、主なシリーズで開幕のめどすら立たないモーターレース界でも顕著に現れており、いくつかのF1チームの将来にも暗い影を落とし始めている。レースが行なわれていないため、チームのスポンサー収入が途絶えたり、大きく減少したりするケースが増えており、一部のチームは深刻な「倒産」のリスクに直面しているという。

「この状況は、いくつかのチームに壊滅的な打撃を与える可能性がある」と警告するのは、マクラーレンのチームボス、ザック・ブラウンだ。

「今世界で起こっている現実を直視し、我々がこの状況に正面から積極的に取り組まなければ、近い将来、少なくとも2つのチームがF1から消滅してしまうだろう。そして、適切な方法で対処できなければ、最悪の場合、さらに2チーム、合計4つのチームが姿を消す可能性がある」

 2010年代の後半、HRT(2012年に消滅)、ケータハム(2014年途中で消滅)マルシャF1(2014年末に消滅)といった「新興チーム」が立て続けに姿を消して以来、F1は何とか現在の10チーム20台体制を維持してきた。とはいえ、その後も財政基盤の弱いプライベーターチームの経営状況は不安定なまま。2年前、アルファロメオがザウバーへの支援を決断する直前、スイスに本拠地を置くザウバーチームには電気代を支払う余裕がなかったと噂されていたほどだ。

 今、最も大きなリスクに直面しているチームのひとつが、名門・ウィリアムズだろう。新型コロナウイルスの流行で今季F1の開幕が遅れるなか、チームは今年4月に入って、同社の「アドバンスドエンジニアリング部門」の売却を発表。そのうえ、このビジネスに留まるためにさらに融資を受けなければならなかった。ちなみにチームのファクトリーと、この名門チームの歴史を彩ってきた貴重なグランプリカーのコレクションを担保にしているという。

 また、ウィリアムズは当面のチーム運営資金を節約するために、チームスタッフの一部を一時帰休させることを発表したチームのひとつであり、レーシングポイントとルノーも同じ動きを見せている。これは、従業員を解雇せずに「一時帰休」という形で休ませる場合、英国政府が彼らの賃金の80%を負担する政策を打ち出しているからで、今後、英国内にあるほかのチームもこれに続くと予想されている。

 そもそも、ウィリアムズはここ数シーズン苦しい戦いを強いられており、スポンサーシップにも恵まれていない。そのため、最もリスクの高いチームとして誰もがリストのトップに挙げていたチームだ。

 現在、資金面で唯一の支えが、今季からチームに加入したカナダ人ドライバー、ニコラス・ラティフィの家族が持ち込むスポンサーマネーだが、これは「持続可能なモデル」とは言い難い。チームが彼に競争力のあるマシンを提供できなければ、ラティフィはチームを去る可能性が高く、それと同時にウィリアムズは資金を失ってしまうからだ。それはこのチームがかつて、ドライバーのランス・ストロールと共に、最大のスポンサーであるストロールの父の支援を失ったのと同じ構図だ。



ニコラス・ラティフィの存在はウイリアムズにとって重要だ

 しかも、ウィリアムズは今季よりも、F1の技術レギュレーションが大きく変わる2021年シーズンに照準を定めていた。ところが、今回の新型コロナウイルス流行の影響で新レギュレーションの導入は2022年に延期されることが決定。仮にチームが2020年を生き残れたとしても、2021年は戦闘力に劣る2020年型のマシンの発展型で戦わざるを得ないため、厳しい年になることは避けらない。

 ウィリアムズに次いで大きなリスクを背負っているのがハースだ。こちらは、新型コロナウイルスの影響以前に、チームオーナーのアメリカ人、ジーン・ハースの「やる気」の問題と言えるかもしれない。

 ハースは冬のテスト中、そしてNetflixのドキュメンタリーシリーズ「Drive to Survive」の中で、これまで自分の資金をチームに投入しても平均的な結果しか得られないことに失望していることを明らかにした。そして、2020年末まではチームへの資金提供を続けるが、その後はチームがレースに勝つチャンスがない限り、撤退するかもしれないとも明かしている。だが、現実的に考えて、今季(仮に今季があれば、だが)ハースのチームが高い競争力を発揮する可能性は低く、そうなれば厳しい決断を下さなければならないかもしれない。

 一方、一時はウィリアムズ以上に、その将来が危ぶまれていたレーシングポイントは、2021年から「アストンマーティン・レーシング」に生まれ変わることで、当面、F1に留まる道を確保した。ただし、これが他の自動車メーカー系ワークスチームの成り立ちと異なるのは、アストンマーティン自体も財政危機に陥っているという点だ。実はアストンマーティンとレーシングポイントの双方が、ドライバーのランス・ストロールの父であるカナダの億万長者、ローレンス・ストロールからの出資を受けることで実現した動きなのである。



大富豪を父に持つランス・ストロール

 F1では、裕福な家族を持つドライバーがチームに資金を持ち込んでシートを得るケースは少なくない。近年ではストロールがその典型例だが、今回は彼の父親がチームだけでなく、自動車メーカーにまで出資して息子のチームを「ワークスチーム」に生まれ変わらせてしまうのだから驚きだ。ただし、それは裏を返せば「特定のドライバー依存」の経営とも言えるわけで、中期的な参戦の見通しは開けたものの、これでチームの長期的な将来が保証されたとは言い難い……。

 将来に不安を抱える4つ目のチームはアルファ・タウリ(元トロロッソ)だ。今季からチーム名を変更し、レッドブルのアパレルブランド、アルファ・タウリに生まれ変わったとはいえ、レッドブルの「第2チーム」としての位置づけは従来どおり。問題は親会社のレッドブルだ。新型コロナウイルスの流行により、外出禁止やロックダウンが行なわれた結果、世界各国でクラブ、バーが閉鎖され、レッドブルの本業であるエナジードリンクの売り上げが激減しているのである。

 これまで、F1だけでなく様々なエクストリームスポーツの「パトロン」となってきたレッドブルだが、オーストリアに本拠を構えるレッドブルグループの総帥、ディートリッヒ・マティシッチ氏が今後も2つのF1チームに出資し続けられるのか? 一部にはレッドブルがアルファ・タウリをホンダに売却するという噂もあるが、そのホンダも含めて、今回のパンデミックでは自動車産業全体が大きなダメージを受けているため、この状況で「F1チームを買収する」という決断を下すのは簡単なコトではないだろう。

 実際、ルノーがスタッフの解雇に踏み切ったことは、自動車メーカーのワークスチームもまた、コロナウイルスの影響を免れないことを示している。ルノー、メルセデス、アルファロメオは自動車販売事業の再建に専念しなければならず、モーターレーシングチームは望まない重荷になる可能性がある。

 新車販売は崩壊しており、FIA会長のジャン・トッドですら、このスポーツにおけるワークスチームの将来を懸念していることを認め「多くのチーム、サプライヤー、メーカーが計画を見直さなければならないかもしれないし、中止せざるを得ないかもしれない」と語っている。

 この大きな財政的脅威に対抗するために、FIAは2021年の新しいレギュレーションの導入を2022年まで延期することを決定。チームは2020年のマシンを2021年も引き続き使用できるようになった。加えて、来シーズンにはついに年間のチーム活動資金の上限を定めたコストキャップが導入されることになったが、年間1億7500万ドル(約188憶5000万円)の支出制限はまだ高すぎると感じているチームが多く、少なくともさらに2500万ドルの削減を望んでいる。

 現在のパンデミックは我々の日々の暮らしを変えつつあり、その将来をも大きく変えようとしている。それはF1の「今」や「未来」に関しても同様であり、1年後のF1の景色が、今のそれとは大きく異なっていても不思議ではない。