文 SPOZIUM編集部 出典:SPOZIUM 2015年5月1日 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります) 年齢や性別を問わず人々が参加できて、勝敗を越えたスポーツの新たな楽しみ方を広めている「世界ゆるスポ…

文 SPOZIUM編集部

出典:SPOZIUM 2015年5月1日

(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

年齢や性別を問わず人々が参加できて、勝敗を越えたスポーツの新たな楽しみ方を広めている「世界ゆるスポーツ協会」。「バブルサッカー」をいち早く日本に輸入したり、その他数多くのスポーツをゼロから創っている他には類を見ない協会だ。日経トレンディ「2015ヒット予測」にも取り上げられ、さらなる普及が期待されている。今回は、「バブルサッカー」の仕掛人でもある、「世界ゆるスポーツ協会」トータルプロデューサー澤田智洋氏に立ち上げの背景や今後の展望について語っていただいた。

バブルサッカーから見えてきたもの

まず、僕自身、運動が得意ではなかったんです。体育の授業が苦痛でした。アメリカ育ちなのでガタイのいいクラスメートに囲まれて運動するのも苦痛そのものでした。だから、社会人になったら、スポーツと関わらずに生きていこうと思っていました。ただ、魚の骨のように、どこか引っ掛かるものがずっと消えませんでした。仕事や人生が充実すれば引っ掛かりが取れるかなと思っていましたが、取れることは無く、これは成仏させるしかない。向き合ってみようと思い、ここ数年色々なスポーツに関わるビジネスをしていました。

しかし、僕のようなスポーツ弱者は観戦は楽しめても、スポーツは楽しめません。そんな中2013年12月に、「バブルサッカー」がノルウェーで流行っているという情報を入手して、これなら試合中に失敗しても誰にも怒られないからやってみようと、この競技なら僕でも楽しめるかもしれないと有志たちと「バブル」を輸入して2014年に協会を設立しました。すると、僕みたいにスポーツを普段やらなさそうな人が集まってきて、面白いという評判になり、広く普及していきました。

普段はスポーツをやらない人が「バブルサッカー」のためにウエアを買ったり、嬉しそうに「バブル」と写真を撮る姿を見て、皆、実はスポーツを楽しみたかったんだと感じました。また、高齢者や障害者を合わせるとスポーツ弱者のパイの方が圧倒的に多いのではと思い、「バブルサッカー」の価値が僕の中で少しわかった瞬間でもありました。

「世界ゆるスポーツ協会」発足のきっかけ

少しずつ「新しいスポーツ」の方向性が見えてきた時に、ハンドボール元日本代表キャプテンの東俊介さんにハンドボールの普及を手伝ってほしいと依頼されました。体験会をやっても決まった人しか来ない。ファンが増えにくい。僕の職はコピーライターなので、最初はキャッチコピーを考えようとしました。でも、「バブルサッカー」から抽出した因子をハンドボールに入れて、新しいハンドボールを作った方が正しいのではと直感的に感じました。新しいハンドソープを入り口に人を呼び、最終的にはハンドボールへと誘導する流れを作ることができるのではないかと。そこでオリジナルで創ったのが「ハンドソープボール」という新しいスポーツです。現在では、月に1回くらいのペースで体験会を開いて人が集まっています。子供や車椅子の人も参加していますが、「バブルサッカーの因子」を元に創られているので、皆がフラットに楽しめています。体験会は2時間あるのですが、最初の1時間はハンドボールを東さんが教えて、最後の1時間は「ハンドソープボール」をプレーする流れにしています。結果、ハンドボールを久しぶりにやって楽しかったとか、ハンドボールに興味を持つきっかけになることが多いと感じます。「ハンドソープボール」を体験した何人かは3月に行われたハンドボールの試合観戦に行くなど、競技普及につながっている実感があります。

僕は「ハンドソープボール」をはじめ、みんなが楽しめることのできるスポーツを「ゆるスポーツ」と名づけました。また多くの仲間たちと一緒に、4月10日に「世界ゆるスポーツ協会」を立ち上げました。「ハンドソープボール」の他、犬と一緒チームにプレーする「イヌティメットフリスビー」、手首に手錠をはめる「手錠バレー」、世界で初めての温泉のスポーツ化を目指す「エレクトリック温泉」など、25種目の新しいスポーツを企画開発中です。

「ゆるスポーツ」の基準

ゆるスポーツは、「バブルサッカー」から抽出した「因子」をロジカルに組み込んで創っています。一つは「勝ったら嬉しい。負けても楽しい。」です。既存スポーツは勝ったら嬉しいけれど、負けたらつまらない(多くの人にとっては)。でも、「バブルサッカー」は様々な人が参加しています。ガチでやって大会で優勝したい人。一方で、ポヨンポヨン遊びたいだけの人、ゆるく体を動かしたい人、SNSで発信するのを楽しむ人もいる。多様な楽しみ方が内包されているかが大切だと思っています。それを一言で言うと「勝ったら嬉しい。負けても楽しい。」そのためには、スポーツとしての最低限の土台がなければダメです。なぜなら、その部分がないとスポーツをやりに来た人が満足できないからです。

二つ目は、「全力ではしゃげること」です。特に昨今、監視社会で会社からもSNSからもあらを付かれる風潮があって、反動として大人がはしゃぎたい世の中になってきていると感じています。そのはしゃげる因子をどうやって入れるのか、それが「バブルサッカー」ではバブルであり、「ハンドソープボール」ではツルツルのハンドソープです。はしゃいで良いよ!という状況を内包しているのです。

最後は、我々の裏テーマでもあるのですが、「スポーツを通じて参加者と観戦者を笑わせる」という事です。ただ笑顔にすることではなく、もう明確に笑わせることです。普段僕はCMを作っていますが、ギャグCMを担当することが多いんです。実はそのノウハウをそのまま取り入れて、CMで人が笑うポイントをスポーツにロジカルにはめていたりもします。

新ジャンルスポーツが日本社会の課題解決ツールに

一見普通にやっている「ハンドソープボール」ひとつとっても、ハンドボールのファンを増やすことだけではなく、あらゆる人の運動不足を解消し、その結果日本の医療費削減に貢献しようとする2つの目的があります。多くの人々が楽しめて、複数の課題を解決できる、そこは拘っているポイントです。ただ楽しいからやるのではなくて、ちゃんと社会的な課題を解決する。この取り組みをただの暇つぶしコンテンツで終わらせるのではなく、大きく育てていきたい、だから複数課題を同時に解決することは大切だと思っています。他にも競技はありますが、全てそのような観点から考えています。

2020年に向けて、世の中のスポーツ意識が高まる中での「世界ゆるスポーツ協会」、今後の展望

日本発のスポーツビジネスをつくりたいと思っています。スポーツビジネスはアメリカやイギリス主導であり、彼らがルールメーカーになっていると感じます。日本人の競技レベルが上がるとルールを変更したり、マネーゲームとしてもボロ負け状態です。であれば新しいスポーツビジネスのルールを日本人の手でつくっていきたい。しかもマッチョだけができるスポーツじゃなくて、超高齢社会の日本発だからこその、高齢者も含めてできるスポーツを。他の国も自ずと超高齢社会化していくので、進んでいる日本が始めなければいけないくらいの志です。

それをいち早く作ることで、他国も今後日本のスポーツを取り入れていく。課題先進国を逆手に取った新しいスポーツビジネスです。日本の高齢者が欧米人のような筋肉隆々の青年に勝つ姿がみたいですね。あとは障害を持っている人のスポーツ環境が整っていない環境をなんとかしたいとも思っています。我々は、新たな競技を考えるときに、高齢者や障害者を主体としたインクルーシブデザインという手法を取り入れています。高齢者や障害者を交えてスポーツをしてどこが課題なのか、どこが楽しかったのか、そこをメンバーでディスカッションしています。結果、障害者も子供も高齢者も運動神経悪い人も皆が楽しめるスポーツが出来上がります。

障害者の為のスポーツ施設は東京では、北区と国立市の2箇所しかありません。車椅子や視覚障害を持っていると行きにくいですし、一方で健常者がガチで使用している体育館には行きづらい。障害者が自由にスポーツができる環境が少ない。そこで、健常者と障害者が自然と交じり合う空間を作りたいと思っています。パラリンピック、オリンピックにもない第三のスポーツとして「ゆるスポーツ」を創りたいです。