来年に延期された東京五輪に向けて、日々黙々とトレーニングを重ねている異色の選手がいる。男子7人制ラグビー(セブンズ)日本代表候補のひとり、27歳の林大成だ。2018年から7人制ラグビーに専念している林大成 世界を転戦するワールドシリーズ(…

 来年に延期された東京五輪に向けて、日々黙々とトレーニングを重ねている異色の選手がいる。男子7人制ラグビー(セブンズ)日本代表候補のひとり、27歳の林大成だ。



2018年から7人制ラグビーに専念している林大成

 世界を転戦するワールドシリーズ(WS)への来季昇格をかけて、男子セブンズは2020年2月にチリとウルグアイの南米2大会に出場した。林はそのメンバーから落ちてしまったものの、招待された3月のWSバンクーバー大会では代表に復帰し、見事なステップからトライを奪取。「自信になった」と、アピールすることに成功した。

 大阪市瑞光中学でラグビーを始めた林は、もともと15人制ラグビーの有望な選手だった。東海大仰星で花園に出場し、東海大ではキャプテンにも就任。大学卒業後の2015年にはキヤノンイーグルスに加入するなど、ラグビー選手として王道を歩いてきた。

 社会人2年目にはプロ選手となった。だが、その頃から林の気持ちに変化が現れる。日本一を目標にチーム一丸となってラグビーに専念していた学生時代と比べると、トップリーグの中堅チームであるキヤノンでのプレーには、少し物足らないものを感じていたという。

「優勝争いをするようなチームだったら、違っていたかもしれない」

 過去を振り返り、林は正直に吐露する。

 社会人3年目となる2017年の春、林は決断する。キヤノンの首脳陣に「セブンズへのチャレンジ」を直談判したのだ。

 当時、7人制日本代表に専念している選手は少なかった。林はスキルや判断力の高さを早々に認められ、セブンズ日本代表に選出。5月に行なわれたワールドシリーズのパリ大会に参戦した。

 桜のジャージーを着て世界の舞台で戦うのは、U17日本代表に選出された以来。

「最高の熱狂を味わうことができました!」

 林はセブンズの楽しさを肌で感じた。また、日本代表として東京五輪に挑戦できることも、セブンズに大きな魅力を感じたという。

「自分がやりたいと思ったことだけをやる」

 15人制ラグビーのトップリーグに見切りをつけた林は、2018年にキヤノンを辞めて退路を断つ。そして、7人制ラグビー専任選手として日本ラグビーフットボール協会と契約を結んだ。

 男子セブンズ日本代表は大会ごとに世界各地を転戦し、その合間に東京、熊谷、大分、沖縄などで合宿を行なうため、年間200日以上はホテル住まいである。そこで林は、スーツケースに練習着やパソコンなど必要なものだけを詰めて、衣替えで実家に戻る以外は定まった家に住まない「アドレスホッパー」生活を始めることにした。

「僕は所属(のチーム)がないので、行く先々に泊まって家を持たずに生活しています。不便がないことはないですが、帰宅するための移動時間もないので、効率よくて済みますね」

 セブンズのプロ選手となった2018年当時は、1年後に開催されるラグビーワールドカップに向けて盛り上がってきた時期。オリンピック競技ながら、セブンズに注目が集まることはほとんどなかった。

 そこで林は「少しでもセブンズを知ってもらうきっかけになれば」と思い、全国のラガーマンと1対1で対決する「全国ステップチャレンジ」という企画を考えた。

「セブンズ日本代表は遠い存在だと思うので、一緒にステップを練習したり対決することによって、少しでも(7人制ラグビーを)応援してもらえればと」

 全国ステップチャレンジを始めた意図を、林はこう語る。

 TwitterなどのSNSでステップ対決の相手を募集すると、小学生の子どもから高校生、大学生、さらにはトップリーガーからも誘いを受けた。「一発で(自分のことを)覚えてもらえるように」と、ヘアスタイルも金髪に染めた。今ではアメリカンフットボール選手やバスケットボール選手からも誘いを受けて、全国各地に赴いてステップで勝負する日々だ。

 林の活動がSNSを通じて広まっていくと、全国のゲストハウス・ホステルの定額住み放題サービスを運営する「HafH」や、自動車ディーラーの「マツシマホールディングス」からスポンサードを受けるようになった。全国各地の「住まい」と自動車という「足」を手に入れたことで、全国ステップチャレンジを開催しやすい環境はさらに整った。

 2018年7月にチャレンジを始めて、1年半あまりで約500人の選手と対戦したという。林は「いろんなレベルの人たちとやることで、自分のプレーの幅も広がりました」と胸を張る。さらにステップの魅力を広めるべく、「林大成7’sRUGBY」というYouTubeチャンネルも開設してスキルを解説している。

 3月のバンクーバー大会では、参加した他チームの選手から新型コロナウイルスの陽性反応が出たため、林も含めた日本代表選手たちは帰国後の2週間、自主的に隔離生活を送っていたという。そんななか、3月24日に東京五輪の1年延期が発表された。

 この発表について感想を聞くと、林は東京五輪の延期を前向きに捉えていた。

「延期されることは薄々わかっていましたが、自分としては試合でアピールできずに本番を迎えるのが嫌でしたし、自分の成長を(この1年間で)より加速できるので『よっしゃー!!』と思いましたね」

 ただ、セブンズにラグビー人生のすべてをかけている林にとって、東京五輪がゴールではない。

「オリンピックに出場するだけでなく、結果を残したい。2019年のワールドカップの盛り上がりもあるので、東京五輪ではある程度セブンズを見てくれると思いますが、オリンピックで終わりにはしたくない。セブンズのステージをもうひとつ上げて、オリンピック後にもつなげていきたい」

「ステップの伝道師」として自分を磨き続ける林大成は、アドレスホッパー生活を続けながらオリンピックという夢の舞台に挑む。