プロ野球開幕に向けてカウントダウン企画を行っていたが延期を受けて…  丁寧に書かれた4枚のスケッチブックの直筆メッセージは野球ファンの心に残るものとなった。明治神宮野球場が公式SNSにアップした画像は反響を呼んだ。神宮球場を訪ねると2人の女…

プロ野球開幕に向けてカウントダウン企画を行っていたが延期を受けて…

 丁寧に書かれた4枚のスケッチブックの直筆メッセージは野球ファンの心に残るものとなった。明治神宮野球場が公式SNSにアップした画像は反響を呼んだ。神宮球場を訪ねると2人の女性職員が取材対応してくれた。佐久間美咲さんと小原愛美さん。ともに野球を心から愛するスタッフだった。だからこそ、届けられた温もりのある言葉だった。

 2020年の球春到来が待ちきれなかった。最初は明治神宮球場公式SNSで開幕に向けて、カウントダウン企画を行っていた。1か月を切った段階からスケッチブックに「あと何日」と明記。ヤクルトの小川泰弘投手や上田剛史外野手、嶋基宏捕手らが登場していた。しかし、状況は一変した。小原さんは思いを明かした。

「(カウントダウンを)停止しなくてはならなくなって、何かコメントを出したい、と思いました。この自粛モードの世の中や、イベントがなくなったり、ストレスに感じているのはみんな同じだなと思ったので、何かそれを軽減できるものがないかなと考えて、一緒に頑張りましょうというメッセージを伝えたかったというのが一番です」

 手書きにした理由は「一番、伝わる」と思ったから。よく見ていただければわかるが、4ぺージに渡るメッセージを3人のスタッフで書いたため、筆跡の違いがある。最初は1人で書く予定だったが、あえて球場職員の“総意”として、思いを伝えたかったため、別々に書くことにした。

「この準備期間でもっと球場に来たいと思ってくれる方が一人でも増えてほしい」

『神宮球場でお会いできる日が少し先になってしまいましたが、今シーズンもたくさんのファンの皆様と笑顔でお会いできるよう、私たち職員一同は、この延期を前向きに捉え、お客様をお迎えする準備を進めております。日々の生活の様々な場面で制限がかかる中、ストレスを感じることも多々あると思いますが、今の皆様の我慢や苦労、努力が報われ、プロ野球・アマチュア野球共に、無事に開幕が迎えられること、そしてまた元通りに一丸となって選手を後押しできるようになる事を信じています。今シーズンも神宮球場へのご来場、心よりお待ちしております。神宮球場職員一同』

 すると、ファンから多くの反応が。「職員さんの心づかいありがとうございます」「涙が出てきた」「泣いてしまう」といった感謝、感激のコメントから「見せましょう、神宮の底力を」「みんな一丸となって頑張りましょう」という激励が寄せられた。小原さんも投稿時は「何か悲しいというか、20日を迎えるために頑張ろうという思いでいたのに、残念という気持ちが大きかった」。投稿も「球場に来たい方のストレスを増やしてしまわないだろうか」という思いもあったが、温かいコメントで次第に2人とも「逆に元気づけられました。もう少し頑張ろう」と気持ちを切り替えられた。

 佐久間さんも小原さんも大の野球ファンで学生時代から神宮球場に足を運んでいた。ファンの視点も理解した上で、今年の開幕に向けても準備。来場者の喜ぶ顔を想像してきた。神宮球場はプロだけでなく、小・中学生の野球の大会から高校野球、大学野球、社会人野球、そして草野球まで、野球人に愛されている場所。

「神宮球場がとても好きです、とか球場の写真いいですね、とSNSに寄せられることがとても嬉しいです。自分で言うのもおかしいですけど、プロ・アマ問わず多くの野球ファンの方から愛してもらっている球場なのかなと思います」と佐久間さんが言えば、小原さんは「私にとって神宮球場は生活の一部という感じです。多くの方にとってもそんな当たり前の存在になれたらうれしいです。この準備期間でもっと球場に来たいと思ってくれる方が一人でも増えてほしいと思います」

 誰もいないスタンドを見渡しながら、寂しさが募った。しかし、目を閉じて耳を澄ませば、満員のスタンドからの大声援が聞こえてくる。球春到来を待つ人々はファンだけではない。愛される球場で、その時を待っているスタッフも多くいる。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)