コロナウイルス問題で開幕の時期が見えないなか、広島の開幕一軍捕手の顔ぶれが決まった。正捕手の會澤翼に、第3の捕手として…
コロナウイルス問題で開幕の時期が見えないなか、広島の開幕一軍捕手の顔ぶれが決まった。正捕手の會澤翼に、第3の捕手として40歳のベテラン石原慶幸。そして高卒4年目の坂倉将吾が2番手捕手の座をつかんだ。
坂倉の1歳下の中村奨成は今年も二軍スタートが決定的だ。今春キャンプでは坂倉や新人の石原貴規(ともき)とともに、2番手捕手を争ってきたが、中村はもっとも早い2月16日に二軍行きを通達された。

入団3年目を迎えた中村奨成。今年こそ初の一軍昇格を目指す
「レベルがまだまだ低いなと思ったし、一軍の選手のプレーを見てすごいと思った。自分のプレーとはレベルが違った。精度もそうですし、正確性、捕手の動き、考え方もそう。まだ遠いなと思いました」
中村は、昨年の秋季キャンプで初めて一軍キャンプに同行した。オフ期間の肉体強化の成果を認められ、今春も一軍キャンプに参加したものの、まだ競える立場にないことを痛感させられた。
広陵高(広島)時代の2017年、中村は夏の甲子園で清原和博(PL学園)が1985年に樹立した1大会5本塁打を抜く、6本塁打の新記録を打ち立てた。地元のスター候補に、広島はドラフト1位で指名し獲得した。大きな期待を背負い入団して3年。周囲が望んだ成長曲線を描いているとは言えない。
高卒1年目には、二軍で4本塁打を記録するなど83試合に出場したものの、2年目はケガでキャンプから大きく出遅れ、二軍での出場も39試合に終わった。
そして3年目の春に初めて一軍のレベルを感じ、自分の現在地がわかった。足りないものを痛感されられたことは決してネガティブなことではない。明確な意思を持って前進していける原動力になる。
「考え方ひとつでいろいろ変わってくると思う。実際、行動に移して、失敗に終わることもあると思いますけど、それも経験。昨年までとは違うチャレンジをしたい」
これまでも技術面以上に、精神面での指導を受けてきた。オフに母校に行った時には、恩師である広陵高の中井哲之監督からも叱咤激励を受けた。
強肩、打撃センス、また甲子園で本塁打記録を塗り替えたスター性は誰もが認めるところ。だが、プロでは自らの力で切り開いていかなければ道は開けない。
広島の4番であり、日本の4番に成長した鈴木誠也は、オフに珍しく若手へのメッセージを送った。
「僕は3年目にレギュラーを獲らないとクビになると思っていた。1年目からレギュラーを獲るつもりだった。今の子たちは遅い。ゆっくりやっているように見える。『そんなことをやっていると消えてしまうよ』と伝えたい。そんな甘い世界じゃない」
決して口だけではない。高卒1年目で一軍デビューを果たした2013年オフ、毎日のように大野練習場で打撃マシンと対峙する鈴木の姿があった。その後、レギュラーとなり、4番となっても「気を抜いたらいけない」と、常に危機感を持っているからこそ、今なお成長しているのだろう。
このメディアを通して発信した鈴木の言葉は、中村の胸に刺さった。
「危機感を感じている。誠也さんの記事を読んで、僕もやらないとやばいという気になった。新人捕手もふたり入りましたし、さらに負けられない思いが強くなった」
オフに広島市内のジムに通い続けたのも自己改革のひとつだった。捕手ながらスピードを持ち味とするプレースタイルを自負することから、これまでは負荷の大きいウエイトトレーニングにあまり積極的ではなかった。だが、今年から一軍担当となった倉義和バッテリーコーチからの進言もあり、土台づくりと捉えて、筋力強化に努めた。
まずは二軍で正捕手の座をつかまなければいけない。現状、二軍の正捕手は石原貴規で、ケガから復帰した磯村嘉孝もいる。1歳上の坂倉は一軍で2番手捕手としての経験を積んでおり、初の一軍昇格までに越えなければいけない壁は少なくない。
「僕からすると(同世代のライバルの存在は)すごくありがたい。いないよりはいたほうがいい。それがやっぱり上のレベルにいっている人なら、なおさら。自分も学べることがあるので、成長のプラスになる」
群雄割拠の広島捕手争いで、中村の特長は強肩とパンチ力のある打撃だろう。
「肩で(プロに)入ってきているで、そこは誰にも負けないという気持ちでやりたい。昨年までは守備だけに集中しないといけなかったけど、今年は守備だけでなく、打撃も両立させてレベルアップしていきたい」
課題をつぶして武器を磨く。すべては自己改革から始まる。
そして、自己改革の先に、野球人生の転機が待っているに違いない。