スイスの調査機関「CIESフットボール・オブザーバトリー」の調査によれば、現在ヨーロッパの5大リーグ(スペイン、イング…

 スイスの調査機関「CIESフットボール・オブザーバトリー」の調査によれば、現在ヨーロッパの5大リーグ(スペイン、イングランド、イタリア、ドイツ、フランス)でプレーする外国籍選手の内訳で最多を数えるのは、フランス人選手の115人。全体の10.8%を占めており、「世界最大の輸出国」と言われて久しいブラジル人選手の9.7%(104人)を上回る数字を記録している。



「10年にひとりの逸材」と称される17歳のカマヴィンガ

 さもありなん。

 たとえばスペインの2大クラブだけを見ても、バルセロナではDFクレマン・ラングレ、DFサミュエル・ウンティティ、FWウスマヌ・デンベレ、FWアントワーヌ・グリーズマンの4人が、レアル・マドリードでもDFラファエル・ヴァラン、DFフェルラン・メンディ、FWカリム・ベンゼマが主軸として活躍している(控えGKのアルフォンス・アレオラはパリ・サンジェルマンからのローン移籍中)。

「優秀なタレントを買いたいなら、まずはフランスに行け」

 ヨーロッパサッカー界に定着したその法則により、いまやフランス人選手の争奪戦は移籍マーケットにおける風物詩的なトピックスになった。それこそ、世界に先駆けて育成システムを体系化し、かれこれ50年にわたって時代に合わせたモデルチェンジを繰り返してきた「育成大国の歴史の産物」と言えるだろう。

 そして、その供給元となるリーグ・アンでは、今シーズンも次の移籍マーケットで人気銘柄となりそうな”金の卵”がいくつも産み落とされている。

 その筆頭とされるのが、18歳でトップデビューを果たして以来、リヨンの主軸MFとして右肩上がりの成長を続けるフセム・アワールだろう。

 パリ・サンジェルマンのキリアン・エムバペと同じ1998年生まれのアワールは、現在21歳。11歳からリヨンの育成センターで育った歴代屈指のタレントで、リヨンの先輩にあたるベンゼマやナビル・フェキル(ベティス)と同じアルジェリア系フランス人だ。

 最大の特長はドリブルテクニックとパスセンスにあるが、単に技術に優れただけのタレントではない。とりわけ、自らの技術を試合で表現する方法を熟知するそのサッカーセンスには非凡なものがあり、実はそれこそがアワール最大の魅力だ。

 インサイドハーフやトップ下を主戦場とする攻撃的MFでありながら、ウイングやボランチもそつなくこなせる理由はそこにある。ボールタッチの柔らかさも含め、「フランス版イニエスタ」と言っても過言ではないだろう。

 デビュー2年目にあたる2017−2018シーズンからスタメンに定着し、プロ4シーズン目を迎えるアワールは、現在リヨンのエースナンバー8番を背負ってチームの顔へと飛躍を遂げた。今ではフランス代表招集間近とされ、その市場価値は70億円とも80億円とも言われている。

 果たして、次のマーケットでビッグクラブへステップアップ移籍を果たすのか。アワールがリヨンに入団した時に背番号8を背負い、現在スポーツダイレクターを務めるジュニーニョ・ペルナンブカーノの決断が注目される。

 一方、かつてエデン・アザール(レアル・マドリード)を輩出したリールにも、アワールと同じ21歳のタレントがいる。パリ・サンジェルマンの育成センター出身で、エムバペと同じボンディ出身のアタッカー、ジョナタン・イコネである。

 パリ・サンジェルマンでのトップデビューはアワールと同じ2016−2017シーズンだが、イコネの場合はその冬のマーケットでモンペリエにローン移籍。U−16からU−21まで常にフランスの世代別代表でプレーしたイコネだったが、残念ながら当時のウナイ・エメリ監督のお眼鏡には適わず、モンペリエで修行を続けることとなった。

 転機となったのは2018年夏、リールへの完全移籍だった。そのシーズンのリールはクリストフ・ガルティエ監督のもと、4−2−3−1の前線4人が見事にハマって2位に躍進。イコネは主にトップ下としてスタメンに定着し、眠っていた才能をようやく開花させることに成功した。

 最大の持ち味は、何と言ってもスピードとパワーを生かした果敢な仕掛けだろう。ボールを受けてからの速さとスキルは一級品で、相手DFにとっては一瞬たりとも目が離せない、実にやっかいなタイプの選手と言える。

 シュート精度も含めて荒削りな部分は否めないが、それだけに可能性は無限大。昨年9月には負傷したエムバペの代わりにフランス代表に初招集され、途中出場ながらデビュー戦で代表初ゴールも記録している。

 今シーズンもここまで28試合に出場し、3得点6アシストを記録しているほか、念願のチャンピオンズリーグの舞台も経験。ナイジェリア代表CFのヴィクター・オシメンとともに、現在のリールで最も市場価値の高い若きタレントだ。

 そしてもうひとり、今シーズンのリーグ・アンのなかで絶対的に無視できないヤングスターが、レンヌの天才MFエドゥアルド・カマヴィンガである。

 カマヴィンガが10年にひとりの逸材であることは、まだ短い彼のキャリアが物語っている。

 まず、レンヌとプロ契約を結んだのは16歳と34日(2018年12月14日)のことで、これはクラブ史上最年少記録という逸話付き。その4カ月後の2019年4月19日には途中出場ながらリーグ・アンデビュー。ラスト4試合は連続でスタメン出場を果たした。

 その名をヨーロッパ中に知らしめたのは、今シーズンの第2節。ホームにパリ・サンジェルマンを迎えた試合だった。

 開幕戦からボランチでスタメンを飾った16歳の少年は、世界屈指のワールドクラスの選手たちを相手に物怖じすることなくプレーし、いかんなく自らの才能を披露。5−3−2のアンカーとしてフル出場を果たしたばかりか、1−1で迎えた後半開始早々にはロマン・デル・カスティージョの決勝ゴールをアシストし、大金星の立役者となったのである。

 現在17歳となったカマヴィンガが「エムバペに続くフランスの至宝」と言われる所以は、守備的MFに必要なすべての才能を兼ね備えているからだ。

 ボールを扱うテクニックやフィジカルはもちろん、エアバトルも含めた守備力、展開力、推進力、試合を読む力を含めた戦術理解能力など、あらゆる才能が一級品。しかも、10代とは思えない冷静さを持ち合わせているため、毎試合コンスタントにハイパフォーマンスを継続できるという点も見逃せない。

 スタメンに定着した今シーズンは、ここまで26試合に出場して出場時間は2202分。ブレイクのきっかけとなったパリ・サンジェルマン戦に加え、第18節のリヨン戦では試合終盤に自ら決勝ゴールを決めて勝利に導くなど、ビッグマッチで強さを発揮できる部分も高評価の裏付けとなっている。

 早くもレアル・マドリードを筆頭とするビッグクラブから熱視線を浴びるカマヴィンガのキャリアは、まだ始まったばかり。現状、クラブはその才能をプロテクトする構えで、今後しばらくはレンヌにとどまることが規定路線と言われている。

 果たして、ブルターニュ地方で産み落とされた金の卵は、期待どおりフランスサッカーの将来を担うビッグネームへと成長を遂げるのか。今シーズンのリーグ・アン最大のヤングスターから目が離せない。

 カマヴィンガ以外にも、今シーズンのリーグ・アンではボランチとCBを兼務するパリ・サンジェルマンのタンギ・クアシ(17歳)、彗星のごとく現れたリヨンのFWラヤン・チェルキ(16歳)といった早熟の若手タレントが続々とデビュー。黄金色に輝くフランス産の卵は、まだしばらく尽きることがなさそうだ。