東京オリンピックへ向けて注目度が高まるアーバンスポーツ、アクションスポーツの魅力をFINEPLAY編集部がDig。今回は「スポーツクライミング」の歴史や種目、世界で戦う注目選手を紹介。世界でも強豪国である日本はメダル獲得も期待されており、注…

東京オリンピックへ向けて注目度が高まるアーバンスポーツ、アクションスポーツの魅力をFINEPLAY編集部がDig。今回は「スポーツクライミング」の歴史や種目、世界で戦う注目選手を紹介。
世界でも強豪国である日本はメダル獲得も期待されており、注目必須の新スポーツとなる。この記事をチェックして、「スポーツクライミング」の魅力を存分に体験して欲しい。

スポーツクライミングの歴史

「クライミング(climbing)」は「登ること」を意味する言葉。人間は遥か昔から登山を行ってきたが、自然の岩場を登るフリークライミングも1920年代頃から行われるようになったと言われている。しかし、そこから派生して「スポーツクライミング」として人工壁を登る競技となったのはつい最近のことだ。

成り立ちには諸説あるが、1940年代後半から80年代にかけて当時のソビエト連邦において、自然の岩場を登り切るスピードを競う大会が行われたことがその始まりだと言われている。
1985年にイタリアでは「リード」の大会が岩場で行われ、次第にヨーロッパから競技としてのクライミングが世界中に普及していく。この頃からフランスを中心に室内の人工壁で行われる競技も増えていったという。これが「スポーツクライミング」の始まりである。

1989年には初の国際的な大会であるW杯が開催。1991年には初の世界選手権が開催され、日本人では平山ユージが銀メダルを獲得している。
現在では多くの日本人選手が国際的な大会で目覚ましい成果を上げており、世界でも強豪国のうちの一つとして数えられている。


平山ユージ

スポーツクライミングの種目

競技としての「スポーツクライミング」は「ボルダリング」「リード」「スピード」という3つの種目に分けられる。
さらにオリンピックでは、この3種目で獲得したポイントをもとに順位を決める「コンバインド」という競技方法で成績を決める。
各競技、壁を「登る」ということには変わりないが、それぞれの種目で競技方法が異なる。それぞれの競技の概要をこれから紹介していこう。

ボルダリング

「ボルダリング」は高さ5メートル以下の壁に設定されたコースを制限時間内に登り切ることができた数を競う種目。コースにはボルダーと呼ばれる突起物が設置されており、ボルダーを掴んだり、時には足で引っ掛けたりしながらゴールである頂点のトップホールドと呼ばれるボルダーを目指す。
他の選手のトライを見ることはできず、各ラウンドの前に選手全員で課題を確認するオブザベーションという時間が与えられる。
限られた時間でいかに頂点まで登り切ることができるかが重要となるため、身体能力だけでなく、どのように登るのかを読み解く頭脳も重要となる競技だ。


野中生萌 / photo by HAMASHOWリード

「リード」は高さ12メートル以上の壁を制限時間内にどこまで高く登ることができるかを競う種目。「ボルダリング」はクライミングシューズとチョークと呼ばれる滑り止めを使用して競技を行うが、「リード」では上記の道具に加えてロープの繋がったハーネスを装着して頂点を目指す。コースの途中に設置された確保点と呼ばれる支点にロープをかけることで安全を確保しながら登り、頂点の支点にロープをかけると完登(壁を登りきりゴールすること)となる。
この競技も他の選手のトライを見ることはできず、あらかじめオブザベーションの時間が設けられている。
長い距離を登っていく競技になるため、上り続ける持久力と最小の力で登る戦略を練る力が課題攻略の鍵となる。


平野夏海 / photo by tabasa スピード

「スピード」は高さ10メートル、または15メートルの壁にあらかじめ決められたホールドが設置されたコースをどれだけ速く登り切ることができるかを競う種目。リードクライミング同様ロープにつながったハーネスを装着するが、あらかじめ頂点で支点が確保されているため、競技中の支点確保は行わない。
この競技では、コースは事前に知らされているため、オブザベーションは行われない。
いかに早く登り切ることができるか、タイムを縮めることができるかを考え、トレーニングを積んできた成果を競う種目で、いわばクライミングの「スプリント(短距離走)」だ。


池田雄大 / photo by KAZUKI TAKANOコンバインド(複合)

2020年に行われる予定であった東京オリンピックでは、上記3種目の順位をもとに成績を算出する「コンバインド(複合)」というフォーマットで競技が行われる。「コンバインド」では「ボルダリング」「リード」「スピード」の3種目の順位を掛け算し、そのポイントが少ない者が上位となる仕組み。
3種目の結果が順位を大きく左右するため、バランスの良い成績を残すことが求められる競技となる。どれか一つの結果が欠けてもいけないため、究極のクライマーだけが勝ち上がることのできる種目だ。


本間大晴 / photo by tabasa

スポーツクライミングの観戦ポイント

最近ではライブ配信やTVでの中継も増えており、会場での観戦以外にも様々な楽しみ方ができる「スポーツクライミング」。競技の魅力やの観戦ポイントを紹介していこう。

人間の肉体の限界に挑む選手たち

まず、第一に注目してほしいのは選手たち自身の肉体を限界まで駆使したダイナミック、アクロバットな動きだ。ウォールと呼ばれる人工壁に設置された、ホールドを登っていく選手たちの身体能力には驚くばかり。どうやってホールドを掴み、登っていくのか私谷には予測できないような動きで、選手たちは見事に課題を登っていく。人間はここまでできるのか、と思うほどの極限の動き、筋肉の躍動をは見逃せない。


谷井菜月 / photo by HAMASHOW身体だけじゃない、高度な頭脳と戦略がゲームを左右する

駆使するのは身体だけじゃない。難易度の高い課題を登り切るにはどのように身体を使い、どのように登るかを瞬時に判断する、高度な頭脳と戦略が要求される。選手の体型や身長、得意とする動きも人それぞれであり、課題に対する解決の方法も多種多様。私たちの想像にはるか及ばない、高難易度の課題に対する、選手たちの個性的な登り方にも注目だ。


原田海 / photo by HAMASHOW国籍・性別は関係ない、選手と会場が一体となる瞬間を味わえる

「スポーツクライミング」観戦の最大の魅力は、手に汗握る展開を選手と一体になり、共有できること。
「スピード」以外の競技では、選手たちは時間をかけて課題を登っていくため、その一手一手に注目することができる。選手たちが転落しないように必死でホールドを保持する瞬間や、次のホールドをつかもうと己の限界を超えて手、足をのばす瞬間、私たちは選手と同じ気持ちで力み、また心の中で声援を送っていることに気づくだろう。
実際の競技を目にすると、国籍や選手に関係なく、ハラハラ・ドキドキの瞬間がいくつもある。そういった瞬間には「頑張れ」という気持ちで「ガンバ!」という掛け声をかける風習が「クライミング」にはあり、選手たちもその声援に後押しされ、壁を登っていくのだ。
国籍も性別も特徴も関係ない、応援した目の前の選手が課題を完登した瞬間の快感は何にも勝るものがある。そしてその喜びを選手、会場の観客と一体になり味わう瞬間は「スポーツクライミング」でしか味わえない感情だ。


楢崎明智 / photo by masahiro mizuguchi

「スポーツクライミング」注目選手

スポーツクライミング強豪国の1つに数えられている日本には世界で活躍する選手が多数。東京オリンピックへ向けて世界、日本の注目選手を紹介していこう。

ショウナ・コクシー

ショウナ・コクシーはイギリス出身の27歳。「IFSCクライミング世界選手権2019」ではコンバインド3位と健闘しており、今後の活躍が見込まれている。


ショウナ・コクシー / photo by Shuhei Kanekoヤンヤ・ガンブレット

ヤンヤ・ガンブレットはスロベニアのクライマーで、21歳の若さにして「IFSCクライミング世界選手権2019」コンバインドで優勝した経歴を持つ。「リード」「ボルダリング」の2種目において圧倒的な強さ誇る。


ヤンヤ・ガンブレット白石阿島

白石阿島は18歳、アメリカのクライマー。外岩を中心に活動しており、フリークライミングにおいて輝かしい成績を残している。彼女の父は舞踏家として知られる白石久年ことPoppo。


白石阿島 photo by Shuhei Kanekoアダム・オンドラ

アダム・オンドラはチェコ出身の27歳で、東京オリンピックでの金メダル有力候補。「IFSCクライミング世界選手権2018」ではコンバインドで2位の成績を上げていおり、「ボルダリング」「リード」ともに圧倒的な強さを誇る世界でも指折りのクライマー。


アダム・オンドラ / photo by Shuhei Kanekoヤコブ・シューベルト

ヤコブ・シューベルトはオーストリア出身、29歳のベテランクライマー。「IFSCクライミング世界選手権2019」ではコンバインド2位を獲得しており、東京オリンピックでの金メダル候補のうちの一人だ。


ヤコブ・シューベルト / photo by Shuhei Kaneko野口啓代

野口啓代はデビューより数々の輝かしい戦績を残しており、現在でも日本クライミング界の女王に君臨している。今年で30歳を迎える彼女は東京オリンピックでの現役引退を表明している。「IFSCクライミング世界選手権2019」では惜しくもコンバインド2位。東京オリンピックでの金メダルに期待がかかる。


野口啓代 / photo by KAZUKI TAKANO野中生萌

野中生萌は22歳、日本のクライマー。「IFSCクライミング世界選手権2019」では5位。「スピード」においては日本記録8.404秒(2019年12月8日現在)の保持者でもある。クライミングコンペ「Red Bull ASURA」を考案するなど多岐にわたり活動している。


野中生萌 / photo by KAZUKI TAKANO楢崎智亜

楢崎智亜は日本のクライマー。23歳という若さで「IFSCクライミング世界選手権2019」では並み居る世界の強豪を破りコンバインド優勝。「スピード」日本記録6.159の保持者でもあり、東京オリンピックにおける金メダル候補。


楢崎智亜 / photo by HAMASHOW藤井快

藤井快は27歳の日本のクライマー。「IFSCクライミング世界選手権2019」ではコンバインド6位。3種目バランス良くこなすオールラウンダーであり、今後の活躍が期待されている。


藤井快 photo by KAZUKI TAKANO原田海

原田海は21歳のクライマー。「IFSCクライミング世界選手権2019」ではコンバインド4位の成績を残している。2020年2月に行われた「スポーツクライミング第 15 回ボルダリングジャパンカップ」においても優勝を果たし、現在最もノリに乗っているクライマーだ。


原田海 / photo by HAMASHOW

FINEPLAY’s PHOTO SELECT


楢崎智亜 / photo by HAMASHOW
野中生萌 / photo by KAZUKI TAKANO
井上祐二 / photo by HAMASHOW
野中生萌 / photo by tabasa
伊藤ふたば / photo by HAMASHOW
写真左から藤井快、原田海 / photo by masahiro mizuguchi
野口啓代 / photo by HAMASHOW
土肥圭太 / photo by HAMASHOW
清水裕登 / photo by tabasa

知れば知るほど面白い、「スポーツクライミング」の世界。興味のある方は、ぜひ一度、大会へ足へ運んだり、ライブ中継を見てみてはいかがだろうか。

文・金子修平