写真:松平健太(T.T彩たま)/撮影:保田敬介過去には北京五輪金メダリストの馬琳(マリン・中国)を下すなど世界で活躍し、最高世界ランク9位を記録した松平健太は、ここ数年思ったような結果を残せず、勝ちに飢えた状態が続いていた。ただ、Tリーグセ…

写真:松平健太(T.T彩たま)/撮影:保田敬介

過去には北京五輪金メダリストの馬琳(マリン・中国)を下すなど世界で活躍し、最高世界ランク9位を記録した松平健太は、ここ数年思ったような結果を残せず、勝ちに飢えた状態が続いていた。

ただ、Tリーグセカンドシーズンから移籍したT.T彩たまでは、シングルス16試合、ダブルス8試合に出場し、中心選手として堂々たる戦いぶりを見せた。

また、シーズン途中に国際大会からの引退を表明すると、プロデュースした卓球レッスン場兼卓球バーをオープンし、YouTuberデビュー、現役選手ながらレッスンも開始と次々と新たな取り組みを発表している。

今回は“卓球界の貴公子”こと松平を直撃し、昨シーズンについて話を伺った。

不調にあえいだシーズン序盤




写真:松平健太(T.T彩たま)/撮影:保田敬介

セカンドシーズン開幕前のインタビューでは「どんなに内容が悪くてもいいからまず“勝ち”」と勝利への執念を見せていたが、開幕当初はなかなか復調のきっかけを掴めずにいた。

8月末に開幕を控え、7月に出場した全日本実業団卓球選手権では、渡辺裕介(協和キリン)、鹿屋良平(リコー)に敗れた。渡辺戦に至っては3ゲームで計15点しか奪えない完敗だった。

結局、Tリーグの開幕戦のオーダー用紙に松平の名は書かれることはなかった。T.T彩たま坂本竜介監督は「7月時点で開幕戦出すから準備してと言っていて、健太も練習に気持ちを入れて取り組んでいた。でも全日本実業団でぼっこぼこに負けてやばいなと。結局、開幕戦に健太を出すのは無理と判断した」と当時の松平を振り返る。

復調のきっかけは“かつての相棒”丹羽孝希戦

続く開幕2戦目でT.T彩たまデビューを果たすも、青森山田高後輩の町飛鳥にゲームカウント1-3で苦杯を喫した。「開幕前から全然調子が上がらず、2戦目も内容的にダメでした」と苦虫を噛み潰したような顔で開幕当初を回想する。




写真:松平健太(T.T彩たま)/撮影:ラリーズ編集部

ただ4戦目から復調の兆しが見え始めた。相手は青森山田高の後輩で世界卓球ダブルス銅メダルを獲得した際の相棒でもある、木下マイスター東京の丹羽孝希だ。

やり慣れた丹羽との試合、松平はらしさ溢れるプレーを見せる。1ゲーム目、ラリー中にしゃがみ込みながらフォアで柔らかいタッチのシュートドライブを放てば、3ゲーム目にはラリーの途中に1回転して返球するなど、松平にしかできないプレーを連発した。結果、ゲームカウント1-2と追い込まれた場面から戦術を見事に転換し、ゲームカウント3-2の12-10と大激戦を制した。

松平が何より欲しかった“勝ちの味”だった。

自信に溢れた本来の姿に

「健太の復活がキーポイント」とシーズン前語っていた坂本監督の思惑通り、松平の活躍とともにチームも9月には首位に立った。

復調について坂本監督は「お前は強いってずっと言い続けて練習から見直して、とにかくポジティブにさせてあげる。試合中もお前は振れば入るからとにかく振り切れしか言わなかった」とメンタル面の変革が功を奏したと語る。




写真:坂本監督のアドバイスに耳を傾ける松平健太/撮影:ラリーズ編集部

松平も中陣からのバックハンドドライブやキレ味鋭いカウンターなど持ち味を発揮し、会場のファンを沸かせるプレーが増えた。「すごく気持ちよくプレーできる」と語る彩たまファンの“爆援(ばくえん)”を受け、徐々に本来の卓球を取り戻し、信頼を勝ち取っていった。




写真:松平健太(T.T彩たま)/提供:©T.LEAGUE

迎えたシーズン最終戦、勝てばファイナル出場決定という大一番の琉球戦でもオーダーに松平は名を連ねた。そこには開幕戦を外された気弱な松平の面影はなかった。

2番シングルスで勝利し、最後のビクトリーマッチ(VM)にも起用された。勝てばファイナル進出、負ければ3位でシーズン終了とチームの命運を託されたのだ。VMでは惜しくも敗れたが、試合後「人生の中で一番悔しい思いをしている」と涙した松平の姿を責める者は誰一人としていなかった。

“飢える貴公子”松平健太の来シーズンは




写真:松平健太(T.T彩たま)/撮影:保田敬介

クールでシャイな男の涙に驚いたファンも少なくなかったが、昨シーズン松平は他にも数々の話題でファンを驚かせてきた。

2019年途中、国際大会からの引退を表明した。「全然成績出せなかったので、自分の中ではドイツオープンが終わったら国際大会から引退しようと決めていた。ドイツオープンは久しぶりに決勝トーナメントも行けたので悔いはないです」と本人は清々しい表情を見せる。

さらに「試合勘はどうなるかわからないですけど、国内だけに絞れるので目的が明確で、練習量やトレーニングする時間も増えて追い込める時間ができる」と前向きだ。

それに伴い「時間あるんで有効活用しよう」と自身のプロデュースした卓球レッスン場兼卓球バーをオープン、YouTuberデビュー、現役選手ながら卓球レッスン開催と立て続けに新たな取り組みを発表した。

「一気に色んなことやりすぎましたけど、元々やってみたかったので(笑)。ありがたいことにレッスンもリピートもしてもらっていて、感触は良い感じです」と手応えを感じているようだ。




写真:松平健太(T.T彩たま)/撮影:保田敬介

「来シーズン出る大会はもちろん優勝を目指します。あとYouTubeは登録者3万人くらいいきたいですし、お店も潤って欲しいです」。

取材後には女子アナの玉木碧さんとの結婚も発表し、卓球界を賑わせた松平の来シーズンにも注目だ。

取材・文:山下大志(ラリーズ編集部)