町から人が減り、いつもは渋滞のフリーウェイもクルマが流れるように走っている。多くの人がオフィスに行かず、自宅からリモー…
町から人が減り、いつもは渋滞のフリーウェイもクルマが流れるように走っている。多くの人がオフィスに行かず、自宅からリモート勤務をしているからだ。

2014年からNBAコミッショナーを務めるアダム・シルバー
屋内モールは全面閉鎖で、テイクアウト営業だけ許されているレストランも閑散としている。入場者数に制限がかかったスーパーの前だけは長蛇の列。その列も、そして会計レジの列も、6フィート(183cm)の『ソーシャルディスタンス』を守るために、人と人の間は広く空けているため、長い列はさらに長くなっている。
これはすべて、ロサンゼルスの日常となった光景だ。同じような外出制限令を出している州は、すでに全米で20州以上にのぼり、CNNによるとアメリカ全人口の半分以上が影響を受けているという。
NBA選手たちも例外ではない。
家に閉じ込められた選手たちは、ヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス)がギターを弾き、ラッセル・ウェストブルック(ヒューストン・ロケッツ)は息子を背中に乗せて腕立て伏せ。レブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)は家族でカードゲームをしながら、インスタライブを初体験。そして、多くの選手はビデオゲームに没頭しているようだ。
本来なら、プレーオフに向けてコート上で熱い戦いを見せている時期だが、それだけ、世界は変わってしまった。
NBAの世界が一変したのは、アメリカ時間3月10日夜。
インフルエンザの症状が出ていたルディ・ゴベア(ユタ・ジャズ)が検査の結果、新型コロナウイルス陽性反応と判明し、その日のうちにシーズン中断が発表になった。それまでは無観客試合でシーズン継続を考えていたNBAだったが、選手のなかに感染者が出たとあっては、中断以外の選択肢はなかった。
その後、濃厚接触者として検査を受けた選手や関係者の中から、ドノバン・ミッチェル(ジャズ)、クリスチャン・ウッド(デトロイト・ピストンズ)、ケビン・デュラント(ブルックリン・ネッツ)、マーカス・スマート(ボストン・セルティックス)など、判明しただけで合計10選手、加えてチーム関係者(選手かスタッフかは未発表)2チーム計4人に陽性反応が確認されている。
その大半は無症状あるいは軽い症状と推測されるものの、それでも、選手の間で感染が広がっていた衝撃は大きかった。健康で元気な選手は症状が軽くても、周囲にいる家族に感染する危険性もある。
NBAがシーズンを中断すると、ほかのリーグや団体も次々と試合を中止。3月のアメリカスポーツ界の風物詩であるNCAAトーナメントも中止。メジャーリーグのスプリングトレーニングも中止。プロ、アマチュアを問わず、スポーツイベントは次々と中止されていった。
現在、スポーツ専門局は昔の試合映像などの再放送や、Eスポーツによる試合、スポーツドキュメンタリーなどで、苦労して番組枠を埋めている状況だ。
シーズンを中断した直後は、NBAは各選手がチームの専用施設で個人練習やトレーニングをすることを許可していたが、それも約1週間後に禁止。3月20日からはチームの練習施設も全面閉鎖されている。選手たちはチーム施設以外の外部施設(スポーツジム、大学施設など)でのトレーニングも禁止されており、基本的には自宅でできることに限定されている状態だ。
チームに申告したうえで本拠地の町を離れることは許可されているが、北米の外に出ることは禁止。八村塁(ワシントン・ウィザーズ)も渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)も、日本に一時帰国することはできないでいる。
シーズン中に突然、いつものトレーニングができなくなった選手たちの戸惑いは大きい。それでも、今は身の回りの家族の健康や、社会全体の新型コロナウイルス感染防止を最優先しようというのが、リーグの姿勢だ。
そこで気になるのが、シーズンの再開があるのか。あるとして、いつ頃になるのか、ということだ。
中断になった時点で、各チームはレギュラーシーズン全82試合中63〜67試合を終えていた。リーグ全体で考えると、2460試合のうち約2割の518試合が残っていることになる。
さらに、通常ならプレーオフが60〜105試合。これがすべて中止となった場合のリーグの損失は10億ドル(約1095億円)を超えるとの試算が、いくつかの媒体や専門家から出されている。
損失を最小限に抑えたいリーグとしては、現在は何らかの形でシーズンを再開する方法を模索している。ESPNが伝えたところによると、リーグから各チームに対して「プレーオフが開催できそうな会場の8月までの空き状況を調べるように」という通達が渡っているという。NBAファイナルが8月に無観客で行なわれるという、少し前までは考えられなかったようなシナリオも現実味を帯びてきた。
東京オリンピックが延期となったことで、オリンピックとのスケジュール重複はなくなったが、それでも、もしNBAファイナルが8月に行なわれるようになれば、NBAドラフトも遅れ、フリーエージェント期間、サマーリーグなどにも影響が出てくる。
また、2020−21シーズンをクリスマス頃に始める、という案も浮上。こうなると、プレーオフのフォーマットや来シーズンのスケジュールなど、いろいろと柔軟な対応を取る必要が出てくる。いっそのこと、この機会に新しいやり方を試してみようと、コミッショナーのアダム・シルバーは各方面からの新企画の提案を受けつけているという。
ダラス・マーベリックスのオーナー、マーク・キューバンは3月24日に地元テレビ局の取材に答え、5月半ばのシーズン再開を願っているとコメントした。キューバンによると、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)など専門家と話したうえでの推測だという。「自分でも楽観的に考えた日程だ」とも認めての発言だが、社会におけるスポーツの重要性を痛感しているだけに、少しでも早くNBAシーズンを再開したいと語る。
「スポーツは大きな役割を担っている。人々は、何か応援するものがほしい。何か力を合わせられるものがほしい。楽しめるものがほしい。マブズ、そしてNBAが5月に試合を始めることができ、それがテレビで中継されたら、それこそ、今の私たちに必要なものだと思う」とキューバンは熱く語る。
シルバー・コミッショナーも、スポーツが社会に与える影響の大きさについてはキューバンと同意見だ。人々が困難に直面している今だからこそ、何らかの形で早く、スポーツを楽しめるような状況にしたいと語る。
「人々が家にとどまらなくてはいけない時だからこそ、気晴らしが必要だ。楽しめることが必要だ」
シルバーは一案として手始めに、無観客で、ウイルス感染検査で陰性とわかっている選手を集めてのチャリティのエキシビションゲームを行なうことをあげている。中断期間中にそういった試合を行なうことで、無観客のプレーオフ試合に向けての実験にもなると考えているのかもしれない。
どちらにしても、まだ今の時点では、シーズン再開時期も、方法も、先行きがまったく見えない状態であることに変わりはない。
それでもNBAは、リーグとしてこの危機を乗り越えるだけでなく、リーグを応援し、スポーツを楽しみ、試合を見ることで、毎日の活力を得ている人たちがどうやってこの困難から立ち直ることができるのかを考え、次の一手を模索している。