【連載】『令和元年度卒業記念特集』第５６回　竹野翠／女子ラクロス

「アツくなれる場所」

　『アツくなれる場所』。早大女子ラクロス部をそう表現するのは、昨年主将を務めた竹野翠（政経＝東京・西）だ。カレッジスポーツの代表格として挙げられるラクロス。全員が同じスタートラインで始めるこの競技で、プレーヤーとして、主将として、チームを支えてきた竹野の４年間の軌跡を追う。

　「やるからにはとことんやりたい。」自分の性格をこう表現する竹野は、小学４年生から高校３年生までバスケットボール一筋の競技人生を送ってきた。中学時代は、通っていた中学にバスケ部がないと分かると転校したほど。それほどまで熱中していたバスケを大学では続けなかった。「衰えた技術を戻すより、今までできなかったことができるようになった方が楽しいんじゃないかなと。」浪人で一度離れていたバスケに戻るよりも、新しく競技を始めよう。未だ日本一を達成しておらず、来年こそはと野心を燃やす女子ラクロス部は、竹野の性格にもピッタリだった。そうして入部した女子ラクロス部で、高身長と高い身体能力をあわせ持つ竹野は、早速その実力を買われ、１年生の夏の新人戦を終えた頃からAチームに合流。技術面で１番苦労したというこの時期に地力を磨いた。２年生の関東学生リーグ戦（リーグ戦）で初出場を果たすと、その後も出場機会を増やしていった。だが、個々の技術が高く、決勝トーナメントである関東ファイナル４への出場が有力視されていた当時の４年生が、まさかのブロック敗退。「ファイナル４の厳しさを知った」と振り返る竹野は、思わぬ早さで代替わりを迎えた。

　３年生になると、竹野にとっても、女子ラクロス部にとっても、一つの転機が訪れる。日本女子ラクロス界のトッププレーヤーである山田幸代をアシスタントコーチに招聘（しょうへい）したのだ。プロ選手の戦術を間近で見ることで、ラクロスに対するプレーの幅は広がっていった。だが、それでもファイナル４に出場することは叶わなかった。「（山田コーチから）色々なことを教わったけど、それを十分に吸収して生かせなかった」と竹野。３年生の夏で前代が引退すると、いよいよ竹野たちの代が巡ってきた。

　最後の大会であるリーグ戦まではまだ１年と、時間は多く残されていた。同期の推薦で主将に就任した竹野は、同期とのお互いの思いや目標の共有や、その後の１年間の軸とするプレースローガンの作成などにとことん時間を使った。もともと同期同士の仲が良く、お互いで盛り上げていけるメンバー。「同期が本気で日本一を取りたいと思っているのが分かった。」メンバー同士の結束をさらに固いものにした竹野は、練習面でも精を出した。前年の反省を生かし、技術力や基礎力を上げるトレーニングに注力。チームで決めたプレースローガン『ランアンドガン』を実行すべく、走力強化にも着手した。こうした地道なトレーニングの成果は、実践の場で表れ始める。春先に行われる東京六大学リーグで、スピード感や得点力に手応えをつかむと、５月の早慶定期戦では慶大から３年ぶりの勝利を収めた。４年間で１番心に残っている試合だったと振り返るほどその喜びは大きく、また自分たちのラクロスは間違っていなかったと自信にもなった。

早慶定期戦で主将としてチームをけん引する竹野

　一方で、竹野自身にも主将に就いて変化があった。「主将になるまでは、とにかく点を取りたい、試合に出たいだけ考えていました。」自身の成長を主として考えておけばよかった３年生までは、試合で存在感のある人になりたい、その一心でラクロスをしていたという。だが、「主将になってからは、どうやったら勝てるのか、四六時中考えていました」と竹野。チームの向上と自分の向上が、どちらかだけに偏りが出ないようにバランスをとることを意識していたと振り返る。また、選手としてのあり方にも信念を持った。それが、『悪い見本にならない』だ。「主将があれくらいなら私もこれくらいでいいかなと思われないようにしました。」主将になり、自分自身の向上の時間がより貴重になったことも相まって、練習ひとつひとつに気持ちの抜けがないように自分を律した。こうして竹野自らが規範になることで、チームの雰囲気を引き締めた。

　こうして、主将として、チームととことん向き合った竹野。リーグ戦はブロック３位と、惜しくもファイナル４への進出を逃したが、「アツくなれる場所があったのは大きな財産です」と胸を張った。社会人ではラクロスを続けないという竹野。だが、今後について「新しいフィールドでアツくなれるような目標を見つけて頑張りたい」と笑顔で話してくれた。次なるステージではどんな目標を掲げるのか。だが見つけた目標に対して竹野は、やるからにはとことんやるはずだ。

（記事　中島和哉、写真　石井尚紀氏）