2020年シーズン開幕で見つけた今季要注目のJリーガー(6)本田風智(サガン鳥栖/MF) 2月22日、等々力陸上競技場。J1リーグ開幕戦の川崎フロンターレ戦で、サガン鳥栖のMF本田風智(ふうち)は、”プロデビュー”を飾っている。先発出場し、…

2020年シーズン開幕で見つけた
今季要注目のJリーガー(6)
本田風智(サガン鳥栖/MF)

 2月22日、等々力陸上競技場。J1リーグ開幕戦の川崎フロンターレ戦で、サガン鳥栖のMF本田風智(ふうち)は、”プロデビュー”を飾っている。先発出場し、後半35分までプレーした。

 昨シーズン、2種登録(18歳以下)でルヴァンカップに出場し、今シーズンも、すでにルヴァンカップでは北海道コンサドーレ札幌戦で先発を勝ち取っていたが、リーグ戦は初出場だった。

 試合結果はスコアレスドローに終わったが、18歳にして先発した点は、特筆に値するだろう。



今季J1開幕戦で才能の片鱗を見せた本田風智

 では、ルーキーMFの真価とは--。豊田陽平はこう語る。

「(本田)風智は、ユースの時から(金)明輝監督のもとでやってきたので、今のシステムでは、かなりやりやすそうにプレーしていますね。若いし、うまいし、動ける感じで」

 今シーズン、金監督は攻撃色の強い4-3-3のシステムを採用している。その中盤で、本田を抜擢。川崎戦では、前半15分までは右のインサイドハーフ、30分まで左、45分まで右、後半も右、左で使っていた。

 率直に言って、本田はその初舞台で目立ったプレーは見せていない。同じインサイドハーフの大島僚太と対峙すると、力量の差は歴然。後ろからボールを追いかける時間が多く、ボールを握ってチームをけん引し、プレーの渦を作り出す仕事はできなかった。

 ただ、才気の片鱗は見えた。

 後半28分、本田は川崎のセンターバックに対し、味方FWを追い越しながら、鋭い出足でプレスをかけている。これで、相手のパスがずれる。抜け目なくパスカットに成功すると、素早く左サイドを走る選手にボールを流す。これは相手に止められるが、こぼれ球を再び拾って、すかさずエリア内で裏を取っていた味方FWへ、浮き球を使ってパスを通した。

 最後は、FWのコントロールがうまくいかず、決定機には至らなかったが、本田の守備から攻撃の切り替えの鋭さは、出色だった。

 一連のプレーは、判断が迅速かつ、連続性があり、途切れていない。攻守両面で集中力を失わず、頭の回転が速く、アイデアにあふれ、何より、敵ゴールに向かって行動できていた。どれも、インサイドハーフに必要な資質だ。

「(本田は)ユースで、トップの練習に参加しているときから、印象に残る選手でしたね。インサイドハーフとして、適性のある選手だと思いますよ。(鳥栖ユースから4-3-3で)ずっとやってきて、経験値もあるので。このシステムの体現者だと思います」(鳥栖・小林祐三)

 インサイドハーフというポジションで成功を収めた日本人選手は、過去に皆無に近い。極めて高度な技術と戦術を必要とするからだろう。トップ下のひらめきと得点力、プレーメーカーのビジョンと正確性、ボランチの守備力や、味方を補完するポジションセンスが同時に求められる。

 そもそも、4-3-3が難易度の高いシステムで、バルセロナ、マンチェスター・シティ、リバプールなど相当能力の高い選手をそろえたチームでなければ成り立たない。

 世界的インサイドハーフと言えば、ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタがその筆頭だろうか。それに、オランダ代表のフレンキー・デ・ヨング(バルセロナ)、ベルギー代表のケビン・デ・ブライネ(マンチェスター・シティ)、元スペイン代表のダビド・シルバ(マンチェスター・シティ)が続く。

 自ら複数の敵を引き寄せ、周りを十全に生かす。自らがボールを失うのはもってのほかで、90分を通じ、抜きん出た技術が必要になる。

 現時点で、本田は未知数と言える。明らかなのは、基本技術の高さか。動きが機敏で、攻守の切り替えを間断なく行ない、スモールスペースでプレーを作れて、ボールを前に運ぶ推進力にも優れる。

 それらの点は、ルヴァンカップの札幌戦でも証明している。左インサイドハーフとしてボールを引き出し、運び、相手の出所を潰し、ポジション的優位を保ち、チームを稼働させていた。

 DFとMFの間へ鋭く入る動きは電流のようで、いくつもチャンスを作った。左サイドの選手だけでなく、周りの選手とのコンビネーションも巧みで、プレーを活性化させていた。0-3と敗れた試合だったが、最大の殊勲者だった。

「(札幌戦は)コンビネーションを使って、周りを輝かせることができていた。キャンプで成長を示してきたので、これからも見守っていきたい」(鳥栖・金監督)

 本田は、成長の途上にあるのだろう。開幕先発は手にしたが、プロの世界は容赦がない。今後も、一試合、一試合が試練となるはずだ。