2月に開催された世界的スポーツアワード「ローレウス・ワールド・スポーツ・アワード2020」。その会場に各スポーツ界のレジェンドたちが集まった。そのなかの一人で、同アワードのアカデミーメンバーである、プジョル氏に話を聞いた。イニエスタ、…

 2月に開催された世界的スポーツアワード「ローレウス・ワールド・スポーツ・アワード2020」。その会場に各スポーツ界のレジェンドたちが集まった。そのなかの一人で、同アワードのアカデミーメンバーである、プジョル氏に話を聞いた。



イニエスタ、ビジャから日本の情報を伝え聞くプジョル

 2014年に現役を退くまで、バルセロナ一筋を貫いたカルレス・プジョル。フットボールはエンターテインメントであると同時にビジネスであり、誰かが移籍すれば金銭が発生する以上、一度も他クラブを経験しないのはとても難しいことだ。プジョルの場合は95年に下部組織に加入して以降、バルサCからトップまでバルセロナの一員であり続けた。

 現役時代、プジョルとともに戦ったアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)やダビド・ビジャ、ライバルであり代表のチームメートだったフェルナンド・トーレスは日本に渡ってプレーした。プジョルは彼らから日本での近況について報告を受けているそうだ。

「アンドレスとは友人だ。彼は日本でのプレーを楽しんでいるよ」

 イニエスタ本人が神戸での生活を楽しんでいることをメディアでの発言で知ることはあるが、こうやってプジョルの口から聞くというのは喜ばしい限りだ。

「ビジャは最近引退(※)したけど、日本に行ったことはとてもいい経験だったと言っていた。2人とも、日本が楽しいみたいだった」
※今年元日の天皇杯決勝を最後に現役引退

 キャリア終盤、少し余裕をもった年代に入った頃に欧州とはまったく違う文化の国でプレーするのはきっと新鮮なことだろう。

 バルセロナの名選手が日本にやってくるのはここ数年のことで、これまでにはなかったことだ。一方で、スペインリーグは今でも日本人選手にとっては挑戦の舞台だ。今季も1部で2人(乾貴士/エイバル、久保建英/マジョルカ)、2部で4人(柴崎岳/デポルティーボ・ラ・コルーニャ、香川真司/サラゴサ、岡崎慎司/ウエスカ、山口瑠伊/エクストレマドゥーラ)の日本人選手がプレーしている。プジョルの目に留まる選手はいるのだろうか。

「香川真司はいい選手だね」

 名前を出したのは香川だった。

「長い間ドイツで活躍していたけど、今季スペインに来た。彼のプレーを見られるのはうれしいことだ。優秀な選手だし、これからじゃないかな」

 久保についても聞いてみた。

「クボ?タケのこと?」

 知らないわけがないじゃないか、といった口調で話し出した。ちなみにスペインでは久保は「タケ」で通っている。マジョルカで、ユニホームに記載されている名前もタケだ。スペイン語の中継などを聞いていても「タケ」と呼ばれている。



久保の成長に期待を寄せるプジョル

「もちろんよく知っている。バルセロナのカンテラで育った選手なんだから。バルサがFIFAの処分を受けて日本に帰国せざるをえなくなったんだよね」

 原則禁止されている18歳未満の外国籍選手獲得。久保の契約が登録違反であるとバルセロナがFIFAから処分を下され、15年3月に久保は日本に帰国しFC東京U-15に所属した。その後、横浜F・マリノス、FC東京のトップチームで活躍。本人が海外でプレーすることを熱望していたため、18歳となった2019年6月、バルセロナではなく、最大のライバルチームであるレアル・マドリードと契約した。

「日本から戻ってきて、まずはレアル・マドリードに行き、今はマジョルカで活躍しているのは知っている。スペインでも注目選手の1人だ。このまま成長を続ければ、重要な選手となるだろう」

 あくまでバルセロナの後輩の1人、仲間としてタケに期待している様子だった。

 プジョルは、クラブだけでなく代表でも一時代を築いた選手だ。2000年シドニー五輪で準優勝を果たし、08年は欧州選手権(ユーロ)優勝、10年南アフリカW杯優勝の中心選手として活躍している。なかでもW杯優勝は強く印象に残っているようだ。

「初戦で負けてしまってたくさん批判も浴びたし、チームのあり方に疑問もあったんだ。でも大会中に進むべき道を見い出して、それをみんなで信じて、最後はそれが実った」

 W杯予選を10戦全勝という形で本大会に臨んだが、初戦でスイスに敗れた。だが、これで目が覚めたのかもしれない。準決勝ドイツ戦はプジョルが決勝点を挙げて1−0で勝利し、決勝へと駒を進めた。

「自分が得点しただけでなくて、ドイツ相手に無失点だったのがよかった」

 この大会での思い出は尽きない。

「ポルトガル戦はイケル(・カシージャス)のセーブやビジャの得点もあった。スペインの人たちが思い出すのは準決勝の得点か、決勝のアンドレスの得点だと思う。でもビジャは5点も挙げたんだ。僕たちは最高のチームでファミリーだった。そうでないと優勝なんてできないんだ」

 今年、ヨーロッパの人たちにとって大きなイベントは欧州選手権だ。

「今のA代表はベテランと若手のバランスがいいチームだと思う。ルイス(・エンリケ監督)の健闘を祈っている。彼は実力十分だ。1次リーグで戦うドイツも強敵でいい選手がそろっているし、フランスは若く一体感がある」

 そして、スペイン代表は東京五輪の出場権も獲得している。

「もちろん優勝してほしいけど、代表のメンバーも対戦相手もわからないからなんとも言えないね。オーバーエイジ枠を使うかはまだわからないけど、優秀な選手がそろっている。まだ(オーバーエイジを含めた)五輪代表としては1回も試合をしていないが、たとえ初めて結成したチームでも、スペイン代表は強いと思うよ」

 スペイン代表の躍進を信じて疑わない様子だった。

 現役時代のプジョルといえば、熱く戦う闘将といったイメージだったが、話す様子は穏やかでスマートそのもの。今後どのような形でバルセロナやスペインサッカー界に戻ってくるのか、楽しみだ。