「五輪でプレーする時に一番大事なのは、心」と語る石川「本当に長くて苦しい、今まで一番厳しくつらいレースだった。頑張りたいのに結果が出ない苦しい時期が続いたので、本当に精神的にキツかった」 昨年12月、ITTFワールドツアーグランドファイ…



「五輪でプレーする時に一番大事なのは、心」と語る石川

「本当に長くて苦しい、今まで一番厳しくつらいレースだった。頑張りたいのに結果が出ない苦しい時期が続いたので、本当に精神的にキツかった」

 昨年12月、ITTFワールドツアーグランドファイナルの試合を終え、女子シングルスの東京五輪代表権を勝ち取った石川佳純は、2019年の戦いについてこう振り返った。その言葉からは、いかに五輪代表を巡る選考レースが過酷なものだったかを切実に物語っていた。

 この1年間、彼女たちはどれほどの重圧を抱えながら過ごしてきたのだろう。

 振り返れば、昨年1月時点の世界ランキングでは、石川が3位、伊藤美誠が7位、平野美宇が9位。石川は “みうみま”を上回り、五輪候補一番手でスタートを切っていた。

 しかし、3月のLIONカップ 第23回ジャパントップ12卓球大会といった世界ランクのポイント対象ではない大会では優勝していたものの、その後のワールドツアーでの栄冠は掴めず。6月のITTFワールドツアー・香港オープンの2回戦で、当時世界ランキング46位の王芸迪(ワン・イーディ/中国)に敗れた際には、「こういう若手の選手に負けていたら五輪は出られない」とベンチで涙を流した。

 7月には、水谷隼のプライベートコーチとして2016年リオ五輪で2つのメダル獲得に大きく貢献するなど、数多くの実績を残してきた邱建新(チウ・ジェンシン/木下グループ総監督)を新コーチに。加えて妹・梨良(木下アビエル神奈川)が姉のサポート役として国際大会に帯同するなど、悪い流れを断ち切るべく、家族・スタッフ一丸となって試行錯誤を繰り返した。

 それでも成績は振るわず、世界ランキングは4月に6位、9月には8位とじりじりと降下。12月にはとうとう10位と2桁台にまで落ちてしまう。豊富な経験による強靭なメンタルを持つ石川でさえも、「20年の卓球人生で、ここまで体力的にも精神的にも厳しく感じたことはなかった」と話すほど、自国開催の五輪代表枠争いは考えられないほどのプレッシャーだったのだ。

 その中で、復調を実感したのは、11月に東京五輪と同じ会場である東京体育館で開催されたJA全農 ITTF 卓球ワールドカップ団体戦だった。日本は決勝で卓球王国・中国に0-3で敗れ銀メダルに終わるも、キャプテンとしてチームを牽引した石川は「内容的には自信がついたし、まだまだ伸び代はある」と手応えを得た。

 さらに続けて、「五輪でプレーする時に一番大事なのは”心”。(五輪では)今大会以上の重圧がかかってくるし、周りからは絶対に勝つことを求められる。それに耐えられる準備をして、最強のプレーができるようにしっかり鍛えたい」と本戦出場に向けて頼もしい言葉を残していた。

 そして、世界ランクのポイントで平野を65点差で追い、臨んだ12月のITTFチャレンジプラス・ノースアメリカンオープン。この大会は通常のワールドツアーよりランクの低い「チャレンジ」という枠組みのため、獲得ポイントが少なく、当初は出場を想定していなかったという。それほど代表選考レースは混戦を極めていたのだ。

 すでに伊藤が11月にシングルス代表入りを確実としていたため、残る枠はたったの1つ。この権利を争う石川と平野の両者が、奇しくも決勝の舞台で顔を合わせた。試合は石川がゲームカウント4-2で平野を下して優勝。これにより石川が135ポイント差をつけて平野を逆転した。そのまま選考レース最後の大会である「ワールドツアーグランドファイナル」に臨み、両者ともに初戦敗退となったため、ポイントを上回っていた石川がシングルスの代表切符最後の1枚を手に入れた。

 平野とのデッドヒートの末、3度目の五輪出場を確実とした石川は「もう、日本の選手同士で戦わなくて済む」と涙ながらに本音を吐露。続けて「美宇ちゃんもずっと苦しいレースをしてきた」と共に戦ったライバルの健闘を称えつつ、「(シングルスで)出られなかった人の分も頑張らないといけない」と責任を感じながら、東京五輪での活躍を誓っていた。

 その後、平野は日本代表3枠目に選出され、団体戦での出場が決定。昨年の後半から石川と平野は東京五輪を見据えてダブルスを組んでおり、2月に開催されたITTFワールドツアー・ハンガリーオープンでは、ペア結成以来初となるワールドツアー優勝を達成。”かすみう”ペアは、すでに抜群の相性を誇っている。

 この1年間、ともに涙を流し、苦しさやつらさを分かち合ってきた2人のコンビならば、本戦でもきっと大きな力を発揮できると、心の底から願いたい。

 なお、団体戦では2大会連続でメダルを獲得している石川だが、シングルスでは大きな”忘れ物”がある。19歳で初出場したロンドン五輪では、日本女子過去最高のベスト4に入った。だが、さらなる高みを目指して臨んだリオ五輪では、右足がけいれんするアクシデントもあり、初戦敗退を喫した。

「五輪での悔しさは、五輪でしか返せない。シングルスに出場してリベンジしたい」

 団体戦では3大会連続でのメダル、そしてシングルスでは日本女子初のメダル獲得へ。日本卓球史上最も過酷で、厳しい五輪代表選考レースを乗り越えた彼女なら、キャプテンとして日本を表彰台に導いてくれるだろう。