3月3日に行なわれたチェルシーとのFAカップ5回戦で、南野拓実は約1カ月ぶりに先発出場を果たした。



久々にスタメンとしてピッチに立った南野拓実

 この1カ月間、南野はベンチ暮らしを強いられてきた。

 最後の先発は、1月26日に行なわれたFAカップ4回戦のシュルーズベリー・タウン戦。その後の6試合のうち、途中交代での出場は2月1日のサウサンプトン戦(後半36分から出場)と2月29日のワトフォード戦(後半34分から出場)の2試合で、残りの4試合で出場機会がなかった。

 ちょうどこの時期は、リバプールで続出していた故障者が順次復帰してきたタイミングでもあった。ベンチにも優れた選手が揃うリバプールのなかで、南野は18人の登録選手に入るか入れないかの微妙な立場に置かれるようになった。世界王者の壁に直面していると、そう言っても差し支えないだろう。

 その代わり、チームの優先順位が落ちるFAカップで、日本代表アタッカーは移籍後の3回戦から先発起用されてきた。若手を入れた1.5軍編成ながら、今回の5回戦チェルシー戦でも4−3−3のCFとして先発した。

 立ち上がりから、南野は精力的に動いた。CFといっても、その仕事は多岐にわたる。

 頻繁に中盤まで降下してパスを受け、前線からプレスをかけて、DFラインの背後に抜け出してラストパスを引き出すなど、積極的に走り回った。その動きは、トップ下のようでもあった。

 開始すぐの2分には、南野が相手DFにプレスをかけてパスをブロックし、サディオ・マネのチャンスにつなげた。素早い動きから、マネへのスルーパスで好機を演出したシーンもあった。

 最大のチャンスは20分の場面。クロスボールのこぼれ球に反応し、左足を振り抜こうとしたところで、背後から詰めてきた相手にボールを奪われた。

 試合序盤から強く感じたのは、南野がリバプールのプレースタイルにフィットしてきたことである。

 プレミアリーグで首位を独走するリバプールは、とにかくプレースピードが異様なほど速い。その速さは「パススピード」「選手個々の判断」「カウンタースピード」とさまざまだが、加入直後の南野はこの速さへの適応に苦しんでいるようだった。

 だが、加入から2カ月が経過した今、リバプールの呼吸とリズムに合ってきた。

 試合後は南野も「スムーズに身体が動いてきている」と、自身がチームのスタイルに適応し始めていると語った。ただ、対戦相手のチェルシーが攻撃のために前へ出てきたことで、自分の周囲に十分なスペースがあったことも大きかったと話した。

「(記者:フィットしてきた?)相手によると思います。僕のポジションって、やっぱり相手が引いてきたときは難しい。ボールを受けてからの時間もないし。今日みたいに相手も(前に出てきて)サッカーをしてくる試合展開だと、わりとスペースもあって、僕のポジションも生きてくる。だから、今日みたいな試合のときにしっかり結果を残して、アピールすべきだったと思う。

 もちろん、フィットしてきているところはある。チームのサッカーを理解してきて、スムーズに身体が動いてきている部分は、この2カ月でよくなっていると思います。でも、だからこそ、こういう試合で結果を残していければいいかなと。結果を残せなかったことが自分の課題ですね」

 試合は、リバプールが0−2で敗れた。南野は前半こそ周囲との連係プレーから好機に絡み、「チームメイトとの相互理解もかなり進んでいる。相手MFとDFのライン間を動き回るプレーはコンスタントに危険だった」(地元紙リバプール・エコー)と高い評価を得た。だが、後半に入ると「周囲の停滞に引っ張られ、存在感が希薄になった」(同紙)。

 そのせいだろう。英紙の評価は分かれ、英紙タイムズが7点(10点満点)の高評価をつければ、英紙デイリー・ミラーは5点でチーム最低点をつけた。移籍後初となるフル出場を果たしたが、「収穫」と「課題」の両方が出たと言える。

 チェルシー戦は攻守の切り替えが極めて速く、目の回るようなスピードで進んだ。球際の攻防も激しく、まさに「イングランドらしい一戦」だった。ピッチ上にいた南野も、同じような印象を抱いていたという。

「インテンシティが高かった。日本代表の試合や、前にいたザルツブルクのリーグ戦よりも、全然そこは比べ物にならなかった。そういう中だからこそ、僕のポジションで求められる部分は、ボールをいったん収めるとか、スムーズにカウンターにつなげるところ。

 また、攻撃と守備が切り替わった瞬間の守備、つまりファーストディフェンダーとして、相手のカウンターを止めるところ。そういうセオリー的なプレーをやりつつというか。

 今日の試合も、その点でよかった部分があったと思うし、改善しなくてはいけない部分もあったと思う。やっていて楽しいというか、こういうレベルでプレーできるのはうれしいです」

 そんな南野への質疑応答のなかで、彼の「今」が見えた瞬間があった。「移籍してからのこの2カ月で、楽しいと思ったりするか」。そんな質問が飛ぶと、しばらく南野は考え込んだ。

 プレミアリーグとチャンピオンズリーグの2冠を狙うチームのなかで、喜びと充実感を噛み締めながらボールを追いかけている。そんな姿もちょっと想像できたが、実際は大きく違った。南野は、次のように言葉を返した。

「やっぱり(リバプールのチームメイトたちは)ライバルですから。試合に出ていないのに、楽しくサッカーできるわけがない。毎日必死に練習しています」

 南野の現在地は、この言葉に集約できるだろう。リバプールに加入しただけで満足はしていない。世界最高峰の選手たちが、ポジションを争うライバルである。彼らを追い越していこうと必死に戦っている。

 もちろん南野は、こうした厳しいポジション争いが待っていることも覚悟して、リバプールにやってきた。ここから、いかに這い上がっていくか。電撃移籍から約2カ月が経過した今、世界王者リバプールで、南野はその戦いの真っ只中にいる。