今季のオランダリーグで、板倉滉は開幕から16試合連続フル出場を果たしていた。専門誌『フットボール・インターナショナル』が選ぶシーズン前半戦のベストレイレブンのセンターバック部門では、アヤックス勢のデイリー・ブリント、ジョエル・フェルトマン…

 今季のオランダリーグで、板倉滉は開幕から16試合連続フル出場を果たしていた。専門誌『フットボール・インターナショナル』が選ぶシーズン前半戦のベストレイレブンのセンターバック部門では、アヤックス勢のデイリー・ブリント、ジョエル・フェルトマンに次ぐ3位。まさに「ブレーク近し」の感もあった。



VVV戦では久々にスタメンで出場した板倉滉

 だが、第17節のADOデン・ハーグ戦でスタメンから外れてしまうと、その後は極端に出場機会が減ってしまい、2020年に入っても第19節から3週続けてベンチに座ったままだった。この間、板倉の主戦場はリザーブリーグだった。

 そんな不遇の時を過ごしていたが、2月8日のフィテッセ戦(第22節/1-0で勝利)の89分から守備固めでボランチに入ると、16日のスパルタ戦(第23節/2-1で勝利)ではチームメイトの負傷もあって、44分からセンターバックとしてプレーした。

 そしてついに、23日のVVVフェンロ戦(第24節)ではミケ・テ・ウィーリクの出場停止処分によって、久しぶりにフル出場を果たした。持ち味のパスデリバリーではミスもあったが、守備では固いところを見せつけ、87分にGKのミスさえなければクリーンシートを達成できるはずだった。結局、試合は0-1で敗れてしまった。

「久々にスタメンで出たので、とにかく勝利だけを求めていた。正直、内容はどうでもよかった。最後に勝って終わる気持ちで試合に入っていたので悔しいです」

 試合を終えて、板倉は険しい表情で語った。

「この状況を変えるには、勝つしかなかった。とにかく、結果だけを求めていた。もちろん、結果を出すためにはいいプレーをしないといけませんが、そんなの関係なしに、ただ勝つことだけを意識していたので。次、どうなるか全然わからないから、気を引き締めて、またしっかりやる必要がある」

 このVVV戦で板倉とセンターバックを務めたサミール・メミシェヴィッチは、リザーブチームで一緒にコンビを組んでいたDFだった。

 まだ中国の移籍市場が開いているため、メミシェヴィッチにとってVVV戦は「フローニンゲンでの最後の試合になるかもしれない」と報道されているが、この交渉が始まった頃から彼も出場機会を失ってしまった。いずれにしても、板倉にとってリザーブチームでプレーした3試合は、試合勘の維持につながったという。

「『なんでリザーブの試合で出なきゃいけないんだよ』という気持ちはありつつ、『ここでしっかりやらないといけないんだぞ』と言い聞かせながら、練習でもバチバチやっていました。その結果、監督もチャンスをくれたと思います。監督が迷うことなく一番目のチョイスとして使ってくれるように、もっともっとやらないといけません」

 板倉は何度もデニー・バイス監督と話し合っている。

「『納得できない』と監督にも言いました。ヨーロッパにいる以上、そこは主張していかないといけないと思うので、意見はしっかり伝えるようにした。日本人だから簡単に……と思われるのもダメだし。

 プレーについて自分のことを評価しているのは、監督と話していてわかる。ただ、自分としては『なんで使わないんだ、使ってくれ』というふうに(主張している)。ともかく、あとはプレーで見せるだけです」

 板倉がフローニンゲンに来たのは2019年1月。それからの半年間、板倉はまったくオランダリーグに出ることなく、リザーブチームの一員として時折オランダ4部リーグにも出ていた。

 今季になってからレギュラーに定着したものの、再び出場機会を失った現状に、以前の思いと違いはあるのだろうか?

「去年は半年間、1試合も出られず、『悔しい』という気持ちと『ヤバいな』という焦りがありました。今回は前半戦、ほぼずっと出させてもらっていたので、そこでやれる自信というのも少し出てきた。自分としても、出続けながら改善できるところがすごく見えていた。

 だから、やれる自信があったなかで外されるのは、納得がいかなかった。自分のプレーもそこまで悪くなかったし。急にポンと外されたので、最初は全然意味がわからなかったです。やれる自信があるのに外されているのは、すごく(心が)ムズムズする。『とにかく出してくれよ』という思いでした」

 板倉の話を聞いているうちに、「心が折れた時期もあったのでは?」と感じた。

「全然折れてはないですけれど、いろんな思いはありましたね。もちろんムカつくし、イライラする。こっちはひとりじゃないですか。それを話す奴もいないし。

 だけど、やるだけ。嫌でもサッカーしか集中できない環境なので、家に帰ってリフレッシュすることもなく、やっぱりサッカーのことを考えちゃう。やるしかないと言い聞かせて」

 板倉はエレガントなタイプのセンターバックだ。だが、身を挺して相手を止めるスライディングタックルが、とくにサポーターを喜ばせている。

 板倉はフローニンゲンで個人チャントを持つ数少ない選手である。前節スパルタ戦の40分過ぎ、左サイドバックのジャンゴ・ヴァーメルダムが負傷して倒れ込むと、板倉が慌ててウォーミングアップをしてピッチに入った。この時、サポーターから板倉へ温かく大きなチャントが贈られた。

「アップの時からやってくれたので、うれしいですよ。これだけ試合に出られてなかったので、『自分のことはもう、忘れられているんじゃないかな』と思っていた。その分、もっと試合に出て自分を見せていかないといけない。もっとがんばろうと思いました」

 次節には、リザーブチームで調整したテ・ウィーリクが戻ってくる。次のヴィレムⅡ(2月28日)でテ・ウィーリクと中央の守備を固めるのは、板倉か、それともメミシェヴィッチか。ただ、いずれにしても「焦りをエネルギーに変えることができた」板倉の心が折れることはない。