「なんとかホームで勝ち点3を取れたので、非常に大きな勝利だったと思っています」 試合後にそう語ったのは、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)第2節のパース・グローリー(オーストラリア)戦で勝利を収めたFC東京の長谷川健太監督だ。左からデ…

「なんとかホームで勝ち点3を取れたので、非常に大きな勝利だったと思っています」

 試合後にそう語ったのは、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)第2節のパース・グローリー(オーストラリア)戦で勝利を収めたFC東京の長谷川健太監督だ。



左からディエゴ・オリヴェイラ、レアンドロ、アダイウトン

 グループ初戦はライバルと目される韓国の蔚山現代にアウェーで勝ち点1をもぎ取り、今回はホームでグループ最弱と見られるパース相手にしっかり勝ち点3を積み上げたのだから、申し分のない結果と言える。

 とはいえ、内容的には予想以上に苦戦した試合だったことも事実。決勝点となったこの日唯一のゴールは、83分まで待つこととなった。しかも、レアンドロが決めたミドルシュートは、ブロックに入ったパースのニコラス・ダゴスティーノの足をかすめたことによって、ボールが大きく変化したことが幸いした一撃だった。

 それ以外では「ビッグチャンスもなかなか作れなかった」と長谷川監督が振り返ったように、5バックを敷いて自陣で守る相手を崩し切れず、逆に前半のなかばには相手に押し込まれる時間帯を与えてしまうなど、攻守両面において多くの課題を残すこととなった。

 最大の要因は、今シーズンから長谷川監督が着手している4-3-3の前線3人、アダイウトン(A)、ディエゴ・オリヴェイラ(O)、レアンドロ(L)のAOLトリオにあった。

「監督からは自由にやっていいと言われている」とは、この試合でプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いたレアンドロのコメント。だが、自由というよりも、単なる不規則の域を出ない段階にあるのが現状だ。

 まだシーズン前のキャンプ開始から間もない時期であるため当然ではあるが、そこが機能しないかぎり4-3-3は絵に描いた餅になりかねない。今シーズンのFC東京が試みる新戦術を機能させるための大きなポイントだ。

 そもそも3人のキャラクターを考えた場合、ボールを収めることが得意のディエゴ・オリヴェイラを中央に、スピードと突破力のあるアダイウトンを左サイドに配置するのが妥当だろう。

 しかし、ACLのプレーオフを含めたこれまでの試合では、基本的にはアダイウトンのスタートポジションを中央で固定。そのうえで、自由が与えられる3人は試合が始まると流動的に前線を動くため、どうしてもそれぞれが心地よくプレーできるポジションに立つことが増えてしまうのだ。

 たとえば、この試合で右サイドに入ったディエゴ・オリヴェイラは中央で受けたがり、密集した中央で窮屈なプレーを強いられたアダイウトンは左サイドに流れるシーンが目立っていた。左のレアンドロもその動きに反応しきれていないので、結果的に右サイドがぽっかりと空いた「歪な4-3-3」になってしまったのだ。

 本来であれば、3-4-2-1(5-4-1)のパースに対し、4-3-3のFC東京はサイドで優位性を保たなければいけない。それにもかかわらず、右SBの室屋成は相手の左ウイングバックと数的同数を強いられ、高いポジションを維持できず。敵陣でボールをキープできなかったのも、サイドを起点に効果的な攻撃ができなかったのも、そこに多くの原因が潜んでいた。

 同時に、前線3人の不規則な動きは、守備面でも問題を引き起こしていた。

「前半は、橋本と中盤の選手が少し後ろに重たかった。本来であれば、もっと橋本が前に出てアグレッシブに行ってよかったが、なかなかそうできなかった」

 長谷川監督がそう語ったように、流動的に動く前線3人と中盤3人の意思疎通ができていないため、前からのプレスがはまらず、その結果、リスク管理を強いられるアンカーポジションの橋本拳人は前に出られない状況が続いた。

 変化の兆しが見られたのは後半59分、アダイウトンに代わって紺野和也が前線に投入されてからだった。紺野の俊敏なドリブルも効果的だったが、とりわけディエゴ・オリヴェイラが中央に構えたことで、前線の交通整理ができたことが大きかった。

 それにより、前半は空回りしていたインサイドハーフの高萩洋次郎による相手最終ラインへのプレスも、中央のディエゴ・オリヴェイラと連動するようになった。まだ完成度は低いものの、タイトル獲得のために挑戦する4-3-3に希望の光が見えた瞬間だ。

 おそらく今シーズンのFC東京の行方を左右するであろう新戦術。そのプレーモデルのヒントは、ジネディーヌ・ジダン監督の率いるレアル・マドリードにありそうだ。

 同じ4-3-3を基本とするR・マドリードも、前線3人が流動的にポジションを変える。だが、中央のカリム・ベンゼマがサイドに流れた場合、中央にはイスコ(またはエデン・アザール)やガレス・ベイル(またはロドリゴ)がスムーズに移動する。

 たとえば、前線が全体的に左へスライドした場合でも、逆サイドには右SBのダニエル・カルバハルやインサイドハーフのルカ・モドリッチがそこを埋めることで、ピッチを広く使ってポゼッションすることができる。

 また、敵陣に押し込んでポゼッションを続けるためには、最終ラインは高くキープして全体をコンパクトにし、ボールを失ったあとも即時回収しやすい状況を作る必要がある。そうして初めて、4-3-3は攻撃的に機能する。

 つまり、ディエゴ・オリヴェイラがベンゼマだとすれば、レアンドロはイスコで、高萩はモドリッチ。当然、代えの利かないカゼミロ役は橋本で、高い最終ラインをキープするカギを握るのはセルヒオ・ラモス役の森重真人になる。

 現在負傷離脱中の東慶悟が復帰すればトニ・クロース役を担うだろうし、スピードと上下運動にも耐えられる永井謙佑はルーカス・バスケスになれるかもしれない。そして、突破力と決定力を兼ね備えるアダイウトンは、ヴィニシウス・ジュニオールのようなジョーカー的存在になれるはずだ。

 もちろん、新しい戦術にトライし始めたばかりなので、シーズン序盤は苦戦する可能性は高いだろう。しかし、4-3-3が少しずつ進化を見せて機能するようになった暁には、対戦相手によってはプランBの4-4-2、状況によってはパース戦の終盤で見せた逃げ切り用の5-4-1(プランC)と、戦術バリエーションはぐっと広がる。

 過去2年は一貫して4-4-2で戦い続けた指揮官自らがその殻を破り、タイトルを獲得すべく大きく変貌を遂げようとしているFC東京。たしかに大きな賭けかもしれないが、今シーズンはこのチームに注目せずにはいられない。