最高の結果は手にできなかったものの、今夏の大団円に向けての期待値は高まるパフォーマンスだったと言えるだろう。

 スポーツクライミングのシーズン幕開けを告げる『第15回ボルダリング・ジャパンカップ(BJC)』が、2月8日・9日に東京・駒沢で開催された。男子60選手、女子47選手が大会初日の予選に挑み、各カテゴリー上位20選手が翌日の準決勝に駒を進め、そこでの上位6選手がファイナルに臨んだ。



ボルダリング・ジャパンカップで2位になった野口啓代

 男子を制したのは、大会前に「優勝を狙っています。この大会に合わせて調整してきました」と宣言した原田海。2018年の世界選手権ボルダリング王者の原田が国内最高峰のタイトルを初めて手にした。

 女子は伊藤ふたばが2017年大会以来2度目の戴冠。決勝第4課題のTOPホールドを両手でしっかりと掴んで完登を決めると、大輪の笑顔を咲かせた。

 東京五輪の日本代表選考方法は、国内協会と国際協会の間に解釈の齟齬(そご)が生じて、現在もCAS(国際スポーツ裁判所)の裁定を待つ状況にある。そうしたなか、”もう1枠”を目指す選手たちは、目の前にある大会にだけ集中して臨んでいることを印象づけた。

 一方、すでに昨夏の世界選手権で五輪内定を決めている楢崎智亜と野口啓代は、それぞれ2位。五輪イヤー最初の大会で好スタートを切ったが、大会後の表情は対照的だった。それでも、両選手にとって今シーズン最大の目標である東京五輪に向けては、実り多いものになったようだ。

「最後のBJCなので楽しみたい。いろいろな思い出が詰まっている大会なので、優勝して終わりたいし、今までよりもいい内容にしたい」

 大会前日会見で12度目の優勝へ意欲を見せていた野口は、試合後は報道陣の質問の答えに「悔しい」の言葉を何度も発した。それは、内容に手応えを感じていたからこそだろう。

「優勝できなくて、めちゃくちゃ悔しいです。決勝課題は4本中3本を完登できて、自分が登れた3本のパフォーマンスはよかったし、集中力だったり、1トライ目でしっかり登り切る能力だったりは出せた。それだけに悔しいです」

 野口の最大の持ち味は、ホールドを掴む指の保持力の強さにある。どんな傾斜の壁であっても、指で持てるホールドがついていれば、そこを起点にして登っていく。

 一方、緩傾斜ではそうしたホールドのない課題が出されることがある。足だけで重心移動をしながら登る課題に、野口は苦しめられることが多かった。この冬はその課題克服に重点を置いてトレーングを積んできた。

「少しはよくなっていると思う」と大会前は手応えを口にしていたものの、今大会の決勝で勝敗を分けたスラブ壁(※)につくられた第3課題は、足だけでの重心移動が求められるもの。この課題でゾーン獲得にも達せず、弱点克服に取り組んだ成果を発揮できなかったことも、悔しさを増幅させたのかもしれない。

※スラブ壁=角度が90度以下で奥に寝ている壁。

 それでも今大会は、東京五輪に向けての収穫もしっかり手にしている。これまでなら大会直前は、コンディショニングや指皮回復のために練習量を減らしていたが、今大会には普段とおりの練習量のまま臨んだ。新たに試した調整方法に、一定の成果を得た。

「大会が始まる前から指の皮が心配だったんですが、決勝戦が終わるまで指皮がなくなったり、痛くなったりしなかった。この調整方法をあと何大会かで試しながら、東京五輪では自分に一番フィットする方法を選びたいなと思います」

 女子と同じく男子も、優勝と2位の差は1ゾーンになった。だが、報道陣の前に現れた2位の楢崎の表情は、野口とは対照的にスッキリしたもの。穏やかな口調で、時には笑いを起こすひと言を放つほど。

「事前の調整段階から、そこまで優勝を意識してなかったので。まあ、惜しかったな、くらいです。楽しくやりながら予選から決勝まで戦えたし、オリンピックに向けての弱点を見つけたり、追い込まれた時の集中力の出し方だったりという部分で、今大会の目的は果たせたかなと思います」

 今大会は、大きなホールドとホールドの間に身体を入れ、壁の中から両サイドにあるホールドに手と足を突っ張りながら高度を稼いでいく、ワイドクラックのような課題が出された。決勝第2課題もそうした動きの求められる課題で、ここでゾーンを取りこぼしたことが響いて、楢崎は2位に終わった。

「こうした動きに苦手意識はなかったけれど、これまで大会で出てくることの少なかった課題が、今大会は決勝だけではなく、準決勝でも出てきた。もしかしたら、今年の流行りになる傾向かもしれないし、五輪でも出る可能性はある。

 今大会は登れなくて、新たな弱点として見つかったので、これからしっかり対策をとっていきます。そこを潰せれば、よりオールラウンダーになれますから」

 オフシーズンから新たに取り組んできた『登っているときの姿勢改善』でも、公式戦だからこそ確認できたことがあったようだ。

「壁に対して身体をひねるのではなく、面のまま動かすという動きは、できた課題もあったし、できない課題もあった。録画を見ながら、『こういう時は、こうしよう』と確認して、身体の左右のポジションの微調整をしながら精度を高めていきます」

 オリンピックまで残された時間は半年あまり。スポーツクライミングが五輪史で初めて行なわれる舞台に向けて、成長と進化のための彼らの挑戦は続く--。