今シーズン、北海道日本ハムファイターズのヘッドコーチ兼打撃コーチに就任した小笠原道大。現場で選手を支える傍ら、シーズンオフは居を構える千葉県で「小笠原道大杯争奪 市川市少年野球大会」の開催と身体障がい者野球チーム「千葉ドリームスター」の支援…

今シーズン、北海道日本ハムファイターズのヘッドコーチ兼打撃コーチに就任した小笠原道大。

現場で選手を支える傍ら、シーズンオフは居を構える千葉県で「小笠原道大杯争奪 市川市少年野球大会」の開催と身体障がい者野球チーム「千葉ドリームスター」の支援をそれぞれ10年以上継続して行っている。

今回は野球人口の拡大、子どもたちの指導、そして”勝つ”ことの考え方について語った。

まずは興味を持ってもらうこと

昨今、野球界では競技人口が減少している。野球離れに歯止めをかけるべく、現役選手や一時代を築いたOBたちが地元で野球教室を開催したり、地域の交流会に参加している。
 
小笠原道大杯は2007年に始まり、2015年の現役引退後も続けたいという想いから以降も継続。昨年で13回目を迎えた。
野球人口の拡大については、以下のように説いた。
 
「まずみんなに興味を持ってもらわなくちゃいけない。今のご時世、親と子の会話が減ってきていると聞いています。まずは1日10分でもいいので、ボール遊びなどから親子の間で触れ合えることがまず大事かなと。きっかけはどんな形でもいいので、何かしらで野球というものに興味を持って広がってほしい」
 
毎年多忙の合間を縫い、大会に出席している。昨年11月30日の閉会式の際も壇上に立ち、「1つの失敗、1つのミスで目標を諦めないでください」などと子どもたちに直接メッセージを贈った。 

子どもたちの成長が前提

近年、野球界問わず指導者の体罰や暴言などについて報道される機会が増えてきた。育成年代への指導方法がスポーツ界全体の課題となっている。
 
現役引退翌年の2016年から中日ドラゴンズの2軍監督で指導者のキャリアをスタートした。子どもたちを指導するにおいてはプロの選手を指導するのとは考え方は異なる。

「子どもたちの成長につながるのが大前提です。子どもの時から管理し過ぎてしまっても良くないので、いい意味での伸び伸び。野球というのを嫌にならないでほしい。そういった指導をしてもらいたいです。ただ、そこには厳しい練習や体力強化があって、なおかつそれを継続してやらなくてはいけないこともあります。スケールを大きくして教えてほしいですね」

教育のために”勝つ”経験は必要

「勝利至上主義」
 
子どもたちの怪我に繋がるなどの観点から現役プロ野球選手やOB、アマチュア指導者などの間で議論されている。

この考え方については“至上”ではないと強調した上で、教育のためにも「勝つ」経験も必要であると述べた。
 
「勝利というものは必要なことだと思います。一つの目標に対して向かっていく気持ち、みんなで協力して乗り越えるということに関しては必要だと思うんですよ。その時々の状況によって変わるので何でもということではないですが、自分たちの欲のために勝つのではなくて、教育の一環として“勝つ”という目的意識は常に必要なことです。ただ、“至上”ではないですね」 

”強さ”も先々に求められる

年代問わず、スポーツではチーム内のポジション争いにも勝たなければならない。自らもプロ野球という弱肉強食の世界で19年もの間生き抜いてきた。

そのために誰もいない朝早くから球場に入り、練習や試合が終わってからはトレーニングや体のケアを行い、球場を後にするのはいつも最後。このサイクルを継続することで強靭な体をつくり上げ、競争に勝ち続けてきた。
 
「野球でポジションを獲るには競争が出てきますよね?そこでは身体が強くないといけない。そのためには反復練習をしなくちゃいけないし、多少の無理が必要。そこで無理をするからスキルアップが見込める。でもそこで制限してしまったら止まってしまいます。強さというのも先々に求められてきますし」
 
中学生・高校生はそれぞれ3年間と限られている。過度に追い込んでしまうと故障によって可能性を潰す点に触れながら、成長の妨げになってはいけないと考えている。
 
「中学高校って3年ずつですよね。時間は限られているのでその中で多少追い込むところは追い込みながら、抑えるところは抑える。本人も分からないところがあるので、そこは大人が見てあげたり制限してあげる。でも何が何でも抑えるとなると成長の妨げにもなると思います。状況に応じてというのが必要になるのかなと思います。難しいんですけれどもね」 

目的意識としての「勝つ」経験は必要と語った

少年野球をやってよかったと思えるように

時代は変わり、子どもたちは多くのスポーツに挑戦できる選択肢が増えた。

卒業後は他のスポーツを含め野球以外の新しいことに挑戦する子どもたちもいる。指導者の方たちには以下のように教えてほしいと述べた。
 
「これから中学から社会人までいろんな野球があります。野球から巣立って違う分野につく子どもたちもいるでしょう。子どもたちが将来“少年野球やっててよかった”って思ってもらえればそれがベストなので、そういう教育をしてほしいです。あとしっかりと野球のスキルは教えて、彼らが持ってるものを伸ばしてあげたり興味をどんどん持たせてあげた方がいいのかなと思います」 

今後も大会は継続

昨年11月の決勝戦、グラウンドの中からは子どもたちやコーチが、外からは応援する親たちの大きな声が飛んでいた。実際に試合を見てその熱気は心に響いていた。
 
「今日もすごい活気がありましたね。両軍ベンチから試合出ない子も一生懸命声出してやってたんで、まだまだ捨てたもんじゃないなと。あと市川の連盟の方々には本当に頑張ってもらってるんだなと。そういうところ(連盟)から発信していかないとチームや指導者、選手も行動しないと思いますから、いい方向に進んでいるのではないかなと思いますよね」

野球人口が減っている状況について課題意識を感じている。今後も野球界、そして子どもたちの未来のためにも大会は継続したいと考えている。
 
「もっと競技人口を広げていかなくちゃいけない。あとは子どもたちの成長のきっかけとなる大会であってほしいなと。そのために今後も継続したいと思います」

ファイターズのコーチとして新たな挑戦も始まる。チームのため、そして球界のために”フルスイング”は続いていく。

(取材・文 / 白石怜平)