西岡良仁(日本/ミキハウス)が四大大会で初めて3回戦に進出した。くせ者ぶりを存分に発揮している。2回戦では、強風の舞う悪コンディションの中、自在なテニスで第30シードのダニエル・エバンズ(イギ…

西岡良仁(日本/ミキハウス)が四大大会で初めて3回戦に進出した。くせ者ぶりを存分に発揮している。2回戦では、強風の舞う悪コンディションの中、自在なテニスで第30シードのダニエル・エバンズ(イギリス)にストレート勝ちした。シーズン開幕戦として開催された国別対抗戦ATPカップで、エバンズはダビド・ゴファン(ベルギー)、アレックス・デミノー(オーストラリア)とトップ20選手を二人も破っている。現在の世界ランキング32位は自己最高だ。その難敵に、自分のプレーをさせなかった。

片手バックハンドのエバンズのバック側に、弾道の高いトップスピン、すなわち高く跳ねるボールを送り、相手の強打を防ぐ--そこまでは、まあ、定石だ。左利きのプレーヤーならなおさらこのショットが使いやすい。ただ、西岡は、より遅いボールでこれを試みた。ショットの狙いを試合後に明かした。

「あえてゆっくり打って、風でボールをブレさせて、ミスヒットを待った」

風でブレさせる、というのがいい。だれもが嫌がる強風を逆に利用するのが、くせ者のくせ者たるゆえんだ。

自分にパワーがない分、どうしたら相手が嫌がるかを常に考え、実戦で試してきた。身長170㎝と小兵の西岡は、10代前半でIMGアカデミーに留学して以降、それを貫いている。強風下で遅いボールを使うこと自体、簡単ではない。相手を崩す前に、自分のショットの精度が下がる恐れがある。しかし、西岡はリスクと効果を計算しながら、勝てる可能性を探る。エバンズはこのボールをうまく処理できず、そのうち、返球は守備的なスライス一辺倒になった。

しかも、ミスを誘う戦術に固執せず、後半は攻め方を変えた。

「バックハンド中心に攻めて、ネットを取るというのもやった。序盤はしっかりミスを誘い、後半は攻めていくというメリハリもよかった」

テニスIQの高さを誇示するような快勝だった。第30シードを破る番狂わせは必然だった。

1回戦ではラスロ・ジェレ(セルビア)のバックハンド封じが見事だった。昨年の全仏オープンで錦織圭(日本/日清食品)を土俵際まで追い込んだジェレのテニスを覚えている方も多いだろう。粘り強さと思い切りを兼ね備えた選手だが、特にバックハンドのダウン・ザ・ラインの切れ味は一級品だった。

西岡のテーマはこのバックハンドをいかに封じるかだった。当然、弾道の高いボールで押し込み、中に入らせないことが必要だ。すなわち、西岡の持ち味である跳ねるトップスピンと、相手の得意なバックハンドが正面衝突した。結果は西岡の完勝だった。ジェレのバックハンドのフォーストエラー(相手に強いられたミス)は30本に達し、アンフォーストエラーも25本。ウィナーはわずか11本だった。

試合終盤に、こんなシーンがあった。西岡が相手のバックハンド側の肩口に高く跳ねるトップスピンを打つ。やや詰まってダウン・ザ・ラインに強打できないジェレは、クロスに返す。コースを読み切った西岡は、これを待ち構えてダウン・ザ・ラインにウィナーを放つ。ジェレはこれを呆然と見送った。

相手の得意のコースと弱点は背中合わせだ。ボールが甘くなれば、得意のバックハンドでたたかれる恐れがある。だが、リスクはあっても自分のショットと戦術を信じて仕掛けた。西岡の真骨頂だった。

24日に予定される3回戦では、第2シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)に挑む。ジョコビッチとは11月にデビスカップ・ファイナルで対戦、完敗している。試合後、西岡は「守っていてはチャンスがないので、いかにアグレッシブにいけるかだと思っていたが、返球の質が高くて主導権を握れず、無理をしてしまった」と話した。再戦が決まると、西岡は「もう少し落ち着いてやってみようと思っている」と明かした。

一つのイメージは、ジョコビッチに3勝(8敗)しているロベルト・バウティスタ アグート(スペイン)だという。

「ジョコビッチ選手は相手にやらせるのが好きで、自分からやるのがあまり好きじゃない。ロベルト・バウティスタ アグート選手は相手にプレーさせるタイプ」

具体的な作戦は立てていないが、“ジョコビッチのほうから何かやらせる”ことに勝利のヒントがあるとにらんでいる。

「バウティスタになるか(笑)」

軽口に込められたのは、王者にひと泡吹かせてやろうという野心だ。2度目の対戦となるジョコビッチにどう挑むか。想像するだけで楽しくなる。

(秋山英宏)

※写真は「全豪オープン」での西岡良仁

(Photo by Morgan Hancock/Getty Images)