元寺尾・錣山親方の『鉄人』解説~2020年初場所編元関脇・寺尾こと錣山(しころやま)親方が、本場所の見どころや話題の力士について分析する隔月連載。今回は、いよいよ戦国時代に突入した相撲界の”世代交代”について検証してもらいつつ、1月12日か…

元寺尾・錣山親方の『鉄人』解説
~2020年初場所編

元関脇・寺尾こと錣山(しころやま)親方が、本場所の見どころや話題の力士について分析する隔月連載。今回は、いよいよ戦国時代に突入した相撲界の”世代交代”について検証してもらいつつ、1月12日から始まった初場所(1月場所)での注目力士、優勝争いについても語ってもらった--。

 令和2年を迎えました。今年も私、錣山の『鉄人解説』をよろしくお願いいたします。

 さて、令和初の初場所が1月12日から東京・両国国技館で始まりました。その見どころなどについて語る前に、まずは昨年の相撲界について、振り返ってみたいと思います。

 昨年は、場所ごとに優勝力士が変わる、目まぐるしい一年でした。春場所(3月場所)と九州場所(11月場所)こそ、横綱・白鵬が優勝したものの、初場所は関脇・玉鷲、夏場所(5月場所)では前頭8枚目の朝乃山、名古屋場所(7月場所)では横綱・鶴竜、そして秋場所(9月場所)では関脇・御嶽海が賜杯を手にしました。

 なかでも、大きな出来事だったのは、三役経験のない朝乃山の平幕優勝。三役以下の力士たちにも、「ひょっとしたら、俺も優勝できるんじゃないか」という思いを抱かせる結果だったと思います。まさに、相撲界の転機となる”起爆剤”だったと言えます。

 そうして、白鵬ら上位力士が優勝を独占していた時代が終わりを迎え、戦国時代へと突入していきました。2020年は、そうした時代の流れがますます加速し、”世代交代”の一年になっていくと見ています。

 その一端を担う力士として、私が最も注目しているのは、竜電(前頭8枚目)です。

 竜電は、2012年の九州場所で新十両になっているのですが、ずっと度重なるケガに泣かされて、休場続きの身にありました。結局、同場所でも途中休場。翌2013年の初場所には幕下に陥落し、そこから1年で序ノ口まで番付を下げてしまいました。

 それでも、めげずにがんばってきた彼は、2016年の九州場所で再び十両に復帰。2018年の初場所で新入幕を果たしました。以降、技能賞も受賞するなど、29歳にしてまだまだ成長中の力士です。

 私たちの現役時代と違って、現在は医学も進歩しているし、トレーニング方法も科学的なものに変わってきています。それに比例して、力士人生は確実に長くなってきていますから、竜電にしても、今後のさらなる活躍が見込めます。

 初場所前の二所ノ関一門の連合稽古では、元大関で関脇の高安と五分五分の相撲を取るなど、精一杯やっているところにも好感が持てました。竜電本人も、「今年は三賞を2回獲りたい」と意欲的な姿勢を見せているようですし、躍進への期待は一段と膨らみます。身長191cm、体重154kgという恵まれた体を生かし切れば、上位力士を食う、面白い存在になるのではないでしょうか。



炎鵬らしい相撲でさらなる活躍を見せてほしい

 期待の力士は、もうひとりいます。身長168cm、体重99kgという小さな体で土俵を盛り上げている炎鵬(前頭5枚目)です。

 私が現役の頃にも、舞の海(現解説者)という小兵力士がいましたが、こういうタイプとの取組は、結構やりづらいもの。それは、横綱をはじめ、上位陣にしろ、大型力士にしろ、誰もがそうだったと思いますよ。

 小兵力士でも結果を残せるのは、頭を使っているからです。舞の海もそうでしたが、炎鵬もいろいろと考えて、考えて相撲を取っています。すべての相手が自分よりも大きいわけですから、相手がどうこうではなく、炎鵬はそうやって炎鵬らしい相撲を取っていくしかないんです。

 ただ、幕内5場所目ともなると、相手にも手の内を知られてきます。得意、不得意な力士も出てきて、そう簡単には勝てなくなってくるでしょう。

 そんななかでも、上位力士とも対戦する今場所は、初顔の相手も多いので、チャンスと見ることができます。連日、動き回る相撲を取っているため、後半戦で息切れする場所も見られましたが、大声援を後ろ盾にして、がんばってほしいですね。

 そのほか、ファンが注目している有力どころと言えば、大関・貴景勝や関脇・朝乃山でしょうか。

 場所前から好調が伝えられていた貴景勝は、横綱審議委員会稽古総見でも熱い稽古をしていましたし、ヒザや上腕のケガも癒えてきて、その活躍は十分に期待できます。

 ただ、稽古場の貴景勝を見ていて、気になったことがひとつあります。昨年、ケガに苦しめられながら、準備運動が少なすぎる、という点です。

 今年35歳になる白鵬は、年齢とともにケガが多くなってきてはいますが、いつも準備運動を熱心に、そして入念に行なっています。39歳まで現役を務めた私も、現役の晩年の頃は、とくに準備体操、基礎運動を大切にしていました。

 そう思うと、貴景勝のケガの多さは、準備運動不足からきているところもあるのではないか、と勘繰ってしまいます。「次(横綱)」を求める声もある貴景勝ですが、そのためには、準備運動不足を解消したほうがいいと思います。あと、たまに引くクセがあるので、上を目指すには、それを直してから、になるでしょうね。

 一方、「次期・大関候補」として注目される朝乃山。「剛」の貴景勝に対して、彼は「柔」。非常に柔らかい相撲を取る、優れた力士です。体のバランスもいいですし、将来性という意味では、間違いない存在です。

 それでも、私から見れば、相撲内容、積極性など、まだまだの部分が多いですね。昨年の夏場所で優勝した時は、対戦相手に自らの相撲を覚えられていなかった、という利点がありました。しかし今ではもう、皆が朝乃山を研究。取組の際には、朝乃山対策を立てており、朝乃山は得意の右四つの形に持ち込むことが難しくなってきています。

 彼も上を目指すなら、そうした課題克服が必須。そこを打破していくのは、本人の努力次第です。

 最後に、初場所についてですが、序盤から波乱の展開を見せています。「世代交代」と言っても、まだまだ横綱勢が中心と思っていましたが、こうなってくると、誰が優勝するのか、まったく予想がつきません。ファンのみなさんには、激戦の初場所を大いに堪能していただければと思います。



photo by Kai Keijiro

錣山(しころやま)親方
元関脇・寺尾。1963年2月2日生まれ。鹿児島県出身。現役時代は得意の突っ張りなどで活躍。相撲界屈指の甘いマスクと引き締まった筋肉質の体つきで、女性ファンからの人気も高かった。2002年9月場所限りで引退。引退後は年寄・錣山を襲名し、井筒部屋の部屋付き親方を経て、2004年1月に錣山部屋を創設した。現在は後進の育成に日々力を注いでいる。