写真:香港OPでの丹羽孝希(スヴェンソン・左)と水谷隼(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部

2020年となり、いよいよ東京五輪に向けての動きも熱を帯びてきた。東京五輪に出場出来る代表選手は男女各3名。ランキング上位の2名がシングルスと団体に出場し、日本卓球協会が選出する3人目の選手は団体戦のみと出場となる。その3人目を選ぶにあたり、鍵を握るのがダブルスだ。

5本勝負の団体戦の、1試合目にダブルスが置かれているので、ここを取ってチーム全体に勢いをつけることは、勝利への絶対条件となる。2018年に開幕したTリーグも、1試合目にダブルスを置くルールを採用している。実際このダブルスを取った方が、チームに勢いをもたらしていることは明らかである。

丹羽・水谷の左左ダブルス




写真:香港OPでの水谷隼(写真左)と丹羽孝希/撮影:ラリーズ編集部

そんな中、五輪代表選考である珍しい事態が起こるかもしれない。それは、丹羽・水谷ペアという「左利き×左利きのダブルス」が誕生するかもしれないということだ。

男子はまず張本智和(木下グループ)と丹羽孝希(スヴェンソン)が代表選考基準を満たしている。今回は残る3人目を、実績・経験ともに十分な水谷隼(木下グループ)を卓球協会が選出するとした場合の話だ。

チームのエース格である選手は団体戦のなかでシングルスに2本出場する。これは張本が濃厚だろう。残る2人目と3人目でダブルスを組むことになるので、水谷が選ばれれば、丹羽・水谷のダブルスとなることが必至なのだ。

一般的にはダブルスは右利き×左利きのペアが優位とされている。そんななかで左利き同士のペアというのはあまり聞いたことがない。

左×左ペアの過去の実績




写真:渡辺武弘・斎藤清の左左ダブルス/撮影:山田真市/アフロ

世にも珍しい左利き同士のペアだが、もちろん全く存在しないというわけではない。日本では、渡辺武弘・斎藤清の左利きペアが、1982年から4年連続で全日本選手権を制覇している。

さらに世界を見ても、フランスのガシアン/シーラのペアが、シドニー五輪の男子ダブルスで銅メダルを獲得している。さらにはオランダのハイスター/ケーンのペアなど、トッププロ達でも少数ではあるが左×左でダブルスを組み、好成績を収めてきているのだ。

あまり目にすることのない左×左ペアだが、それぞれどのようなメリット、そしてデメリットがあるのだろうか。2019年秋季関西学生卓球リーグでベストペア賞を受賞した左利きダブルス・坂根翔大/福本卓朗ペア(関西大学)のコメントも参考に見ていこう。

左×左ペアのメリット




写真:左利き同士でダブルスを組む、関西大学の福本卓朗(写真左)と坂根翔大(写真右)/撮影:ラリーズ編集部

相手がやりなれていない

まず最もわかりやすい特徴としては、それだけで希少価値が高いということである。カットマン、粒高、アンチといった少数派のプレイヤーは、少数派であるからこそ価値があるのだ。王道から外れているが、それ故に相手はやり慣れていないため、優位性を保つことが出来る。

左左のペアなどは、その最たるものだろう。まず左利きの選手自体が少ないのに、さらに2名でペアを組んでいるなど、滅多にお目にかかれるものではない。

実際に坂根も「他に左左ペアがあまりいないので、相手が対策を立てにくい」ことをメリットとして述べており、全日学では、全日本準優勝の松山祐季/髙見真己ペアを破る金星を挙げていた。

レシーブが圧倒的に有利

以前の記事でもお伝えしたように、レシーブ時は左利きが圧倒的に有利だ。なぜなら、ダブルスはフォアクロスへサーブを出すルールなので、左利きは常に回り込んだ状態で、自由に体を使ってプレーすることが出来るからだ。右利きの場合は、卓球台が邪魔になるので、覆いかぶさるような形でのレシーブになるため、かなり窮屈になってしまう。

サーブ〜3球目がシングルスの際と同じ

さらに坂根は「サーブ~3球目がシングルスの待ち方と一緒」というメリットを挙げてくれた。

右利きの選手であれば、シングルスでサーブを出す際は通常バックサイドから出すことが多い。それが、ダブルスではフォアクロスでしかサーブを打ってはいけないというルールの為、いつもと勝手が違うわけだ。

しかし左利きの選手は、シングルの際もフォアサイドから出すので、ダブルスであろうといつも通りの位置でサーブを出すことが出来るのだ。

さらに言えば、3球目攻撃もシングルスのときと同じ要領でプレーすることが出来る。

少し細かい話だが、

・自分が出したサーブを、相手がレシーブして返ってきた、ボールを打つ
・他人が出したサーブを、相手がレシーブして返ってきた、ボールを打つ

この両者の間には、実はとても大きな差があるのだ。回転の種類や性質、バウンドの高さやボールの深さなど、100人の選手がいれば100通りの特徴がある。それ故に、「他人が出したサーブを、相手がレシーブして、返ってきたボールを打つ」のは難しい。故にダブルスは難しいのだ。

ただ、この部分の難易度が最も低くなる傾向にあるのが、左×左のペアなのだ。

言わずもがな、右利きと左利きではボールの性質は大きく違う。サーブにおいても同様だ。しかし左利き同士であれば、お互いサーブの性質は近い。そのうえ、サーブレシーブのコースもシングルスのときと同じように出来る為、強いというわけだ。

左×左ペアのデメリット




写真:福本卓朗(写真左)と坂根翔大(写真右)/撮影:ラリーズ編集部

デメリットとして福本は「右×左ペアと比べて楽に動けない」、坂根も「お互い右×左ペアを経験しているためやりにくい。コースを固められると自分たちがくるくる回らないといけないので苦しい」と語る。

左×左ペアは、ラリーになった際に2人の動きが限定されてしまうというデメリットがあるのだ。フォア側、フォア側、フォア側、と同じコースを連続して突かれると、どうしても2人が重なる形になるので、動きが遅れて台から下がってしまう形になってしまう。ただし、それは右×右のペアでも全く同じことが言える。

過去の丹羽・水谷ペアの成績は?




写真:香港OPでの水谷隼(写真左)と丹羽孝希/撮影:ラリーズ編集部

さて、話を戻そう。今回誕生する可能性のある丹羽・水谷ペアであるが、実は過去に一度結成をしている。2019年の香港オープンだ。しかしその際の成績は、リウェンツォフ・パイコフのペアに敗れて1回戦敗退。

試合を見てみるとやはり、ラリー戦になった際には失点をすることが多い印象だ。なかでも、丹羽がフォアサイドをノータッチで抜かれる、というシーンがよく見られた。

前陣を得意のプレー領域とする丹羽は、本来なら右利きと組むことによって、シングルスのとき同様に台の近くでの稲妻のようなカウンターを繰り出すことが出来るのだが、左利き同士のペアリングだとどうしても台から下がる場面が多くなる。そのため、うまく丹羽の持ち味を活かしきれないまま試合が終わってしまった。

もちろん参考となるのはこの1試合のみなので、真価のほどは分からない。いざ本当に実現するとするならば、さらに練習を積んでコンビネーションに磨きがかかっていくことだろう。

まとめ

今回はあまり見ることのない、左利き同士のダブルスについて考えてみた。

筆者が考えるには、

・レシーブが圧倒的に有利
・サーブや3球目攻撃がシングルスの際とほぼ同様にプレーが出来る

という2点から、右×右のペアよりは、左×左のペアリングの方が有利な傾向にある、と結論づけたい。

ただそれでもやはり、右×左のペアリングが優位であることは揺るがないだろう。ラリー時において右利き同士、あるいは左利き同士の2人の選手が重なってしまう問題については、いくら練習しようがどうすることも出来ない。

だからこそ丹羽・水谷ペアが実現した暁には、ぜひともサーブレシーブにより磨きをかけていって欲しい。

大きなラリーになる前に、極力早い段階で仕留めてしまう。そしてラリーになっても、なるべく丹羽が前陣を死守して、得意なパターンにはめ込むような戦い方を繰り広げてもらいたい。ある意味で我々の先入観を覆す、大活躍が見られることを期待している。

そしてもちろん、他の右利きの選手が選ばれたとしたら、それは一体誰なのか、ダブルスでどんな活躍を見せてくれるのか、期待が高まるばかりである。もう間もなく決定する3人目の代表選手が誰になるのか、ますます目が離せない。

文:若槻軸足(卓球ライター)