来田涼斗(きた・りょうと/明石商)は打席に立つと、体を大きくうしろにのけ反らす独特のルーティンから鋭い眼光をマウンドに…

 来田涼斗(きた・りょうと/明石商)は打席に立つと、体を大きくうしろにのけ反らす独特のルーティンから鋭い眼光をマウンドに向ける。50mを5秒9で駆け抜け、遠投100mと身体能力の高さは折り紙つき。高校通算本塁打は29本を数え、がっしりした下半身からパワーを呼び込める力強いスイングが持ち味だ。



1年夏から明石商のレギュラーとして3度の甲子園に出場している来田涼斗

 中学時代はヤングリーグの神戸ドラゴンズでプレーし、2年夏には全国制覇に貢献。高校進学の際は、関西圏のみならず全国の30校近い高校から誘いを受けた。

 そのなかで地元・兵庫の明石商を選んだ最大の決め手は、同校でプレーしていた3年上の兄の存在だった。兄が果たせなかった甲子園出場を叶えたいと、明石商の門をくぐった。

 入学直後の春の県大会では、すでに背番号20をつけてベンチ入りし、徐々に出場機会を増やした。そして春の近畿大会では背番号17に”昇格”して「1番・レフト」でスタメン出場。その初戦の相手は大阪桐蔭で、先発のマウンドには根尾昂(現・中日)が立っていた。

「高校に入学してまだ2カ月ぐらいで、いきなり根尾さんのボールを見ることになって……。たしかにすごいボールでしたけど、自分はまだ1年生だったので、胸を借りるつもりでやりました」

 1打席目でショートへの内野安打を放ったが、以降は自分のバッティングをさせてもらえず、2番手の柿木蓮(現・日本ハム)にも無安打に抑えられるなど、全国屈指の強豪校の洗礼を浴びた。だが、ここから来田の高校野球生活は一気に加速していく。

 明石商の狭間善徳監督は、入学後まもなく来田を起用した理由を次のように語る。

「入学時から体ができていて、体幹がしっかりしているからスイングが強い。どんなピッチャーにも臆せずに振れるのは体が強いからでしょう。それに勝負どころで結果を残せるところ。練習試合で打てなくても、大会ではここぞという場面で打てますからね」

 それを体現したのが、2019年のセンバツ準々決勝での智弁和歌山戦だ。初回の攻防が大きなカギになると見られていたが、先制された1回裏に先頭打者の来田がいきなり本塁打を放った。

 その後、互いに得点を加え、3−3で迎えた9回裏に試合を決めたのは、来田のサヨナラ本塁打だった。先頭打者本塁打とサヨナラ本塁打を1試合で放ったのは大会史上初。この試合で来田の名が一躍高校野球ファンに知られることになったのだが、当の本人はこの時のことを覚えていないという。

「甲子園って、試合をするだけで楽しいところ。いい場面で打てたのはうれしいのですが、あの時の感触は、じつは覚えていなくて……(笑)。たまたまです」

 来田について、狭間監督はこうも言う。

「あいつはこちらがこうしろと言っても、なかなか聞き入れないんです」

 指揮官も苦笑いを浮かべるほど典型的なマイペース人間だが、ことバッティングに関しては強いこだわりがある。

「インパクトを大事にしています。リストよりも打つ瞬間に力を与えられるようにして、インパクトにどれだけ力を込められるか。そこはずっとこだわってきました」

 2019年の秋、新チームになったばかりの頃、来田は3番を打つ時期があった。だが、なかなか思うようにバットが振れず、チャンスでもことごとく凡退を重ねた。その時のことを、狭間監督はこう振り返る。

「下半身にあれだけ力があるのに、手先の感覚だけで打ってしまうというか。秋はまさにそうでした」

 近畿大会の準々決勝の大阪桐蔭戦で、2回にレフトに2点タイムリーを放ったが、「来た球にたまたま反応できただけで、詰まっていたし、納得のいく当たりではなかったです」と、本調子にはほど遠い内容だった。

 苦しんだ理由はそれだけではない。来田が言う。

「3番を打つようになって、ランナーが出ていなくても自分が出塁してチャンスを広げなければいけないと思って……それが空回りしてしまいました。すべてが悪い方向にいってしまいました」

 主将になり、より責任感が増したこともあるだろう。現在はこれまでの1番に戻り、一からの出直しを誓う。

「自分の役割は塁に出ること。うしろのバッターにつなげるという気持ちがあれば楽に打席に立てるのに……その気持ちがこの秋は薄れていたかもしれません」

 これまで3度の甲子園で3本塁打を放つなど、どうしても長打力に目がいきがちだが、来田が今後こだわっていきたいのは出塁率と打率だ。

「練習試合でもそうでしたが、つい(ホームランを)狙ってしまって、力むことが多かったんです。1番打者なので出塁率と確実性を上げないといけないですし、もっとヒット数を増やしたいですね。長打はほしい場面でしか狙ってはいけないと思います」

 高校生野手で経験値はおそらく世代トップクラスだろう。来田はそれを武器にして2020年を戦う覚悟だ。

「経験がある分、相手から対策を立てられるだろうし、守備でもシフトを敷かれることもあると思いますが、それをかいくぐるような打撃ができるようになりたいです」

 好きな言葉は「豪打一振」。豪快に振り抜き、記憶に残る一打をあの大舞台で──。最強の1番打者を目指し、さらなるパワーアップを誓う。