2019年の全日本選手権は紀平梨花が初優勝した

 紀平梨花の初優勝という結果になった、全日本フィギュアスケート選手権女子。今季シニアデビューしたロシアの3人、アリョーナ・コストルナヤ、アンナ・シェルバコワ、アレクサンドラ・トゥルソワが高難度のジャンプを武器に席巻していることを考えると、やや寂しい結果になった。

 優勝した紀平は、グランプリ(GP)ファイナルでは時差調整に苦しんでショートプログラム(SP)ではミスを連発していた。それでも、フリーでは転倒はしたものの、初めて4回転サルコウに挑戦した。そのファイナルから中1週で全日本選手権というスケジュールは昨季も経験しているが、思い切っていこうという気持ちで臨んで優勝した昨季とは違い、今季のファイナルは強力なライバルが3人いる中で表彰台を期待されていたが4位。肉体の疲労に加え、精神面での疲労も昨季より大きかったはずだ。

 紀平は「これからは、ショートでは連続ジャンプを後半に入れたいと思うし、フリーでは必ず4回転サルコウを入れる構成でやっていきたい」という決意を口にしていたが、疲労もある全日本でその構成を回避したのは賢明な選択でもあった。

 SPでは最初のトリプルアクセルでミスをして73.98点だったが、フリーでは朝の公式練習で調子がいまひとつだったトリプルアクセルの修正に力を入れ、しっかり決めたのはひとつの自信になるだろう。

 また、ふたつ目のトリプルアクセルからの連続ジャンプでは3回転トーループが回転不足になって基礎点を下げていたが、それ以降はノーミスの滑りで合計を229.20点にして優勝。SPとフリーのミスがなければ235点に乗せていた可能性もあり、疲労がある状態でも力は出し切ったと言える。

 それ以外の注目選手たちは、ハードスケジュールだった紀平とは違い、準備期間をしっかり取って仕上げてきたはずの大会だっただけに残念な結果だった。

 宮原知子と坂本花織は、ジャンプに苦しんだ。宮原はSP2位発進だったが、最初の連続ジャンプと最後の3回転ループで回転不足を取られて、70.11点。フリーでは前半の連続ジャンプと中盤の3回転サルコウで回転不足を取られ、基礎点が1.1倍で得点源となる終盤のジャンプは、連続ジャンプ2本を含め、6本のジャンプのすべてで回転不足とダウングレードの判定となり、合計191.43点で4位に下げている。

 GPシリーズ初戦の中国杯ではSPとフリーで回転不足を5本取られながらも、211.18点で2位と踏ん張っていた。だが次のロステレコム杯から若干崩れ、今回はそれがさらに悪化している結果になってしまった。

 昨季全日本選手権を初制覇した坂本花織も、今季はジャンプで苦しむシーズンとなっている。SPはミスを最初の連続ジャンプの回転不足にとどめ、69.95点で3位。だがフリーでは回転不足4本とダウングレード1本、さらにエッジエラーもあって7本中6本のジャンプでミス。118.31点で合計188・26点。6位という結果になった。

 宮原は「練習ではできていたのに、なんで試合になるとできないのかなと思った。技術的には少しずつよくなっている感触はあるので、精神的な問題だと思う」と話す。ジャンプ自体は先シーズンより高さがなく、低くなっている印象もあるが、回転不足を取られていることで自信をなくし、無難にいこうとしているようにも見える。

 また坂本は、チームメイトの三原舞依が病気で休養している影響があるようだ。「近くで同じレベルの選手が練習していると、自分でも負けないようにしようと頑張れるが、今年はひとりでやっていかないといけない。今シーズンは練習が辛くなると止めてしまうという癖がついてしまっていて、それが大事なこの試合で出てしまった」と話す。自分でやり切ったと思える練習ができていない不安が、勢いを欠いたジャンプになってしまっているのだろう。

 宮原と坂本は昨季から表現もこれまで以上に意識するようになり、今季はさらに、つなぎも難しくしたプログラムに挑戦している。宮原は昨季より表現力が数段アップし、難しいプログラムを見事に表現している。また坂本もフリーでは「体をグニャグニャに使うので最初は筋肉痛になっていたし、終盤は駆け抜けるような曲調になるので体力がもたないくらいにきつい」と話していた。そんなプログラム全体への意識も高まったことで、ジャンプへの意識の比重がやや少なくなっているのかもしれない。

 今季、4回転を跳ぶロシア勢がシニアへ上がってくるということで、宮原も坂本もトリプルアクセルの練習に取り組んでいた。ふたりにとって精神的にも肉体的にも負担は大きかったはずで、その影響もあるのだろう。

 そんななか、SP4位発進からフリーで巻き返して2位になった樋口新葉は、ケガで出遅れたこともあって早くからこの全日本に照準を絞り、食事制限をして体重のコントロールに努めてきた成果が出た。

 フリーでは「練習では跳べるようになっていた」と言うトリプルアクセルには挑戦せず、後半の3回転フリップで着氷を乱して連続ジャンプにできないミスもあったが、最後の3回転ルッツに2回転トーループ+2回転ループを付けてリカバリーし、合計206.61点で2位。

 樋口にとって今回の2位は、今後の浮上へのきっかけになるだろう。ただし、ミスが無くても210点台に乗るくらいで、まだまだ完全復活とは言えず少し物足りなさも感じる。とくにフリーは前半かなり慎重で、持ち味である躍動感にやや欠ける滑りになっていた。それでもジャンプがすべて終わったあとのステップでは、彼女らしいスピードあふれる滑り。そんな攻めの滑りができるようになれば本格復活と言える。また、トリプルアクセルを組み込めるまでの自信を持てるようになれば、その滑りもガラッと変わってくるはずだ。

 今回の全日本の結果、世界で戦える力を見せたのは紀平のみと言える。復調してきた樋口は勢いのある滑りを取り戻せばまだ点数を伸ばしていく可能性はあるが、宮原と坂本はどれだけジャンプを取り戻していけるかがポイントだろう。来季へ向けてトリプルアクセルも必要になってくるが、まずは現在の構成で自信を取り戻せる演技をするのが、復調への第一歩となるはずだ。

 一方、12月25日からのロシア選手権は、予想どおりすさまじい結果になった。ロシア国内の大会のジャッジで少し判定は甘めとはいえ、SP、フリーの合計で261.87点を獲得したアンナ・シェルバコワと、美しい演技で259.83点を出したアリョーナ・コストルナヤの結果を見れば、とても勝てそうにないとさえ思えてしまう。

 さらにアレクサンドラ・トゥルソワは、フリー最初の4回転2本で転倒し、そのあとの4回転トーループが2回転になるミスをしながらも、その後のジャンプで十分に加点を獲得し、合計で226.34点。その精神力の強さは脱帽するほどだ。

 それ以外の結果を見れば、エリザベータ・トゥクタミシェワが4回転トーループでミスをして204.63点で続く状況。フリーを棄権したエフゲニア・メドベデワも復調の気配を見せており、ロシア選手権SPは71.08点と上位争いの範囲にいる。

 ロシアの上位3人を意識しなければいけないというのは絶対条件としてはあるが、まずはしっかり足元を固めていくことが世界と戦うためには最も重要なことだろう。