今年を締めくくる戦い、全日本選手権(全日本)団体戦が鹿児島の地でついに開幕した。フルメンバーで今大会に挑んだ男子エペ団体は、危なげない試合運びを見せ決勝に進出する。しかし自衛隊体育学校に敗れ、栄冠にあと一歩及ばなかった。同時に行われた女子…

 今年を締めくくる戦い、全日本選手権(全日本)団体戦が鹿児島の地でついに開幕した。フルメンバーで今大会に挑んだ男子エペ団体は、危なげない試合運びを見せ決勝に進出する。しかし自衛隊体育学校に敗れ、栄冠にあと一歩及ばなかった。同時に行われた女子フルーレ団体は、準々決勝で日大との接戦を白星で飾るなど、選手それぞれが実力を発揮。こちらも決勝にコマを進めたが、日体大に屈し2位となった。しかし、両種目ともに好結果を収めた一日となった。

★王者の壁は高く…将来へとつなぐ2位(男子エペ団体)

 これまで圧倒的な強さを見せてきた早大エペ団体。初戦を突破し、準々決勝の専大戦に挑んだ。全日本学生王座決定戦(王座)の再現と行きたいところだが、第4セットまでリードを許すまさかの展開に。その中、続くセットに登場した加納虹輝(スポ4=山口・岩国工)は剣を自在に操り、相手を粘り強くかく乱。このセットだけで12点を挙げ、逆転に成功する。流れを完全につかみ、そのまま勝利を収めた。準決勝は昨年の全日本準優勝チームの中大を破り、勢いに乗る慶大との一戦。慎重な展開から、流れを変えたのはまたも加納。「自分が点数を取りに行くつもりでいた」(加納)と相手を翻弄(ほんろう)し点差を広げると、第7セットで安雅人(スポ4=茨城・水戸一)がタイミング良く仕掛け8連取。終わってみれば45-21の完勝で、決勝進出を果たした。

 舞台を垂水市文化会館に移し、迎えた決勝。相手は3年連続日本一を目指す自衛隊体育学校。第1セットは増田陽人(商2=岡山大安寺中教校)がチャンスを生かし勝ち越しを決めると、互角の戦いを披露。決勝にふさわしいハイレベルな戦いを繰り広げる。しかし第5セット。日本代表の山田優に対し、安は積極的にアタックを仕掛けるが、得点に結びつかない。「後手後手に回ってしまった」(安)と相手のプレッシャーに押され、大きくリードを許す。その後も積極的に攻めていくが、12点差で最終セットに。日本代表同士の激しい攻防の中、加納は相手のマッチポイントから最後の意地を見せるように4連取を挙げる。昨年のリベンジとは果たせずも、最後まで望みは捨てなかった。


決勝戦で山田優と対戦する加納(左)

 「チームに申し訳ないなと思う気持ちだけです」。決勝戦後、悔しさを押し殺し安はこう語る。早大史上屈指の実力を誇るチームが見据えていたのは「5冠」。しかし、全日本学生選手権(インカレ)、今大会とプレッシャーのかかる大舞台で勝てず。「1点1点を積み重ねていく」(加納)団体戦の厳しさを痛感し、一年の挑戦は幕を閉じた。今大会で早大生としての出場を終えた加納と安。早大を支えた2人は、五輪のメダルを目指し今後も競技生活を続けていく予定だ。ラストイヤーは順風満帆ではなかったが、かけがえのない経験を胸に次のステージにはばたく。

★鹿児島の地で取り戻したチームワーク(女子フルーレ団体)

 プレッシャーから解放され、チームには安堵の表情が見てとれた。2回戦を勝利で終え、この日のヤマ場となった準々決勝。相手の日大は関東学生選手権(関カレ)で一度敗れていた。試合序盤は溝口礼菜(スポ3=千葉・柏陵)が8得点を挙げたのを皮切りにチームも奮起し、流れを引き寄せる。だが中盤は相手の攻勢に押され、取りつ取られつの展開に。互いに持ち味を発揮し、3点リードで迎えた最終セット。溝口が出方をうかがうも、残り1分を切ったところで同点にされてしまう。ここで「皆がつなげてくれたので、勝つのが役目」と気持ちを入れなおした溝口は、その直後に点を取り返すと、守りながら点を重ねる粘りのプレー。緊張のかかる場面で逃げ切りに成功し、接戦を白星で飾った。


日大戦後、ハイタッチを交わす溝口

 準決勝は昨年の全日本で敗れた警視庁と対戦。第2セットで遠藤里菜(スポ3=群馬・高崎商大付)が逆転に成功すると、得点を取れる場面を逃さず、相手を寄せ付けない試合運びを披露。終盤に追い上げを受けたが、十分なリードもあり最後まで伸び伸びとプレーし、1年越しのリベンジを果たした。決勝の相手は絶対王者・日体大。6月以来の再戦となった難敵を前に、早大は苦しめられる。「自分がやらないといけないことをできたかなと思うのですが、取りきりたいところで取れなかった」(狩野央梨沙、スポ1=宮城・常盤木学園)。追い付けるチャンスで一本が出ないまま、時間が進む。後半は相手のペースに飲まれ、スコアを引き離されてしまった。溝口が最後周りで7得点を挙げる猛攻を見せるも、反撃もここまで。『打倒日体』の難しさを改めて思い知らされた格好となった。


決勝戦の狩野

 「今回はすごくいいチームワークができていた」。決勝戦後、明るい表情で溝口はこう語る。負けてもおかしくなかった準々決勝、準決勝での勝利。常に目標と位置付けてきた日体大との再戦と結果以上に得られたものは大きい。この一年、早大はチームとしての試合運びに悩まされた。関東学生リーグ戦(リーグ戦)以降は結果が出ず、苦悩の中で迎えた今年最後の試合。好成績で終えた一年を来年にどうつなげていくか。『勝ちたいと思う気持ち』を来年は思う存分ぶつけたいところだ。

(記事 小原央、写真 大島悠希、関飛人)

※フェンシングの団体戦は3人、または4人の選手が交代で出場し、1試合当たり3分という持ち時間内で争う。あるいは3分以内にどちらかが先に5得点先取すると、そこで次の選手に交替となる。最終的には9試合戦い、45点を先取、または持ち時間が終了した場合は得点が高い方が勝ちとなる。

※フルーレ:頭・両足・両腕を除いた胴体部への突きのみが得点となる。 両者がほぼ同時に突いた場合は、どちらの攻撃が有効だったかを主審が判定する。また、先に攻撃をした方が「攻撃権」を持ち、防御側は攻撃を防御してから攻撃しなければならない。

※エペ:全身が有効面となる上に、両選手が同時突きをすると両者にポイントが与えられる。より慎重な攻め方が求められるため、時として両者が睨み合ったまま時間が過ぎることは稀な話ではない。

結果

▽男子エペ団体

早大[加納虹輝(スポ4=山口・岩国工)、安雅人(スポ4=茨城・水戸一)、増田陽人(商2=岡山大安寺中教校)、金髙大乘(社1=香川・高松北)] 2位

2回戦:◯45―20 愛工大名電高

準々決勝:◯45―29 専大

準決勝:◯45―23 慶大

決勝:●35―45 自衛隊体育学校

▽女子フルーレ団体

早大[遠藤里菜(スポ3=群馬・高崎商大付)、千葉朱夏(スポ3=岩手・一関第一)、溝口礼菜(スポ3=千葉・柏陵)、狩野央梨沙(スポ1=宮城・常盤木学園)] 2位

2回戦:◯45―27 和歌山北高

準々決勝:◯35-32 日大

準決勝:◯44-36 警視庁

決勝:●35-45 日体大

コメント

加納虹輝(スポ4=山口・岩国工業)

――今の率直な感想を教えて下さい

最低限の目標はクリア出来たかなと。自衛隊体育学校に負けたのは悔しいですが、悪くはなかったかなという感じです。嬉しくもなく、悔しくもなくというのが率直な気持ちです。

――早大として出場するのは10月以来でしたが、振り返ってどうでしたか

今大会が早大として試合をする最後の機会でした。(早大として試合に出場した)数は少なかったですけど、純粋に楽しかったです。

――準々決勝、準決勝ともに接戦の状況で回ってくることが多かったですが、意識していたことはありますか

自分が点数を取りに行くつもりでいました。出番がロースコアで且つ接戦で回ってきたので、点数の取れる幅が広がってくれて、むしろ感謝してたぐらいです。

――決勝の相手は昨年準決勝で敗れた自衛隊体育学校でしたが、何か意識した点はありますか

個人としては、とにかく1点1点を積み重ねていくということだけです。チームとしては、「頑張ってくれ」としか言うことはできないですし、一人一人が全力を出すということを意識しました。

――早大での4年間を振り返ってどうでしたか

楽しい部活でした。仲が良いので、早大として試合に出場することも楽しかったですし、本当にあっという間の4年間でした。

――これからの競技人生に向けて意気込みをお願いします

今はオリンピックレース真っ最中で、1月から3月は大事な試合が多くあるので、まずはそこでしっかりと結果を残して、東京五輪の出場権を獲得したいです。そして、東京五輪ではメダルを獲るということを成し遂げたいと思っています。

安雅人(スポ4=茨城・水戸一)

――今の率直な感想をお聞かせください

チームに申し訳ないなという気持ちだけです。

――今日はリザーブに回ることが多かったと思いますが、その意図はなんでしょうか

自分と金髙(大乘、社1=香川・高松北)で相性のいい選手を見極めながら、交代交代で戦っていこうという感じでした。

――チームは大会を通して前半は流れに乗れない展開が多かったですが、どう見られていましたか

最初はお互い様子見みたいな感じで、2周り目、3周り目で相手を見極めて勝負できたというところで、流れを持っていけたのかなと思います。

――安選手は準々決勝、準決勝と順調に点を重ねたように見えました。振り返っていかがですか

自分の前に出た選手が、いい得点をいっぱい取ってきてくれるので、自分もその流れに乗りたいなと思っていました。

――決勝戦は昨年に敗れていた自衛隊体育学校でしたが、何か意識していたことはありますか

普段一緒に練習している人たちなので、特に対策というところはなかったんですけど、負けました。

――その試合ですが、山田優選手に対してアタックを決めきれなかった要因はどこにあるでしょうか

僕が相手に対して委縮してしまって、後手後手に回ってしまったのがアタックが届かなかった原因かなと思います。

――卒業後はフェンシングを続ける予定でしょうか

続ける予定です。

――具体的な目標は

パリ五輪に出場して、メダルを取りたいです。

――最後に、早大での4年間を振り返っていただけますか

大事なところで毎回僕が負けていたので、あー最悪だなと今思っています。でも楽しい部活でいい思いもたくさんさせてもらったし、今みたいな悪い思いもたくさんさせてもらったので、この経験をどんどん先に先につなげていけたらいいなと思います。

溝口礼菜(スポ3=千葉・柏陵)

――今大会の目標はどのように定めていましたか

目標は優勝だったのですが、結果は2位でした。

――大会前はどのような調整をしてきましたか

皆で話し合い、1試合9セットを決勝までの全試合、細かくやってきたことが(決勝まで来れた)勝因かなと思います。そのように進んで良かったと思います。

――想定通り進んだかたちですか

想定を低くしておいて、それよりも差が小さかったり、点差を離すことができていればラッキー、ラッキーと。(気持ちが)沈まないように、最悪の想定をして臨んでいました。

――準々決勝では日大に関東学生選手権のリベンジを果たすことができましたが

日大のエースがけがをしていて久しぶりに(試合に)出てきたのですが、そこで最後緊張してしまいました。皆がつなげてくれたので、勝つのが役目だと思い、足がちぎれるくらいに頑張りました。ここで勝たないとその先はないと思って、皆がつなげてくれたので、自分なりに一生懸命頑張りました。

――競った展開で最後自分の番が来ましたが、どのような心境でしたか

プラスで回してくれたので、それを守ればいい。気持ちは負けてなかったと思うので良かったと思います。今までは怖いなと感じる部分があったのですが、1年生からずっとやってきたのがやっと慣れて、皆が積んできた点を守り切ることができたと思います。

――32ー32と同点に追い付かれた場面で焦りはなかったですか

焦りました。

――その場面、気持ちの面で切り替えをしましたか

そこで焦って安い技をすると相手にやられてしまうので、そこはしっかりと動いて頑張ろうと思いました。

――競った展開で勝てた最大の要因は

気持ちが大事だと思うので、色紙にも書いた『勝ちたいと思う気持ち』しか意識してないです。そこが勝っていたから、勝てたと思います。

――決勝では6月以来久しぶりに日体大との対戦となりましたが

リーグ戦、王座よりも点差はなかったですし、内容も良かったのですが、最後10点差も付いて負けるというのはまだまだ個人の実力が相手よりも伴っていないことが分かりました。あとは個人のスキルを上げて、去年3位で今年2位といい感じできているので、来年は主力が4年になるので最後集大成として1位を取れるように。一人一人の個人スキルを上げ、チームワークもつくっていって、頑張っていきたいと思います。

――その中で決勝の戦いを振り返って

最後攻められなくて。10点差は開いていたのですが、そこで勝つ計算をしていれば、本当に可能性は低いですがあったのかなと終わってから思いました。

――最後に今年一年を振り返って

個人としては大会を2位で終えることが多く、1位を最後まで取れなかったことが悔しかったので、誰よりも努力して頑張りたいと思います。努力が人よりも足りないとトレーナーさんからも言われたので、誰よりも努力をして1位を取りにいきたいと思います。団体としては、今回すごくいいチームワークができていたと思います。(今回は)波も合って。何故良かったのかを話し合い、来年につなげていきたいと思います。チーム的にはいいかたちで終われたと思います。

狩野央梨沙(スポ1=宮城・常盤木学園)

――今の率直な気持ちは

悔しい気持ちは勿論あるのですが、ここまで来れたのはうれしいです。

――きょうの調子はどうでしたか

個人的には良くなかったのですが、自分の役目を果たすことができて良かったです。

――その中で日大戦を振り返って

日大戦は自分がやらない仕事をやれた部分もあるのですが、課題としては団体戦としてのつなげる仕事が、あまりできなかったです。

――準決勝では相手に追い掛けられる場面もありましたが

相手がくることを分かっており、対策もしていたのですが、焦ってしまったのでうまくいかない場面もあったかなと思います。

――決勝の日体大戦を振り返って良かった部分は

最後の試合だったので自分がやらないといけないことをできたかなと思うのですが、取りきりたいところで取れなかったのが課題かなと思います。

――日体大戦の中で勝負を分けた場面を振り返って

真ん中の伊達(京、2年)さんとの試合は自分がもっと取らないといけない場面であったと思うので、そこで流れをつくれなかったことは勿体なかったと思っています。

――最後に今年一年を振り返って

リーグ戦から団体戦までやってきて、早稲田の雰囲気に徐々に慣れていくことができて、最終的にこのような結果になることができたことは個人的にも全体的にも良かったと思います。