12月18日、代々木第一体育館。本田真凜(18歳)は、赤い長袖のトレーニングシャツと黒いパンツと黒い手袋でリンクに入ってきた。両腕を真っ直ぐ上にして、全身を伸ばす。それだけの仕草で、体のしなやかさが伝わる。一つに束ねた髪が、ゆらゆらと揺れた。



全日本選手権の公式練習に臨む、本田真凜

 全日本フィギュアスケート選手権の公式練習。本田は、静かに一つ一つの動きをゆっくりと確かめていた。ステップはきれいな線を描き、指先が見えない線を引く。練習中、3回転フリップで転倒するなどジャンプが乱れる場面はあったが、本人は落ち着いていた。リンクサイドに戻ってコーチの指示を熱心に聞くと、意を得たような表情に変わって、すぐさま連続ジャンプを成功させている。

「明日(から開幕する全日本)の試合に向けては、いい調整ができていると思います」

 取材エリアに出てきた本田は、丁寧な口調で話している。

「プログラムを通しで何度も練習してきました。(たとえば)リカバリーのところ、最初(に連続ジャンプを)つけられなくても、(あとで)どこでつけるとか。いい演技が練習でできるようになってきました。国内大会は苦手意識があったんですが、(全日本前に)2週連続で国内の試合に出られて、自信を持って自分のためにいい演技を、と思っています」

 全日本で、本田は大輪の花を咲かせるのか?

 今シーズン開幕を前にしたインタビューだった。

「自分はまったくこういうのがなくて」

 本田はそう言って、右手で波を作った。指先まで軽やかな腕の動きは、本当にその場に波を作り出したように錯覚させた。

「よかったときはすごくうれしいです! でも、よかったときも、悪かったときも、(性格的に)すぐ過去のことになっちゃう。ショート、フリーがあると考えた時に、切り替えという部分ではいいと思いますけど。もうちょっと、よかったことも悪かったことも、自分の中で残していかないと」

 本田は天才的な選手と言われてきた。感覚的と言うのか。誰よりも飲み込みが早かった。

 ジュニア1年目の2016年、世界ジュニア選手権でいきなり優勝している。2017年も、五輪女王になるアリーナ・ザギトワに敗れたものの、自己記録を更新して2位だった。同シーズンには、全日本選手権でジュニア選手ながら4位になっている。

「昔は、人が何回もやってできることを、自分の中で結構すぐにできてしまって」

 本田はそう言って、冷静に自分を見つめていた。

「でも、できるのがいいことではなくて。すぐにできるから、コツコツ習得した選手よりもジャンプが安定しない、というのがあって。今は体の成長とともに、”感覚的な部分の貯金はゼロ”と思ってトレーニングしています」

 2017-18シーズンにシニアデビュー後は、辛酸をなめることになった。平昌五輪出場を逃し、グランプリシリーズも不調。大きな失意を味わった。

 そこで、2018年4月から拠点をアメリカに移した。世界王者ネイサン・チェンも指導するラファエル・アルトゥニアンの教えを受ける。高校生の少女にとってホームシックがないはずはなかったが、スケートのために自らの生き方を決断した。

 その後も、万事順調というわけではない。

 2018-19シーズン、全日本では過去最低の15位だった。時差調整にも失敗。日本に戻ってから練習するリンクがなく、朝4時から1時間だけの練習で臨まざるを得なかったという。

「技術的な部分の準備なのか、気持ちと体にズレがあって。(昨年の)全日本は気持ちも落ちていて。試合でいい演技をするイメージがまったくわかなかったです」

 しかし、苦しみの中で希望を見出しつつある。

 今シーズン、グランプリシリーズ第2戦のスケートカナダでは、タクシー乗車中に事故に遭い、心身ともに厳しい状況だった。しかし凛然とした演技を見せ、世界中から称賛された。第4戦の中国杯も、フリーではジャンプのミスが出た。ただ、スピン、ステップはレベル4を獲得し、技術的な仕上がりのよさは見せている。スコアには出ない成長の跡が見えた。

 全日本は、一つの成果を見せられる格好の舞台だ。

「気持ちが大切」

 本田は大勢の記者たちを前に、そう繰り返している。

「今年は自分の演技が戻ってきた感覚があるので。そこでさらに、ジュニアよりよくなった部分も出せればいいなと思っています。不安な部分が少しもないくらいの練習をしてきたつもりなので。あとは試合でおどおどしないように。気持ちの問題だと思うので、試合を楽しむことができたらいいなって思っています。しばらく、楽しめていなかったので」

 滑りを楽しむことができた時――。本田は艶やかに咲き誇るはずだ。