日韓戦に敗れると、毎度、お約束のように指摘されるのが精神論だ。日本は腰が引けていた。闘争心が足りない。代表選手としての意識で韓国に劣っていた……。 E-1選手権第3戦。釜山のアジアード競技場で行なわれた今回の日韓戦も例外ではなかった。結果…

 日韓戦に敗れると、毎度、お約束のように指摘されるのが精神論だ。日本は腰が引けていた。闘争心が足りない。代表選手としての意識で韓国に劣っていた……。

 E-1選手権第3戦。釜山のアジアード競技場で行なわれた今回の日韓戦も例外ではなかった。結果は0-1の敗戦。しかし、0-2あるいは1-3、一歩間違えば1-4もあったかも、と言いたくなる惨敗劇だった。試合後の会見では、森保一監督に対して、真っ先にその手の質問が向けられた。「日韓戦を戦う精神的な準備がチームとしてどれほどできていたのか」と。



韓国に敗れ、うつむく佐々木翔ら日本代表イレブン

 森保監督はこう返した。

「選手には、技術、戦術の前に球際の戦いがあると伝えました。選手も覚悟を持って闘ってくれましたが、韓国に上回られたということだと思います。日本が引き分けでも優勝という状況で、韓国は激しく厳しく圧力をかけてくることは予想できたこと。そこで上回れなかったということは、準備がうまくいかなかったことになる。監督として反省しています」

 敗戦の責任は自分にあるとした。しかし、別の質問にはこうも答えている。

「引き分け狙いではなく、アグレッシブにいくことを共有して選手をピッチに送り出しました。ですが、少しタイミングが遅れたり、強度が足りなかったりしたために、局面で上回られてしまった。この強度に打ち勝つことと、技術を生かしていくことの両方を兼ね備えていなければ、国際大会では戦えない」

 気がつけば、選手に責任があるように話は変わっていった。そして最後は「選手ができなかったということは、私の伝え方が悪かったということなので、監督として反省しなければいけない」とまとめた。自らの反省点は抽象的で、選手への要望は具体的だった。

 森保監督が考える敗因は、日韓戦に敗れるたびに登場するものと、概ね一致していた。一方で、その過程のなかで出た「森保式3バックの両サイドが狙われたのではないか」との問いには、「韓国のサッカーは3試合ともスカウティングした。戦術的に後手を踏んだとは思っていません」と、珍しくキッパリと答えている。

 しかし、相手の韓国も森保ジャパンのサッカーをスカウティングしているのだ。実際、韓国代表のポルトガル人コーチは、過去2試合、筆者の真横で日本の戦いぶりを注視していたのだった。

 このコーチは日本の戦いぶりを見て、パウロ・ベント監督に何を進言するつもりなのか。興味を抱きながら、その姿をチラチラ眺めながら観戦していた。そしてこの日、日本戦の開始早々から繰り出した韓国のサッカーを見て、「そりゃそうだろうな」と、その出方に思わず納得させられた。

 韓国は、日本の3バックの脇、ウィングバック(WB)の後ろで構える4-3-3の両ウイング、ナ・サンホ(左)、キム・インソン(右)目掛けて、ラフなボールをボカンボカンと蹴り込んできたのである。日本のWB、遠藤渓太(左/横浜F・マリノス)と橋岡大樹(右/浦和レッズ)を最終ライン付近まで押し下げ、3バックを5バックにしてしまえ--との戦法は、欧州で守備的な3バックが衰退した経緯をたどれば、定石と言っていい。イロハのイになる。

 美しくはない戦法だが、森保式3バックには効果は抜群だった。これでピッチには、韓国の3FWに、日本が5バックで対応する図が鮮明に描かれることになった。従来の4-2-3-1なら、相手の3FWに対して4人で対応するところを、1人多い5人で対応すれば、その前のエリアは5人(日本)対7人(韓国)になる。日本の最終ラインで余剰が2人あれば、皺寄せはその前方にいく。

 最終ラインでボールを跳ね返しても、相手に拾われる確率が高いのである。この関係(5対7)は、立ち上がりから続いた。しかし、森保監督は会見で「戦術的に後手を踏んだとは思わない」と、強気を張り、これを認めなかった。

 球際が弱いとか、強度が足りないとか、日韓戦を戦う心構えができていないとか、いろいろと言いたくなる気持ちはわかるが、そう見えてしまった原因の多くは、この5対7の関係に起因する。ボールを奪えない最大の理由は、選手の気合い不足にあったわけではない。競り合いで強度が足りないように見えてしまったのも、数的不利に基づく、その非効率性に原因がある。

 田嶋幸三サッカー協会会長は試合後「試合の入り方を誤った……」と嘆く一方で、森保采配については問われると、「このやり方を浸透させる過程の話」と、不問に付した。それは本心なのだろうか。

 筆者も日本人なので、局面で後手を踏んでいる日本の選手を見ると、つい感情的になりブツブツ言いたくなることもないではないが、そちらに重きを置きすぎると、ことの本質を見失う。 

 たとえば、遠藤、橋岡の両WBは、自分の背後を狙われていることに気がつけば、プレーが消極的になるのは当然だ。「アグレッシブにいけ」(森保監督)は、まったくもって無理な注文になる。

 中盤の選手がセカンドボールを拾っても、瞬間、攻める人数及びパスコースが少ないので、プレーに余裕がなくなるのも当然である。相手に競り合いを挑まれ、ボールを失いそうになった時、サポートが近くにいれば、失いかけたボールを奪い返し、連続プレーにすることはできるはずだ。

 今季のJリーグで、横浜F・マリノスが、森保的3バックのチーム(終盤に対戦した北海道コンサドーレ札幌など)と対戦した時も、これとまったく同じ絵が描かれていた。WBは最終ラインに長い時間、取り込まれることになった。札幌の場合で言えば、左WBの菅大輝がそうだった。

 今回の韓国戦で、その菅の二の舞を演じたのは左WBの遠藤だ。前半であえなく交代の憂き目にあったが、皮肉な結果とはこのことだ。せっかく高い位置に駆け上がっても、サイドは遠藤ただひとりなので、サポートはなし。2シャドーの左、森島司(サンフレッチェ広島)は、遠藤と1トップの上田綺世(鹿島アントラーズ)を結ぶ直線の間が定位置なので、3選手は一直線上に構えることになる。3選手が三角形(パスコースが多くなる)を描くことができない。1人で突破しろと言われているようなものなのだ。

 森保監督は3バックも4バックもどちらもできる選手を選んだという。遠藤もそのひとりなのだろうが、韓国のようなチーム(横浜FMのようなチーム)を向こうに回すと、それは難しくなる。とくにWBは厳しくなる。

 右の橋岡、後半交代で入った相馬勇紀(鹿島)は終盤、頑張って大外から勝負を仕掛け、何本かクロスを放り込むことに成功していた。しかし、世界でベスト16を狙おうとしている代表チームに、大外からクロスを蹴り込むようなサッカーをしているチームはない。チャンピオンズリーグでも同様だ。レベルの低いサッカーを象徴する前時代的プレーと言っても過言ではない。Jリーグでさえ、もはやこんなサッカーを目にする機会はなかなかない。周囲とのコンビネーションプレーで崩そうとするのが常識だ。2トップにロビン・シモビッチ(大宮アルディージャ)級の長身が並んでいるならいざ知らず。

 後半、2シャドーの一角、鈴木武蔵(札幌)と交代で投入された横浜FMの右ウイング仲川輝人も、香港戦同様、まったく輝けなかった。森保監督は仲川を3バックも4バックも両方できる選手だと認識しているのだろうか。橋岡の前に右ウイングとして貼らせたほうが、100倍力を発揮するとは思わないのだろうか。

 今回、招集したフィールドプレーヤー20人のなかで、森保的3バックを敷いているチームに所属している選手は何人いるだろうか。3分の1程度にすぎない。Jリーグの1位から4位までは、オーソドックスな4バックのチームだ。それらのチームに所属する選手にとって、森保的3バックは特殊な戦法に映るはずだ。

 そんなメンバーが多数を占める中で、チームをリードしていかなければならないのは、まずはキャプテンの佐々木翔(サンフレッチェ広島)ということになる。しかし、彼は自分のプレーに精一杯だった。いろいろな意味で主将は荷が重すぎる。

 ガンバ大阪のサッカー(3-3-2-2的)が森保式にどこまで近いかは微妙な問題だが、所属する中盤の井手口陽介も、活躍できなかった選手のひとりになる。2シャドーを務めた鈴木、森島しかり。普段からそのポジションでプレーしているにもかかわらず、チームを牽引することができなかった。

 Jリーグは、他国のリーグに比べて森保式(5バックになりやすい守備的な)3バックを敷くチームが占める割合が高いが、最大公約数はやはりオーソドックスな4バックだ。世界的には少数派のこのサッカーを、森保監督はなぜ好むのか。さらに言えば、「戦術的に後手を踏んだとは思っていません」と、敗因にすることを避けるのか。

「アグレッシブにいけ」といくら言われても、最終ラインに5人が並ぶサッカーで、それを実践することは無理なのだ。筆者は就任当初から言い続けているが、この問題をクリアにしない限り、森保ジャパンはもたないと見る。