宮司愛海連載:『Manami Memo』 第7回

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フジテレビの人気スポーツニュース番組『S-PARK』でメインキャスターを務める宮司アナの連載『Manami Memo』。第7回は前回に引き続き、「全日本フィギュアスケート選手権」の中継で男子シングルの実況を担当する西岡孝洋アナとの対談。



『全日本フィギュア』について語った宮司アナと西岡アナ

宮司 フィギュアスケートに携わってから16年の積み重ねがあると言っても、西岡さんのお話には過去のことが鮮明に出てきますよね。どうしてそんなに覚えていられるのかって思うほどです。(※詳しくは前回を参照)

西岡 ほかのことは忘れがちなんだけど、フィギュアスケートは特別。きっとそのシーズンや大会に至るまでのストーリーを覚えているからだと思う。全体を1本のフィルム映画のように覚えているところもあるから、選手がどういうスケートをしたかも浮かんでくるのかな。

宮司 思い入れが強くても、なかなかできることではないですから(笑)。さて今回、いよいよ全日本フィギュアスケート選手権が始まります。どんな演技が記憶に残る大会になるのか楽しみですよね。

西岡 今年のような全日本フィギュアスケート選手権は、最初で最後かもしれないと思う。まず羽生結弦選手が戻ってきたこと。そこで世界トップレベルの宇野昌磨選手と争う。加えて、一時代を築いた髙橋大輔選手が、シングル最後の試合に挑む。

(世界選手権出場への)代表争いも充実していて、田中刑事選手、友野一希選手、山本草太選手といて、島田高志郎選手もいる。これだけでもすごいことなのに、鍵山優真選手と佐藤駿選手というジュニアの素晴らしい才能を持つ選手もいる。

宮司 そうですよね。先日行なわれた全日本ジュニア選手権の中継を担当したのですが、佐藤選手は本人的に不本意な演技だったようなので、「全日本選手権では」という想いは強いようです。もちろん先日のジュニアグランプリファイナルでの素晴らしい演技もありますし、より楽しみです。

西岡 髙橋大輔選手がシングル最後の大会に、ジュニアの2人がいるのが、時代の転換期になる気がしてならないんだよね。そこにオリンピック2連覇の羽生選手もいる。こんな全日本フィギュアスケート選手権は、僕がしゃべったなかでは記憶にないし、10年後に振り返った時に、「あの時のメンバーはすごかった」となる大会だと間違いなく思っている。

宮司 だからこそ、ジュニアの選手にも注目してもらいです。中継をご覧になる方の多くは、羽生選手や髙橋選手、宇野選手に目が行くと思うのですが、5年後、10年後の日本のフィギュアスケート界を背負っているのはジュニアの選手たちですから。

西岡 そのとおりだと思うよ。鍵山選手と佐藤選手のライバル・ストーリーは、ここから5、6年は続いていくかな。

宮司 ふたりともまだ高校1年ですからね。

西岡 北京五輪の次のオリンピックは、2026年。ふたりともその頃にピークを迎えていると思うし、彼らは日本男子スケートの未来を照らす新しい力だと思う。

宮司 そのふたりが、これまでの日本男子の礎を築いてきた髙橋選手や羽生選手と同じリンクで滑る。すごいストーリーですね。西岡さんは、若い選手を伝える時に注意していることはあるんですか? あまり大きな期待をかけすぎるとプレッシャーになる可能性もあるかなと考え始めると、どんな言葉を使えばいいのか悩んでしまうこともあって。

西岡 あまり追い込んだ言葉は使わないようにしている。例えば「勝負の全日本」という言葉は代表争いの選手には使うけど、これから羽ばたく選手たちには使わない。「期待の」とか「これからを担う」とかの明るくポジティブな単語を選び、そこに自分が思っていることをプラスして言うようにしている。

 2014年のソチ五輪代表選考会の全日本フィギュアスケート選手権の時に、トップ選手に混じって当時16歳でジュニアだった宇野選手がひとり入っていて。僕は、彼が4年後には主役になると思っていたので、「4年後に同じようなプレッシャーを経験することになるから、彼にとっても大きな大会です」という紹介をしたんだ。4年後の平昌五輪の時には、「よかった、間違えなくて」と安堵した(笑)。

宮司 そのシーズン、その大会のことだけではなくて、4年後や8年後にどんな選手になっているのだろうと想像しながら取材したり、実況したりというのも大事なんですね。

西岡 選手一人ひとりの気持ちになって考えるのも醍醐味だろうね。宮司は女子選手を取材しているけど、今年はどういうところに注目しているの?

宮司 紀平梨花選手が気になっています。グランプリシリーズやグランプリファイナルで、ロシア勢が次々に4回転を跳ぶようになっている。男子もそうですが、誰かが難しいジャンプを跳び始めると、それに引っ張られて次々に跳ぶようになる。紀平選手も、次いつ本番の舞台でチャレンジするのかに注目しています。

西岡 紀平選手はトリプルアクセルを跳べて、樋口新葉選手もこの前すごく綺麗に跳んだトリプルアクセルをインスタに載せていたけど、他の選手もトリプルアクセルは跳ばなきゃいけない時代になってきたよね。そのなかで迎える今回の全日本フィギュアスケート選手権は、戦略的にすごく面白い大会になる予感がしている。

 紀平選手の場合は4回転サルコウとトリプルアクセルで勝ち切る作戦になると思うけど、他の選手たちは何で勝負をしてくるのか。

宮司 宮原知子選手は表現力というところに勝負をかけているでしょうね。

西岡 そう。じゃあ、坂本花織選手は何が彼女にとって大事にしている武器なのか、樋口選手は(日本の)代表に戻るために何のジャンプを入れるのか。女子は選手それぞれのフィギュアスケートへの考え方が鮮明に浮かび上がる大会に今回はなるんだと思う。

宮司 4回転に挑戦する選手も出てきてほしいですね。

西岡 そうだね。取材したなかで印象的だったのが、ある男子選手は4回転ジャンプを難しいものにしていたのは、自分たちだって言うんだよね。「4回転ルッツなんて絶対に無理」と思い込んでいて、誰もやろうとしなかった。だけど、ひとりが成功したことで、自分たちも挑戦してみたらできちゃった。

 いま女子選手でロシア勢だけが4回転を跳ぶのは、彼女たちは跳べて当たり前という感覚があるからなんだろね。それを外側から見ている日本選手たちは、大きな壁を感じていて、4回転は男子しか跳べないという思い込みがある。その壁を誰が壊すのか。

宮司 日本の女子選手たちは分岐点にいますよね。

西岡 もっと言えば、海外の選手も含め女子は競技としての分岐点を迎えていると思う。今は4回転を跳ぶのは16歳くらいの選手たち。だけど、女子選手は体型の変化があるから、どうしても18歳くらいからはジャンプで苦労する。

宮司 女性として成長していくうえで、どうしても体型は変化しますからね。

西岡 もし20歳くらいになっても女子選手が4回転をガンガン跳ぶ時代が来るなら、女子フィギュアは新たな時代に突入していくのだろうなって思う。

宮司 女子に比べれば、男子はすでに分岐点を過ぎて新たな時代になってきましたよね。

西岡 そうだね。男子はネイサン・チェン選手が登場したことで、羽生選手の意識がシフトアップして、どんどん変わっている。この先がどうなるか見えない部分があるくらい。

宮司 なるほど。そういった視点は、勉強になります。

西岡 いやいや(笑)。

宮司 そういう視点を教えてもらうと、今年の全日本フィギュアスケートが例年以上に魅力的で見逃せない気持ちになりますし、私もそのすごさを中継の随所で伝えていきたいと思います。

西岡 シングルに出場する男子30選手、女子30選手には目標に向けてやってきたドラマがある。この舞台にかける彼らのすごさみたいなものを、我々が言葉で伝える。そこがこの大会の一番の醍醐味だと思う。いまのシステムだと僕は上位選手だけを担当しているけれど、本当は順位に関係なく担当したい選手が数多くいるんだよね。

宮司 それは取材を通じて選手一人ひとりの歩みや思いを知っているからこそですね。

西岡 そういう気持ちにさせてくれるものが、フィギュアスケートにはあるんだよね。

宮司 まだ私は28歳で、比較的選手とも年が近い部類だと思うんです。取材をしていると、どんどん年下も増えてきたんですけど、親目線みたいになることはまだなくて。選手に寄り添うのが取材で一番大事なこととわかってはいるし、そうできるように仕事をしているんですけど、なかなか難しい。そういう感覚を持っている西岡さんが、私はすごいなと思うんです。

西岡 親目線という感覚はないけどね。やっぱり全日本フィギュアスケート選手権に出るってすごいことじゃない。僕の高校時代は弱小ハンドボール部で、アスリートと言うのも憚(はばから)れるレベルだった人間からすれば、全国大会に出ている選手全員がすごい人たちなんだよ。

宮司 そうですよね。

西岡 その舞台に立てる選手へのリスペクトは、常に根底に持っていないといけない。だけど、どうしても大きな視点で中継しようとすると失われてしまう部分もあって。全日本フィギュアスケート選手権が世界選手権の予選という視点になると、それは見えなくなってしまうものだから。

宮司 たしかに、そうですね。上位選手ばかりに目が行っちゃいます。

西岡 世界選手権の代表を決める舞台というのは忘れちゃいけないけれど、もうちょっと小さな視点で一人ひとりの選手に光を当てる。この2つの視点を持っていなければ、全日本フィギュアスケート選手権というのは、うまく伝えられない。下位の選手はどうでもいいというスタンスになるのが、一番よくないこと。勝った負けただけではないのが、フィギュアスケートの魅力だから。

宮司 そうですよね。順位にかかわらず一人ひとりにあるドラマを掬い上げられるようにがんばります。

西岡 僕も宮司も九州出身だけど、よくも悪くも宮司は九州の女性らしく努力家で、自分の努力に裏打ちされたことしか信じない。だから、一生懸命やっていると思うよ。

宮司 そう言われるとうれしい反面、もっと柔軟になりたいなと思ったりもしますね。普段はあまりゆっくりお話を聞く機会もないので、すごく勉強になりました。もっとデスクでお会いできることを期待しています!(笑) ありがとうございました。

Profile
西岡孝洋(にしおか・たかひろ) 

76年2月13日生まれ。
1998年フジテレビ入社。
佐賀県出身。血液型:A型。
入局以来、数多くのスポーツ実況を担当。フィギュアスケートには、2004年世界選手権のリポート、2004年全日本選手権の実況から携わっている。選手の細かな情報まで網羅した実況がファンにも好評を得ている。

宮司愛海(みやじ・まなみ) 

91年7月29日生まれ。
2015年フジテレビ入社。
福岡県出身。血液型:0型。
スポーツニュース番組『S-PARK』のメインキャスター。スタジオ内での番組進行だけでなく、現場に出てさまざまな競技にふれ、多くのアスリートに話を聞くなど取材者としても積極的に活動。フジテレビ系『東京2020オリンピック』のメインキャスターを務める。