次戦は全日本選手権に出場予定の羽生結弦

 12月5日からのグランプリ(GP)ファイナルではショートプログラム(SP)でミスをし、ノーミスの滑りで自己最高の110.38点を出したネイサン・チェン(アメリカ)に12.95点の大差を付けられた羽生結弦。フリーでは公式練習初日から跳んでいた4回転ルッツを組み込む4種類5本の4回転を入れる構成に挑戦したが、試合後には勝てると思っていなかったと明かした。

「4回転を1本増やしたからといってあの点差は縮まるものではないことはわかっていたし、ネイサン選手も4回転を5本跳んでくるのはわかっていた。難しいだろうなという感じはありました」

 4回転ルッツを入れて4回転を5本にする構成は、一応は用意していたものだった。だが練習した回数は少なく、通しでやったのは1回くらい。できればそれを使わないでおきたいという気持ちの方が強かった。それに対してSPで自己最高得点を出したチェンは、その後の公式練習での調子もよく、すべての4回転は外すことはないだろうと思えるジャンプをしていた。

 フリーで5番滑走だった羽生は最初の4回転ループと4回転ルッツはきれいに決めたものの、後半に入ると4回転サルコウを決めたあと、得点源の3本の連続ジャンプは相次いでミス。4回転トーループからの3連続ジャンプは最後の3回転フリップが回転不足になり、4回転トーループ+3回転トーループは4回転+2回転、最後に入れたトリプルアクセル+トリプルアクセルのシークエンスは、最初のアクセルがシングルになった。

 それに対してチェンは、予想どおり完璧な演技だった。3本目の4回転トーループからの3連続ジャンプの最後の3回転をフリップからサルコウに変えて、スケートアメリカとフランス杯で減点されていた後半の単発の4回転サルコウと4回転トーループも高い加点。スピンやステップもレベル4の滑りでフリー世界最高の224.92点を出すと、合計でも自身の世界最高得点を12点弱上回る、335.30点で圧勝した。

 羽生との得点差は43.87点。だがその差に関して羽生は、悲観する表情は見せていなかった。

「40点差と言われると『何本ジャンプを跳べばいいんだ?』という感じにはなるけど、今の採点方法が、細かいミスを続ければ続けるほどGOEの差がどんどん開いていって大きな差になる。降りたジャンプはたくさんあったし、とくに4回転ループと4回転ルッツに関してはかなり加点をもらっていたので、あとはきれいに降りるだけかなという感じもしています。

 それに、自分にとっては大きな得点源であるトリプルアクセルが(今回のフリーの演技に)入っていないということも、ものすごく大きい。あの構成をしっかり決めていれば、あとはショートでミスをすることなくもうちょっと得点を上げていれば、勝負になると思った。だから、そこは点数ほどの差は感じていないんです。

 ただ、それを試合でコンスタントにできるかと言えば別の話。それができるようになるには相当の努力をしなければいけないし、たぶんそれはネイサン選手もたどってきた大変な道だと思うので。自分自身もそれを最短のコースで、効率よくたどり着けるように練習しなければいけないと思います」

 羽生本人が今回の自身の演技を「ジャンプ大会のようだった」と表現したように、丁寧ではあっても少し抑えた滑りにしてステップがレベル3になったように、GOE加点も低かった。終盤のコレオシークエンスとスピン2本のGOE加点はスケートカナダより0.21点減。さらにスケートカナダではGOE加点を加えて20.90点にしていた4回転トーループ+1Eu+3回転フリップも、フリップの回転不足で13.35点と落ち込み、トリプルアクセルからの連続ジャンプで合計27.53点稼いでいた最後の2本のジャンプも、4回転トーループ+2回転トーループと、パンクしたシングルアクセルで15.05点に止まっている。その6要素で20.24点減になっている。

「ショートに関しては、『秋によせて』の曲の中での4回転トーループがうまくハマらなくて不安なので、そこをどうやって変えていくかというのを、ちょっと考えなくてはいけないと思います。あとはショートでも、ルッツがこのまま確率がよくなってくれたら入れる可能性もあると思うので。いろいろ楽しみながら強くなっていきたいと思います」

 羽生がチェンを上回るためには各要素のGOE加点で上回り、ノーミスの滑りで演技構成点もしっかり稼ぐことだ。さらにSPに4回転ルッツを入れて得点能力をさらに高めれば、そこでリードしてチェンにプレッシャーをかけることができる。

 フリーに関してはまだ確定ではないが、今回のルッツを入れた4回転5本の構成を「たぶんこれがベースになっていくと思います」とも話していた。ただそれは、勝負の時のための特別な構成ということだろう。そのために氷のコンディションを見ながら、SPやフリーに4回転ルッツを入れ、その確率をしっかり上げていく必要もある。さらに挑戦中の4回転アクセルというオプションもある。

 それに加え、基礎点が1.1倍になる終盤3本のジャンプに今回トリプルアクセル2発のシークエンスを入れようとしたように、連続ジャンプが1本のチェンに対して、トリプルアクセルを2本組み込み、3本すべてを高得点が獲得できる連続ジャンプにしようという強いこだわりを持つのも羽生の強みだ。

「4回転アクセルを含めた高難度のジャンプと、プログラムとしての完成度の両方を求めるというのは厳しいと思うし、それは僕も十分に承知しています。ただ、演技構成点に関しては、コンビネーションをもっと難しくしたりつなぎの部分をもっと増やしたり、スケーティングをもっと丁寧にして表現も高めたとしても、たぶん5点もらえるかもらえないかだと思います。だから、そこまでこだわり続ける必要があるのかと言われると、もしかしたら今日みたいにジャンプに集中して、全部でGOEを稼げるようにした方が点数的にはおいしいかもしれない。でもそれでは僕の中で、スケートをやる意味にはならないんですよね」

 熱を込めた表情で自身のこだわりを話した羽生は、記者会見で何度も「隣にいるネイサン選手がすばらしい演技をしなければ、こういう風に学ぶことができなかったと思うし、強くなろうと思うこともできなかった」と、チェンの存在に感謝する言葉を口にしていた。

 好敵手だと思うからこそ力を思い切り振り絞って、神経を削り合うような戦いをしたい。そんな思いが強烈にあるからこそ、羽生はさらなる進化を目指している。パトリック・チャン(カナダ)やハビエル・フェルナンデス(スペイン)に続く強力なライバルに今また出会えたことに、彼は感謝しているのだろう。