写真:宇田幸矢(木下マイスター東京)/提供:©T.LEAGUETリーグの見逃せない名勝負をラリーズ編集部独自の視点で解説する【T.LEAGUE 名場面解説】。今回は12月5日のノジマTリーグ・木下マイスター東京(以下、KM東京)VST.T彩…

写真:宇田幸矢(木下マイスター東京)/提供:©T.LEAGUE

Tリーグの見逃せない名勝負をラリーズ編集部独自の視点で解説する【T.LEAGUE 名場面解説】。今回は12月5日のノジマTリーグ・木下マイスター東京(以下、KM東京)VST.T彩たま(以下、彩たま)の一戦から、第3マッチの宇田幸矢(KM東京)と平野友樹(彩たま)の試合にスポットライトを当てる。

宇田は、昨年の世界ジュニアシングルス準優勝、今年の世界ジュニアでも混合ダブルスで優勝を果たすなど、戸上隼輔(彩たま)とともに同年代のトップをひた走る若手のホープ。サーブから3球目攻撃、チキータレシーブから4球目攻撃など、速攻が持ち味の選手だ。

対する平野は、2017年全日本選手権シングルスでは、張本智和に勝利し3位に入るなどの実績を持つ、社会人のトッププレイヤー。回転のわかりづらいYGサーブを武器とし、粘り強いラリーで得点を重ねる、ガッツ溢れる選手だ。

今回の試合では、宇田(KM東京)が平野(彩たま)に3-2で勝利したが、それは、宇田の超攻撃卓球vs平野の粘りの卓球という、両者の持ち味を存分に発揮した、見応えのある試合だった。そして、一本で流れが変わるという、卓球の怖さ、そして面白さが垣間見えた試合でもあったと思われる。

それでは、どのように試合が展開していき、どこが勝負のあやであったのか、両者の戦術に注目しながら紐解いていこう。

ノジマTリーグ 木下マイスター東京 対 T.T彩たま:宇田幸矢VS平野友樹

詳細スコア
○宇田幸矢3-2平野友樹
11-9/7-11/8-11/11-6/11-8

1. 緩急自在の平野、得意のYGサーブでチキータを封じる




図:平野のサーブと3球目のコース取り/作成:ラリーズ編集部

今回、宇田は、サーブからの3球目、チキータからの4球目で先手を取り、攻め切るということを徹底し、超攻撃卓球という自分の強みを全面に出して戦った。平野は、その宇田に対し、自分の卓球をさせないようサーブレシーブを組み立て、中陣からフォアドライブを打ち込み、粘り強く戦う姿勢を見せた。

第1ゲームを平野は落とし、第2ゲーム、順回転のサーブに宇田のチキータが合っていると見た平野は、中盤から、自身のサーブを得意の、回転の分かりづらいYGサーブに変更。宇田はそれに対し何本かチキータミスが出てしまう。そのチキータが入っても、平野は3球目を宇田のバックサイドに返球し、中陣のラリーに持ち込んだ。

第3ゲームも平野の作戦は変わらない。徹底してフォア前、たまにバックロングにYGサーブを出し、宇田の思い切ったチキータを防いでラリーに持ち込む。

そのラリー戦でも、宇田の前陣速攻を狂わせるため、あえて回転量重視の緩いドライブを打ち、宇田のカウンターミスを誘う。かと思えばチャンスボールにはしっかりスピードドライブを打ち得点する。自在の緩急を見せた平野が、持ち味の粘り強いラリー戦で終始リードを保ち、このゲームを奪った。

2. 宇田の思い切り、伝家の宝刀・チキータが蘇る




図:平野のサーブの配球と宇田のチキータコース/作成:ラリーズ編集部

勝負の第4ゲーム、平野がこれまでの作戦を徹底し、2-4でリード。ここで木下側がタイムアウトを取った。タイムアウト後の2本、ここで流れがガラリと変わる。

平野は、最も得点率の高いフォア前のYGサーブを選択する。安全に入れにいきたくなるこの緊迫した場面で、宇田は思い切って回り込み、チキータでフォアストレートへ返球し得点。宇田の思い切りの良さが存分に現れた得点だった。さらに次の1本、宇田はまたも強烈なチキータでレシーブ。それを返球した平野だったが、続く5球目をイージーミスで失点してしまう。

これで息を吹き返した宇田。苦しんでいたフォア前のYGサーブに対して自信を持ってチキータを狙い、ラリー戦でも平野の回転量重視のドライブをしっかり引きつけてカウンター。これまで失点していた展開を完全にカバーする。YGサーブ、緩急をつけたドライブが効かなくなった平野は、先手を取られ苦しい。

4ゲーム目を11-6で取った宇田の勢いは、5ゲーム目も衰えない。6-6から9-7とリードを広げると、ここで平野が、宇田の強烈なチキータを警戒し、質の高いサーブを狙いすぎたか、サーブミス。これで勝負あったか、最後は宇田が3球目攻撃を決め、ゲームセット。

宇田が勝負度胸を発揮し、超攻撃卓球で平野の粘りを振り切った。

まとめ

今回の試合、勝負を分けたのは、4ゲーム目、タイムアウト明けの宇田のフォアストレートへのチキータ、そして次の1本の平野の攻撃ミスだろう。そこから流れがガラリと変わり、勝負度胸を発揮した宇田は自身の超攻撃卓球を取り戻した。

敗れたとはいえ、平野の戦いぶりも見事。ボールのスピードや打点の早さでは劣る平野だが、得意のYGサーブ、そして緩急をつけたドライブでの粘り強いラリーで宇田の卓球を封じ、勝利にあと一歩まで迫った。

持ち味を存分に発揮した両者は、これからどのような進化したプレーを見せてくれるのだろうか。宇田の勝負度胸、平野の粘り、双方に注目しながら試合を観戦するのも面白いかもしれない。

文:ラリーズ編集部