11月23日、真駒内アイスアリーナ。その脇にある体育館を仕切ってあつらえた会見場に、アリョーナ・コストルナヤ(16歳)はひとりだけ遅れて入ってきた。



NHK杯で優勝したアリョーナ・コストルナヤ

 昨シーズンのグランプリ(GP)ファイナル王者である紀平梨花(17歳)、世界選手権女王であるアリーナ・ザギトワ(17歳)のふたりを、壇上で待たせることになった。暫定的に始まった会見の途中で到着したコストルナヤは、無邪気なのか、豪胆なのか―−−。大会王者として中央にゆっくりと座ると、スマートフォンのカメラを起動させ、左横に座るザギトワの表情を楽しそうに撮影した。

「目標? 私はいつも同じよ。美しく綺麗に滑りたい。自分自身も、観客のみなさんも幸せになるように」

 質問を受けたコストルナヤは、やや冷たいほどの笑みを浮かべ、そう言ってのけた。本心で言っているのか、あるいはメディア対応を訓練されているのか。いずれにせよ、勝者の自信に満ちていた。

 NHK杯、コストルナヤはまずショートプログラム(SP)で紀平が持っていた世界最高得点を更新し、ど肝を抜いている。快挙にもかかわらず、その表情は大して変わらなかった。膨大な練習量に自信があるのか、結果に対して一喜一憂がない。

<そんなに驚かないでよ>

 そう言って諭すような、どこか達観した空気をまとっている。

 事実、フリーも落ち着いていた。序盤のトリプルアクセルは得点を稼げなかったが、プログラム自体が崩れることはなかった。3回転フリップ+3回転トーループのコンビネーションジャンプでは10点台をつけただけでなく、GOE(出来ばえ点)も2.27点を稼いでいる。完璧に近い出来で、失敗したトリプルアクセル以外はすべてのジャンプで多くの加点がついた。ロステレコム杯でアレクサンドラ・トゥルソワが叩き出した世界最高の合計点に次ぐスコアだった。

――トリプルアクセルのミスのあとも冷静でしたね?

 記者からの質問に、彼女は胸を張って答えている。

「ひとつのミスが、次の演技に影響を与えるなんてありえません。そこにこそ、シニアとジュニアの差(がある)。気持ちを切り替えられますよ」

 シニア1年目とは思えないほど、老成した物言いだった。棘というか、毒気こそ感じさせる。しかし、離れがたい魅力も放つのだ。

「トリプルアクセルの(失った)3点があったら、世界記録が出ていたかもしれません。でも、それは出ていないので。(仮定の話に)コメントは控えるわ」

 コストルナヤは簡潔に言った。彼女にとって、「たら・れば」などなんの価値もない。勝利の算段を緻密に立て、それを実務的にやり遂げた。それがすべてだ。

 大会を通して、コストルナヤはどこか超然としていた。16歳にはとても見えない。開幕の前日練習では、むしろジャンプはアクセルで転ぶなど不調に見えたが、限界でも探っていたのか。仕上がりは格別だった。ロシアのクラブの同門で”新種”の選手のように4回転を跳ぶトゥルソワ、アンナ・シェルバコワより、滑りは大人びている。その完成度の高さは、むしろザギトワに近いだろうか。

「コストルナヤ選手は、トリプルアクセルも飛べるし、コンビネーションジャンプがすばらしい。安定感があって、どのジャンプも加点がつく。(彼女と)比較して、自分もまだまだ伸ばしていきたいなって思いました」

 紀平はフリーの演技後、コストルナヤについてそう語った。刺激を受けるライバルなのだろう。

 一方、自分への賛美を、コストルナヤ自身は手元のスマートフォンを気にしながら聞いていた。

「シーズンが始まる前は、このような結果(グランプリシリーズのフランス杯、NHK杯で優勝)を少しも予想していませんでした。ただ、自分を、自分の演技をみなさんに見せたかっただけで」

 殊勝に言ったが、負けることなど考えていなかったように映る。それを裏付けるような一幕があった。

「もう、足が疲れちゃったの。早めに終わってください」

 テレビのインタビューを受けたあと、ペン記者の対応をする前に、平坦な声で通訳にそう伝えていた。NHK杯の優勝は、一つのプロセスにすぎないなのだろう。12月、イタリアのトリノで開催されるGPファイナルで頂点に立つために。もっと言えば、そのスケーティングを歴史に残すためだ。

 もっとも、”鋼鉄の女の子”というわけではない。

「シニアでは1年目なので、SNSで騒がれることもなくて。落ち着いて滑ることができました。続けてきた練習の演技を出せて、プレッシャーに負けなかった」

 当たり前だが、周囲の評価は気になるのだろう。大勢の記者に囲まれながら、取材を受けるときは、大きなぬいぐるみをお腹に両手で抱えていた。キャラクターの足をこちょこちょと動かし、気持ちを落ち着けているようでもあった。

 しかし、コストルナヤには大志がある。自分がどんな演技をして、それが観客を幸せにできたか――。歴史に名を刻むスケーターになるのだ。