11月16日・17日、千葉県成田市で女子レスリング・ワールドカップが開催された。今回18度目となる国別対抗団体戦で、日本は大会5連覇、11回目の優勝を達成。東京オリンピックを9カ月後に控え、あらためて「世界最強ニッポン」を国内外にアピール…

 11月16日・17日、千葉県成田市で女子レスリング・ワールドカップが開催された。今回18度目となる国別対抗団体戦で、日本は大会5連覇、11回目の優勝を達成。東京オリンピックを9カ月後に控え、あらためて「世界最強ニッポン」を国内外にアピールした。

 大会後、笹山秀雄女子強化委員長は「オリンピックでは全階級で金メダルをとるつもりでいる」と豪語。しかし、階級ごとに見れば、明暗の分かれる結果になったと言えるだろう。



今年8月の世界ジュニア選手権でも圧倒的な強さで優勝した須崎優衣

 今回出場したなかで唯一のオリンピック経験者であり、キャプテンとしてチームを牽引した57キロ級・川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)は、世界選手権3連覇の実力を存分に発揮。姉妹同時オリンピック出場の夢を叶えた妹の62キロ級・友香子(至学館大)も今大会で成長ぶりを実証してみせた。

 だが一方で、東京オリンピック代表内定の53キロ級・向田真優(至学館大)、リオデジャネイロオリンピック金メダリストの68キロ級・土性沙羅(東新住建)は、体調不良や調整不足などを理由に欠場。また、北京オリンピックの浜口京子(ジャパンビバレッジ)以来となる重量級メダル獲得が期待される76キロ級・皆川博恵(クリナップ)は、準決勝の中国戦、決勝のアメリカ戦でまったく歯が立たなかった。

 そんななか、今大会で最も躍動感あふれる戦いを見せてくれたのは、今年6月で20歳になった50キロ級・須崎優衣(早稲田大)だ。

 須崎はリオデジャネイロオリンピックの翌年、伊調馨(ALSOK)以来となる高校生18歳で世界チャンピオンとなった。2018年も世界選手権を連覇し、東京オリンピックの”新星”として名乗りを上げた。

 同年12月に行なわれた全日本選手権の直前、3階級も上の選手とのスパーリングでひじのじん帯を損傷する。だが、今年6月の全日本選抜選手権で復帰すると、1回戦で全日本チャンピオンの入江ゆき(自衛隊体育学校)を破り、決勝でもリオデジャネイロオリンピック金メダリストの登坂絵莉(東新住建)にテクニカルフォール勝ち。東京オリンピック出場の夢を、グッと手もとに引き寄せた。

 だが、本人いわく、「オリンピックへの道は、そんなに甘くなかった」。

 7月に行なわれた世界選手権の代表決定プレーオフ。勢いは間違いなく、須崎のほうにあった。このプレーオフで入江に勝って世界選手権の切符を掴み、そのまま五輪内定を獲得する青写真を描いていた(世界選手権でメダルを獲得した選手に五輪内定が出される)。

 しかし、まさかの敗北……。この瞬間、レスリング関係者は当然のように入江が世界選手権でメダルを獲得し、五輪内定を獲得すると思った。

 夢を絶たれた須崎は2日間、泣きくれたという。だが、3日目、須崎は練習を再開した。

「早稲田の仲間、王子(JOCエリートアカデミーに入校以降、練習拠点としてきた安部学院高の場所)の仲間に、『まだ内定が決まったわけじゃない。 あきらめるな!」と励まされて、たとえ0.01%でも可能性が残っているなら、自分は前へ進まなくてはいけないと」

 そんな須崎に9月17日、朗報が飛び込んできた。

「入江、世界選手権で3回戦敗退。メダルに届かず」

 レスリングにひたすら打ち込む須崎を、天は見はなさなかった。須崎は決意を固めた。

「奇跡のようなこのチャンス。絶対に私がモノにする」

 今回のワールドカップ、生き返った須崎は誰よりも輝いた。

 準決勝の中国戦、須崎は世界選手権で入江を投げ飛ばして大量点を奪った孫亜楠(スン・ヤナン)を撃破する。さらに決勝のアメリカ戦でもホワイトニー・コンダーをまったく寄せつけず、3分17秒テクニカルフォール勝ち。出場した2試合ともトップバッターとしてチームに勢いをもたらし、優勝に導いた。

 入江が世界選手権で五輪内定を獲得できなかったため、50キロ級の代表争いは再スタートとなった。須崎が夢を叶えるためには、まずは、12月19日~22日に行なわれる全日本選手権を制して日本代表となり、来年3月のアジア・オリンピック予選で出場権を獲得しなければならない。

 入江は今回、ワールドカップを欠場。理由は「右手首の腱鞘炎のため」と発表されたが、12月の全日本選手権に向けて照準を合わせていることは間違いないだろう。

 須崎には、吉村祥子日本代表コーチがエリートアカデミー時代から一貫して指導している。だが、入江の所属する自衛隊体育学校にも、同じく日本代表チームのコーチを務める冨田和秀がいる。加えて、ロンドンオリンピックで金メダルに輝いた小原日登美も指導する体制だ。

 さらに入江は、7歳から九州共立大卒業まで師事してきた同校の辻栄樹監督のもとでも練習を積んでいる。世界選手権での屈辱から巻き返しを図るべく、基本を徹底的に磨いているという。

 近年、須崎を倒したのは入江しかいない。10-0のテクニカルフォール勝ちを収めたこともある。全日本選手権で入江が狙うは、7月のプレーオフの再現だろう。

 日本女子レスリングの最軽量級は、アテネ大会と北京大会で伊調千春が銀メダル、ロンドン大会で小原日登美が金メダル、リオデジャネイロ大会で登坂絵莉が金メダルと、すべてのオリンピックでメダルを獲得している。オリンピック出場権も4大会すべて、前年の世界選手権で奪取してきた。

 だが今回、初めて世界選手権で出場権を逃してしまった。それも、全6階級で唯一。

 50キロ級の試練はまだまだ続く。だが、このハイレベルでの切磋琢磨がオリンピックで金メダルという形となって実を結ぶはずだ。はたして、東京オリンピックへの出場権を掴むのは、須崎か、入江か--。