国内最大のボルダリングコンペ、THE NORTH FACE CUP(ザ・ノース・フェイス・カップ/以下、TNFC)。特集第3弾では、大会発起人である平山ユージ氏に話を伺い、その歴史を紐解いていく。また、9・10月に終了した予選ROUND5・6の模様もお届けする。

きっかけは1998年、W杯年間優勝の恩返しだった

 近年は2,000人以上もの参加があるTNFCだが、その誕生は前身大会も含め、平山氏がリードW杯で初の年間優勝に輝いた1998年までさかのぼる。

 日本人初の偉業を成し遂げた“世界のヒラヤマ”は、多くの方からのサポートに「みんなに楽しんでもらえるような形」での恩返しがしたいと考えていた。アイディアはあった。W杯で各国を転戦する中で着目していた、自らの身一つで登るボルダリングの大会だ。

 当時のクライミングコンペはリードが中心。日本でもシリーズ戦である『ジャパンツアー』が大きな存在感を放っていた。しかし、「ヨーロッパで出始めていたボルダリングツアー。それが非常に面白そうだった」と、自身の主戦場ではないボルダリングに可能性を見出していた。

 「リードとはまた違う、クライミングの魅力に触れてほしい」。何かを還元できるとしたら、自分が取り組んできたものとは違うジャンルではないか。そう感じていた平山氏は、帰国後に『クライミングジム セブンエー』(東京都・八王子市/現在は閉店)が主催するボルダリングコンペにセッターとして関わる機会を得る。

大会とは、会場全体で優勝の瞬間を分かち合うもの



 まだまだボルダリングコンペが産声を上げたばかりの時代。そのような状況下で、大会にコンセプトなるものはあったのか。

 「“一体感”を僕は推していきたかった」

 当時のボルダリングW杯は、今と違い予選も決勝もベルトコンベア方式(※)。複数の選手が同時に課題にトライするこの方式では、順位を把握しづらい難点がある。

※同じ制限時間の競技と休憩を交互に繰り返しながら、選手が次から次に登場する競技方式。今でもボルダリングW杯では、この通称“ベルコン”が予選・準決勝で採用されている。

 「観ていても、誰が1位なのかがいまいち分かりづらかった。瞬間的に沸きあがる一体感のようなものが全くなかった。大きな感情の波が押し寄せてきて、選手と観客、会場すべてが優勝の瞬間を分かち合う。僕は、大会とはそういったものだと感じていた」

 ボルダリングコンペに対する問題意識を抱えていた平山氏だったが、大会をともに運営することになった“プロレス好き”の仲間からサドンデス方式を提案されることで新たなポテンシャルを見出していく。

 ここでいうサドンデスは、課題が進むごとに人数が絞られていく方式を指す。現在のTNFCでは最も白熱する最上位カテゴリー男女Division 1の本戦決勝で採用されている。第1課題6人→第2課題4人→第3課題2人となり、トップクライマーによる1対1の最終決戦は、TNFCの醍醐味にもなっている。

本戦決勝は成績の付け方も独特。複数課題の「完登数」と「ゾーン獲得数」で主に争う公式戦とは大きく異なり、1つの課題に対し制限時間内に「どこまで進むことができたか」で順位を決める。

 この方式だと、リザルト表を追いながら優勝者を判断する必要もなく、結果も単純明快だ。

 「非常にわかりやすく、そして面白い。2人の登りを見るだけで、勝負がほぼわかる」と、さっそく導入した1998年の大会で手ごたえを得た平山氏。「観る人もやる人も、とにかくみんなが盛り上がった。会場が、『あいつがチャンピオンだ』って、称えてくれる。選手も喜んでくれる」。

 さらに、「選手1人が登るのは小さなスペースだけれど、映像化されればかなり魅力的。演出面も総合格闘技と通ずるところがあった」と、平山氏は当時ブームを迎えていたK-1やPRIDEといった総合格闘技とボルダリングコンペを重ね合わせ、その未来を思い描いた。

 順調に参加者も増えていった2000年。「これはもっと大きくしていかないといけない」と感じた平山氏は、自身のスポンサーであるTHE NORTH FACEに声を掛ける。その返事は、「単発ではなく、長く続けるならば」という条件だった。心強いパートナーを得て、2001年1月から第1回『THE NORTH FACE CUP』がスタートしたのである。

増加するエントリー数、開催地変更

 今では全国で予選ROUNDを実施し、『Climb Park Base Camp』(埼玉県・入間市)で本戦を行うフォーマットがおなじみとなっているが、そこに至るまでの過程についても少しご紹介したい。

 年々参加者が増加していったTNFCは、その後会場を「当時日本で一番大きなジム」だったという『ストーンマジック』(神奈川県・相模原市)へと移し、継続される。

 しかし、それでも増える一方のエントリー数にキャパシティが追いつかなくなってしまい、2007年で大会は一時休止に。そこに助け舟を出したのが、クライミングを通して出会った仲間たちだった。

 「『クライミングジム プロジェクト』(神奈川県・横浜市)のオーナーである佐々木さん、小山田さんが、地区予選という形にしてもう一回やろうよ、と声を掛けてくれた」。

 各地のジムも快く開催を承諾し、2009年にTNFCは再開。予選は全国7つのジムで実施となった。そして、予選を勝ち抜いた選手のみが出場権を得るられる本戦もここから始まった。

 本戦は、今では想像もできないかもしれないが、屋外での実施だった。岐阜の有名な岩場である瓢(ふくべ)に仮設ウォールを建てて行われたのである。しかし、天候の問題など、アウトドアで開催する難しさもあり、またも一時休止に追い込まれてしまう。

 だが、2010年に平山氏によるクライミングジム『Climb Park Base Camp』が開業。そのオープニングコンペが成功裏に終わったのち、今ではTNFCでも中心的存在となっている杉田雅俊が「TNFCを『Base Camp』でやりませんか」と、またも声を掛けてくれたのだった。こうして新たな“ホーム”を手にしたTNFCは、2011年に再スタートを切り、現在へと至るのである。

これからの「THE NORTH FACE CUP」

 近年は「若い世代に任せていきたい」と、セッターなど運営面での関わりは少なくなってきたものの、今でもMCとして各ROUNDに足を運んでいる平山氏。TNFCの変遷とこれからについて、どう見ているのか。

場内MCなど、“大会の顔”として長らくTNFCをけん引してきた平山ユージ。Division 4からステップアップしてきた様子をよく覚えているという原田海(左)とは、2018年大会のDivision 1表彰式で並び立った。

 「今でこそ、国内のトップ選手たちはW杯や世界選手権といった国際大会を大きな目標として動いていますが、僕らがTNFCを始めて最初の数年は、今でいうジャパンカップ以上に日本のトップ選手が集まるような大会だった。そこから国内でも公式大会の整備が進んだ今、TNFCはそのトップレベルに至るステップアップの過程を担っているんだと思います」

 「ただし、その中でも『優勝者をはっきりと瞬間的に共有できる、みんなで盛り上がれる』という根本的なところは、ずっと維持できていると思いますね」

 今後について、平山氏はグローバルな展開を期待する。もともと、海外とのつながりには積極的だ。「国内外のトップ選手たちによる“祭典”というところでも、公式戦とは違ったテイストがある」と説明する通り、TNFCは例年本戦のゲストとして各国から強豪クライマーを招待している。2019年大会にはオーストリアのレジェンド、キリアン・フィッシュフーバーらが参加した。

 近年はシンガポールや香港などの大会と提携。その優勝選手が本戦のDivision1,2に参加できる形をとっており、それが一つの方向性だという。

 「クライミングは、文化や習慣が異なっていても、言葉がなくても、クライミングを通してつながることができる。そういった魅力を、アジアの国々とつながっていくことで発信していきたいですね」 

TNFC2020のROUND5、6が開催

 ここからは、来年3月に本戦が予定されているTNFC2020の予選の様子をご紹介。ROUNDは順調に進行しており、9月28日には「Base Camp Tokyo」でROUND 5が、10月13日には「Play Mountain! 名古屋IC店」でROUND 6が開催され、全13会場のうちおよそ半分が終了した。

 ROUND6には、タイからの参加となったAueareechit AuswinがU-12カテゴリーに出場して3位。見事に本戦行きを決めている。

Base Camp TokyoでのROUND 5には165名がエントリー。関東圏を中心に集まった多くのクライマーが日頃の努力の成果を披露した。



Play Mountain! 名古屋IC店でのROUND6には、台風19号の影響で一日順延となったものの、154名が参加した。



 今回も、ROUNDごとに印象的な活躍をみせた一般参加の選手たちを独自にピックアップ。その声をご紹介する。

【ROUND5/Base Camp Tokyo】

ともにWomen’s Division 3の10課題をすべて完登し、本戦出場を決めた(左から)長嶋百香、武石初音。

Women’s Division 3/1位タイ:長嶋 百香
「初めてのTNFCで少しドキドキしていたけど、自分の登りが出来たので良かったです。(クライミングを始めたのは?)去年の夏からです。スラブとか、自分が得意な部分を重点的にやったり、ホームジム以外のジムのホールドも触りに行ったりして練習してきました。そのおかげでスラブは一撃することができました。本戦では最後まであきらめず、決勝に残れるように頑張りたいです」

Women’s Division 3/1位タイ:武石 初音
「去年はU-12で出場してゾーン差でライン下(で予選落ち)だったので、今年は通過できてよかったです。会場に下見に来たり、苦手な動きの課題をホームジムの人たちに作ってもらったりして練習してきました。特にコーディネーションの課題でその成果を出せたのがすごく嬉しかったです。本戦では、まずは準決勝までは進んで、しっかり落ち着いて一個一個こなしていって、決勝にもいきたいです」

【ROUND6/Play Mountain! 名古屋IC店】


U-12/1位:栗田 そら
「去年はギリギリ予選落ちてしまったので、今年はやってやるぞという気持ちで臨みました。今回は難しい課題が一撃できてよかったです。ヒールとか、固めるのが苦手なので、それを中心に頑張ってきました」


U-12/3位:Aueareechit Auswin(タイ)
「とても楽しめました。去年(TNFC2019)も参加していて、その時はOD小倉ROUNDで4位でした。このROUNDに向けて、パワーをつけるようなトレーニングや、バランス感覚を鍛えるよう取り組んできました。もっとたくさんトレーニングを積んで、本戦に臨みたいと思います」

(上記ページ内下部にある各ROUNDを選択)

CREDITS

取材・文

編集部 /

写真

大杉和広 /

協力

THE NORTH FACE CUP 2020