東洋大の絶対的エースに成長している相澤晃 東海大の両角速(もろずみ・はやし)監督は、全日本大学駅伝を優勝で終えられた要因を「5区を走った市村朋樹が、東洋大の西山和弥くんを逆転できました。それが以降の選手たちに、優勝しなければいけないというも…



東洋大の絶対的エースに成長している相澤晃

 東海大の両角速(もろずみ・はやし)監督は、全日本大学駅伝を優勝で終えられた要因を「5区を走った市村朋樹が、東洋大の西山和弥くんを逆転できました。それが以降の選手たちに、優勝しなければいけないというものを印象づけたと思う。それが大きかったです」

 そして、8区の名取燎太の快走で優勝を決めた。4年生のエース級4人を起用できない状態ながらも、今年の箱根駅伝を制した東海大が層の厚さを見せつける結果となったが、箱根駅伝へ向けては、ライバル校もそれぞれ底力の片鱗を見せる、面白い展開だった。

 その先鞭をつけたのは東洋大。酒井俊之監督が勝負をかける区間にしたのは3区だった。学生ナンバーワンと評される相澤晃(4年)を配置してレースの主導権を握る作戦だった。相澤はその期待どおりの快走を見せた。

「監督とは10kmを27分台で入ると話をしていたので、最初の5kmは13分50秒くらいかなと思っていました。出雲駅伝の時は調子が悪くて5kmを14分10秒でしかいけず、東海大の塩澤(稀夕)くんにつかれてしまったので、今回抜く時は、ダッシュをしてつかれないようにしました。

 それで自然にタイムが速くなって、2kmで早稲田大の中谷(雄飛)くんを抜いた時にタイムを見たら1km2分40秒だったので、『今日は(体が)動くな』と思ってそのまま行きました。先頭とは40秒差でタスキをもらった時には見えていたので、前半でトップに立って後半は我慢だと思っていました」

 こう話す相澤は、5kmを13分42秒で走って中間点を少し越えた6km過ぎでトップに立つと、10kmを27分47秒で通過。11.9km区間を、前回東海大の舘澤享次が出した記録を1分8秒も更新する驚異的な区間新で走り抜けた。

 続く4区は、箱根6区のスペシャリストで区間新を狙う今西駿介(4年)が、東海大に13秒詰められたが、区間2位でしっかり走った。5区に起用されたエースのひとりの西山和弥(3年)は、酒井監督が「足の痛みがまだ少し残っていて練習が足りず、スタミナがない」という状態で、7km過ぎから東海大の市村に一気に詰められて逆転された。さらに6区でも差を広げられると5位に落ちた。

 それでも7区では、好調を買われて起用された定方駿(4年)が区間2位の走りをした。箱根では、5区を志願している8区の宮下隼人(2年)は、酒井監督が「ハーフマラソンはまだ関東インカレだけで、速いハーフの経験が足りなかった」と言うように、スタートから前を追わなければいけない展開になったことで後半は失速し、順位を再び5位に落としてしまった。

「西山の調子が悪くても使わなければいけなかったというのは層が薄いということ」と言う酒井監督だが、西山も箱根では1区で2年連続区間賞獲得と勝負強さはあるだけに、これからきっちり仕上げてくるはず。

 それに加え、箱根へ向けては定方が往路で使える目途が立ったことは大きい。「その時の調子が如実に出る5区と6区で予定より2分遅かったものの、それがなければ東海大の前でアンカーに渡せていたかもしれない。これで吉川洋次(3年)が戻ってくれば、復路にも厚みを出すこともできる。定方の成長と吉川の復帰は去年にないもの。あとは2区を走った山本修二の代わりを作らなければいけない」と酒井監督が言うように、箱根の戦いも見えてきた。

 一方、出雲駅伝では最終6区で国学院大に逆転されて2位だった駒澤大も、「勝負区間」と自信を持っていた長距離区間の7区と8区が機能して、6区終了時点の8位から3位まで順位を上げるしぶとさを見せた。

 1区の中村大聖(4年)については「(6区を走った)出雲ではよくなかったが、一斉スタートの1区なら何とかすると思った」と大八木弘明監督が言うように区間2位の走り。2区の小林歩(3年)も区間5位ながら2位を守る走りをしたが、心配していた3区の神戸駿介(3年)が足首をひねった影響もあって順位を10位まで落とした。それでも5区の中村大成(4年)が区間6位、6区加藤淳(3年)が、区間4位の走りで8位まで盛り返すと、出雲の3区ではラスト勝負で相澤に競り勝った1年生の田澤簾が、「練習を見ていて(勝負は)17kmと思っていた」と大八木監督が言うとおり、7区を区間賞獲得の走りで4位まで順位を上げ、その大器ぶりを見せつけた。さらに8区の山下一貴(4年)も区間3位と成長を見せた。

「3区と4区がうまくいけば優勝争いもできたが、田澤と山下がエース区間を走れそうな雰囲気が出てきて(箱根の)往路に目途が立ったのが収穫。あとは中間層の選手たちがしっかりやるのと、山の上り下りがちゃんとしてくれば、箱根は面白いレースができるかなと思います」と大八木監督は笑みを浮かべる。

 青学大は、4区の鈴木塁人(4年)が貧血で本来の走りをできず、3区の神林勇太(3年)も区間9位と中盤では8位まで順位を落としてしまった。原普監督は7区を区間2位で東海大に2秒差をつけて先頭に立った吉田圭太(3年)に「あそこで30秒突き放す力がないと、本当のエースとは言えない」と苦言を呈したが、5区からはそれぞれ区間上位の記録でしっかり追い上げて一度はトップに立ち、最終的に2位でゴールしたのは総合力の確かさを見せつける結果だった。

 今回の結果から箱根を見れば、4年生の主力4人を残している東海大の優位は崩れないが、それを追う3校もそれぞれの強みは見せられた。それをうまく出していけば年明けの箱根も、スリリングな戦いが楽しめそうだ。